Architecture
宇宙船のような箱に妥協を許さない。家は
自分のプレゼンテーション
建物と内装を別オーダー
都心の超セレブな一等地に地下1階、地上3階の1軒家を建てた、放送作家の田中伊知郎さん。
「きっかけは待機児童問題なんです。子供が保育園に入りやすい区に引っ越すことになり、それなら建ててしまおうと」。妻、小学生、保育園児のお子さんと4人で暮らす、事務所併設の家を6年前に建てることに。
「箱は建築家に、中はインテリアデザイナーにそれぞれ発注するインフィル工法を取りました。スケルトン渡しにしてもらって、内装は後でじっくり考えたいと思ったんです」。
建築家への田中さんのリクエストは“UFOみたいな公団みたいな家”。
円盤のようにも見える、滑らかな曲線に取り囲まれた外観。その中は、何事にも妥協を許さない田中さんのこだわりがたくさんつまっていた。
アメリカンテイストで統一
地下の仕事&趣味の部屋へは、外階段か室内のエレベーターでアクセス。居住空間は、リビング、ダイニングキッチン、ベッドルームなど独立したスペースが、それぞれスキップフロアで繋がれている。
「階段はUFOが降りてくるイメージで、ねじれた形に造ってもらいました。普通の螺旋階段にもできたのですがコンクリートにしたので、めちゃめちゃ大変で、工事の人が怒っていましたよ」。
外側は円盤のように、中は子供の頃に住んでいた公団をイメージして。シンプルで大味な造りは、どこかアメリカンなテイストが感じられる。
「アメリカに留学していた経験もあって、すべてアメリカンです。キッチンは、昔のファミレスをイメージしました」。
大きなテーブルに、どっしり座れる造り付けのソファーを備えたダイニングは、飾らないダイナー風。
GEの冷蔵庫にVIKINGのオーブンレンジといった大型のキッチン家電が、スケール感を出している。
「オーダーのキッチン台やシンクは、京都の専門のデザイナーさんに発注しました。餅は餅屋と言うでしょう? キッチンはキッチンに詳しい業者を選びました」。
工事中もマメにチェック
インテリアは、ネットで探したものや、福生で購入した米軍払い下げ品、デザイナーが海外に発注したオーダーメイドなど。どの空間もヴィンテージ感が漂っている。
「気に入るものが見つかるまでとことん探します。これでいいや、と思ったら負けなんです。デザイナーさんとも、スイッチを縦にするか横にするかでもめたりして緊迫感がありましたね」。
工事中は足しげく訪れ、出来上がっていく様子をチェックしたそう。
「窓がサッシだったので、黒で塗ってもらいました。手間を惜しまず、造り上げたという満足感があります」。
自分の空間を地下に
田中さんがいちばん時間を過ごす場所が、地下にある仕事と趣味の部屋だ。エレベーターホールを挟み西側が仕事部屋、東側が趣味部屋に分かれている。
「このフロアは住み始めてから、住居とは別のデザイナーさんに依頼しました。コストが変わるわけでもないし、別に発注するのはおすすめですね」。
HOUSE TRADが内装を担当した地下の空間は、壁のデコレーションや大理石風の床、クラシックで重厚な雰囲気が古き良きアメリカを思わせる。
「どうしてもやりたかったのは床です。コンクリ―トに石が混ざったテラゾー仕上げにしたくて。昔のホテルや映画館のようなイメージです」。
階段で高低差がつけられた空間の上部には、吊り下げられたようなボックス型の部屋が。
「ベッドルームをどこにするか考えた結果、ここにしました。仕事が深夜に及ぶこともあるので都合がいいですね」。
仕事柄、スタッフが大勢集まることがよくあり、階段は番組視聴の際の椅子代わりにもなるそうだ。
「僕にとっては、家も仕事も同じなんです。手を抜こうと思えばいくらでも抜けるけど、いいものを創りたい。家もいいものを見せることが大事なんです。自分のプロデュース作品でもありますから。手間もコストもかかりましたが、この家を見て、自分をわかってもらえたら大成功ですね」。