Architecture
”いい窓”と大きな壁のある家光と抜けがつくり出す
旗竿地の居心地良いLDK空間
居心地の良さそうな空気感
城田邸を訪れ、玄関脇の階段を上ると現れるLDK空間を目にしたとき、誰もがまずその落ち着いた居心地の良さそうな空気感を感じ取るに違いない。
言葉ではなかなか表現しづらいこの居心地の良さは、城田夫妻のリクエストから生まれたものだった。
「仕事をのぞけばキッチンとダイニングで過ごす時間が圧倒的に長いので、いちばん居心地の良くなる空間にしてほしいとお願いしました。あと、キッチンとダイニング、リビングを分けず、全部が一体となったような場にしたいというのもお伝えしました」(城田圭介さん)
キッチンの素材
奥さんは「料理をよくするということではないんですが、夫婦2人でキッチンに立つことが多いのでキッチンは重要な場所でした」と話す。その重要度はLDKのなかでも特に高かったという。
建築家の都留さんはこのお2人の意を受けて設計を進めたが、なかでも気を使ったのはその素材感だった。「壁面に機能を集約してその前にアイランドキッチンを置くという配置はわりと早い時期に決まったんですが、天板の素材をどうするかは悩みました」(都留さん)
ステンレスや木なども検討したが、あるとき「これだ!」と思える素材に出会ったという。それはグレーの人工大理石で、都留さんが過去に使ったことのないものだった。
壁側の部分を白で統一したのは、アイランドキッチンを引き立たせるためで、壁の白と同化させてその背景になるようにした。
いい窓
2階の心地良さはこうした配置と素材の検討・工夫に加え、さらに2つのリクエストが大きく関係しているようだ。
ひとつは「いい窓」をつくってほしいというリクエスト。都留さんは「“いい窓”というリクエストをいただいたのははじめてでとても印象的だった」という。
「光の入り方が良くて、気持ち良く窓辺で何時間も過ごせるのが“いい窓”です」と城田さん。奥さんは「心地の良さそうな家を本やネットとかで見ていたら、やはり窓がとても重要だなという感じがして」と、リクエストの理由を話してくれた。
そこで2階のLDKには部分的に吹き抜けをつくり、ハイサイドライトを設けている。その三角形の開口からふんだんに入る光がキッチンのほうへと向かい、斜めに架かる天井に沿って差し込んでくる。
大きな壁
大きく開いたこのハイサイドライトが旗竿敷地では得にくい開放感をもたらすと同時に、外光の変化に伴ってさまざまな表情を室内につくり出す。この時に大きな役割を果たしているのが階段側につくられた大きな壁面だ。
もうひとつのリクエストはこの壁についてのものだった。「以前住んでいたマンションでは壁の部分が少なく住みづらく感じていたので、壁が気持ちよく見える空間にしてほしい」と伝えたという。
「壁は真っ白ですが時間帯によって色がかなり変わる。ずっと見ていると遠近感を失ってくるような感じがするのも面白いです」(城田さん)。
夜、ハイサイドライトのところに月が出ると、壁面を明るく照らすという。奥さんも「住み始めて間もないころ、真っ暗な中で壁が三角の形で明るく照らされていて、なんでこんなに明るいのかと思って見上げてみたら月明かりでした」と話す。
「玄関がこんなに“いい窓”として機能するんだと。とても明るくて、階段のところに腰かけて本を読んだりもできて、実はすごく気に入っている場所です」
「家の中から玄関を通して庭まで見えるのが気持ちいいし、本棚のあたりから外を眺めて植栽をどうしようかなと考えたりするのも楽しいです」(奥さん)。「いい窓がほしい」、この城田夫妻の願いがここでは予想しなかったかたちで実現されているように思われた。