Architecture
どこにいても自由で楽しい家4面すべてガラスの開放空間に
鎌倉の空気感を取り込む
テントをかぶせる
建築家の石井さんが自邸を建てたのは、鎌倉駅から歩いて10分ほどの山側の緑に囲まれた敷地。古都らしく、ちょっとしたところにも脈々と受け継がれてきた美意識のようなものが感じられる空気感が好きで、鎌倉は石井さんが以前から住みたいと思っていた街だった。
自邸は、周囲の自然とともにこの空気感を丸ごと感じられるようなものにしたいと考え、設計ではそれをいかに取り込むかがメインのテーマになったという。
そして出てきたのが、その空気を切り取ってテントをかぶせるというイメージ。2階を4面とも全面ガラスにし、方形屋根をテントとみなしてその上に浮かすというアイデアで、この家のデザインの核の部分が決まった。
天井は漆喰仕上げに
2階の白い天井はテントをかぶせただけというイメージそのままの軽やかさが印象的だが、設計途中でいったん木に変更したものを初期案の漆喰仕上げに戻したのだという。
「最初は漆喰にしようと思っていたのを、模型で何度も白い天井と木の天井を見比べて木に変えたんですが、現場で再度検討したところ木の質感が重くなりすぎて浮遊感が感じられなかったため、結局、元の漆喰に戻しました」
陰影のある空間
石井邸ではまず、この軽やかな天井のもと四方に向けて開放された2階の空間の心地よさに引き付けられるが、この2階とは対比的につくられた1階の空間も特徴的なつくりで魅力のある空間になっている。
客を招いての食事会も行う2階とプライベート空間をまとめた1階とでは明るさがきわだって異なる。特にベッドの置かれたコーナーは、昼間でもかなり暗め。1階では全体的に光量を押さえて、鎌倉らしい陰影のあるしっとりと落ち着いた空間をつくろうと考えたという。
自由な回遊空間
この1階は真ん中のウォークスルークローゼットの周りをぐるりと回遊できるつくりになっている。回遊空間は石井さんが日ごろから設計のテーマとしているもので、この家のためだけに考えられたものではないが、この空間はまた街路をイメージして設計したものでもあるという。
空間の幅を変え、段差もつくりつつ、片や床から40cmの部分に小さな開口を開け、片やテラスに面した開口は大きく開けるといった具合に空間に変化をつけた。場所ごとに異なる印象を与えると同時に、たとえば段差の部分に椅子がわりに腰掛けることができたりと、使い方を限定しない自由さもあわせもっている。この自由な感じをヨーロッパでよく見かける街路にたとえているのだ。
どこもかしこもお気に入り
「お風呂もすごく気持ちがいいし、1階のテーブルのあたりも風がよく通り、涼しくて気持ちがいい。2階の床に寝転んでの昼寝も気持ちが良く、テラスに出て座っていると気持ちが良くてそのまま寝てしまう。どこもこんな感じなので、どの場所がいちばんとは限定できないですね」
大胆なアイデアのもと隅々にまで創意を尽くしてつくられたこの自邸は、周囲の緑も含めた経年変化により、また違った味が出てきそうに思われた。
取材では話題にしなかったが、当然のこと、そこまでも周到に計算して設計されているのではと勝手に推測した。
設計 石井秀樹建築設計事務所
所在地 神奈川県鎌倉市
構造 鉄骨造
規模 地上2階
延床面積 95.22m2