Architecture
門型を連ねて生まれた家ミニマルながら
豊かなニュアンスを秘めた空間
心地のいいものだけに囲まれて過ごしたい
建築家へはかなり細かいところまでリクエストを出したが、「光が気持ち良く入ることと、風通しがいいことがまずいちばんでした」と話すのはK邸の奥さん。
また、夫婦ともに「面積的には広くなくてもよくて、家族が住むのに必要な分が確保できればいい。けれども、空間の質や自分たちが好きなものにこだわって心地のいいものだけに囲まれて過ごしたい」という思いがすごく強かったという。
自分たちにとっては、ヴィジュアル的な部分のプライオリティがとても高いと話す奥さん。
手入れがしやすいとか掃除がしやすいといったことよりも、とにかく目に入るものが美しくて気持ちがいいということのほうが優先度が高いため、自分たちの好きなテイストをしっかりと建築家に伝えていったという。
予想外だった門型案
そこで建築家の西村さんから出てきた案は、高さと厚みの異なる箱を前後に並べたものだった。別の言い方をすると、それぞれの箱の中央部分は奥に向かって抜けているため、門型を連ねた案ということになる。
リクエストを出した際には「有名建築家のこの作品」というように具体的に提示するほど、夫妻ともに建築が好きで知識も少なからずあったが、この案は予想外のものだったという。
「最初に、玄関、リビング、ダイニング、予備室の順に箱を重ねたようにすると聞いたときに、すごく素敵だなと思って。全体の面積が限られたところで部屋数がいくつほしいというようなお話もしていて、間取りもある程度決まってしまうのではないかと思っていたら予想外な提案が出てきたので、それはすごくウエルカムで面白いなと思いました」
実際に住んでみると、内部の開口位置が右左にずれていることによって奥行きが感じられ、まったく狭く感じないという。
豊かなニュアンスをもつ空間
空間のヴィジュアルの部分に強くこだわったというK夫妻。空間は一見、ミニマルでシンプルな印象だが、体感はそうではなく、とても豊かなニュアンスを感じ取れる空間だ。
まずはリビングからダイニングの奥にある予備室までそれぞれの部屋の質が一様でなく、変化に富んでいる。光が空間の高さと広さ、開口が設けられた高さと向きによりずいぶんと異なり、部屋を移動するだけで自然に気分も変わるのである。
白く塗装をした上で微妙に表面を削って木の色味を少し出している。ランダムに塗装をしたようにも見えるが、これによって質感が出て奥行き感も増し、空間も広く感じられるという。
「玄関のところにカーテンを1枚上からかけようというのをご提案いただいたんです。それだけですごく雰囲気が柔らかくなるというお話でした。そのほかのカーテンは引っ越しをしてから夫と2人ですべて決めました」
詩的な家
「夫は詩的な家が出来上がったねって言って」と奥さん。この「詩的」という言葉、すごく繊細で言葉では表現しにくいようなものの積み重ねだけれども、肌ではしっかりと感じられる…空間から受けた印象から、そのような意味に理解した。
「自分たちのライフスタイルに本当にぴったりの空間」とは奥さんの表現だ。違和感なく空間とお互いになじんでいるように感じるという。「引っ越し当初から居心地が良かった」とも。まさにお2人の世界観にぴったりの空間を手に入れた、と言っても誇張にはならないだろう。
設計 西村幸希建築設計
所在地 東京都世田谷区
構造 混構造
規模 地上2階地下1階
延床面積 66.42m2