Architecture
アートを身近に感じる暮らし色や素材、形の合わせ方に
自分流を詰め込んで
旗竿敷地を有効的に
都心の人気エリア。店舗の設計やプロダクトのデザインなどを手がける宮崎哲さんと、インテリアやアートの空間コーディネートを行う奥様の優子さんは3年程前にこの土地を購入。
「事務所を兼ねたかったので、小さくてもいいから利便性の高い土地を探しました。旗竿敷地なのですが、シンプルな四角い箱を積み上げていくイメージで設計すれば、いけるかなと考えました」。
車1台分強の間口の向こうに、ひっそりと建つ白い箱は、シンプルでいながらどこか人目をひく佇まい。「住宅のデザインも行ったことがあるので、図面は自分で起こして工務店に依頼したんです。色んな仕事に携わってきて、一度は自分の家を創りたい、と思ったのが一戸建てにした理由ですね」と哲さん。
完成したのは1年3カ月程前。土地購入から長い時間をかけて、プランニングしていった。
明るさを取り込んで
「22坪程の土地なので、地下を掘るか上に積み上げるか、をまず考えました」。1階の事務所はフロアの一部を一段下げて天井高を確保。
黒いスチールの本棚は、仕事で付き合いのある金物屋さんにオーダーして、壁面いっぱいに設置。「ファイル入れは事務用の既製品の箱なのですが、黒で統一することによってハードな感じが出せますね」。階段の手すりや、窓枠などもすべて黒で統一され、白い空間を引き締めている。
「できるだけ光を取り込んで、室内を明るくしたい、というのが第一の希望でした」というのは優子さん。2階のリビングにはいちばん大きな窓を取り付けた。「奥まった土地なので心配だったのですが、思ったよりも明るくなりましたね」。
「ファサードから見てもバルコニーは要らない」というデザイン上の計算もあり、バルコニーの代わりに屋上を設置することに。その分広くなった2階は、リビング、ダイニング、キッチンがワンフロアでつながって、明るく開放感がある。
異なるテイストをミックス
「お料理が好きなのでキッチンも色々とこだわりました」。シンクは壁側とアイランドに2カ所。コンロは“かまどさんでご飯を炊きたくて”、ガスとIHを2つずつ設置した。ドイツのGAGGENAUのバーベキューグリルも備え付けに。「お気に入りの調味料を使って、お料理している時が楽しいですね」。
壁に取り付けた棚は、レンジフードの高さに揃え、収納する器の大きさを測って2枚取り付けた。棚板の下から光がこぼれる間接照明など、店舗のような細かい演出が効果的。
「キッチンは、白い空間に木を合わせるだけでは、ナチュラルになりすぎてしまうと思って。もうひとつ素材を足したいと、大理石調の白をポイントにしました」。キッチンの壁面にはマーブル模様のタイルを、アイランドのカウンターには白の一枚板を張って高級感をプラス。
「ダイニングテーブルもメタルの天板のものを選びました。シンプルになりすぎないよう、ちょっとハードな雰囲気も加えたいと思うんです」。異なる素材やテイストのミックスが、独特の空気感を生んでいる。
空気感を楽しむ家
現在、2歳と5歳のお子さんともに暮らす4人家族。10年程前には、哲さんと優子さんはデザインの勉強の為、NYで1年間暮らしている。「留学というよりは遊学ですね(笑)。1日中、美術館で過ごすなどしていました。多文化が混在していて、生活のまわりにいつもアートがある。そういう街の中で得たものは大きいと思います」。
廊下や階段、洗面など家のあちこちにリトグラフやポスターが飾られ、アートで彩られている。ギャラリーのように素敵なリビングの飾り棚も、優子さんが気分に合わせてコーディネートを変更するそう。「ポスターもよく入れ替えています。それに合わせて植物を華やかなものにしたり、シンプルな枝ものにしたり…。アレンジを楽しんでいますね」。
何かがちょっと足りない、と思えばご夫婦のどちらかが小物を足してみるなど、その連携がアーティスティックな空間を生み出している。
3階のベッドルームは、ウイリアム・モリスの壁紙を採用。「寝室はリラックスできる雰囲気にしつつ、何かアクセントを入れたくて。洋書で見つけてこの壁紙が気に入ったんです」。ハンモックの吊るされたベッドルームに穏やかな空気が流れる。
「何風というジャンルにとらわれず、色んなタイプのものを取り込んでまとめる。それが私たちのスタンダードなんです」と哲さん。“空間というより空気感をデザインしたい”。そんな思いが、家中に漂っていた。