Architecture
5坪の土地でできること建築家と家具デザイナーの
潔い住まい
5坪の敷地に家を建てる
閑静な住宅街にそっと寄り添うように建つ小さな白い家。これが建築家の東端桐子さんと家具デザイナーの大原温さんの住まいだ。
ドアを開けて入ると、所謂玄関という場所はなくマットの上で靴を脱ぐ。階段を下りた半地下が寝室兼収納部屋、1階は大原さんの仕事場と洗面などの水周り、2階にキッチンとダイニングという3層のつくり。「私はいつもダイニングテーブルで仕事しているんです」と話す東端さん。
以前は近くのマンションに住んでいたが、大原さんの実家の敷地内に家を建てることに。建築可能な広さは5坪だった。「建物を建てられる広さや場所がすでに決まっているので、設計にあたってあまり迷う余地がなかったですね。基本設計も1時間もかからないでできてしまいました」。と笑いながら話す。
ただ、せっかくの機会なので普段なかなか施主に提案できないようなディテールを取り入れたという。例えばオーダーメイドのスチールサッシ。白くて細いサッシは内観はもちろん外観もすっきりと見せてくれる。そしてスチールの錆びが自然な質感を漂わせる。「経年変化や不便さがあるのでなかなか提案はしづらいのですが、この細さや古くなったときのかっこいい質感はスチールじゃないとできないんです。性能の高さだけを求めるのではなく、住み始めてから味わいを増してベストになっていくような建物を提案したいと思っています」。
狭さがそぎ落としてくれるもの
東端さんが仕事をする2階は、床面積に対してキッチンスペースがしっかりとした広さを占めている。「この広さだと、こんなスペースがあったらとか、あの素材を使いたいとかそういう余計な考えがどんどん削ぎ落とされていきますね。もうリビングはいらないと思ったんです。どうせそんなにゆっくりくつろぐ時間なんてないし、テレビも見ないので。ただ、キッチンで料理する時間は仕事とプライベートの切り替えの時間でもあるので、ストレスなく使いやすいようにしました」。
収納に関しても無駄がなくちょうどいい使い方ができているという。「最初カウンターだけで使っていたんですけど3、4年したらやっぱり下にワゴンが欲しいなと思って主人に作ってもらいました。 最初から収納をきちんと作ってしまうと、どこに何をしまったか見えなくなって結局使わなかったりしますよね。でもしまうところがなければ即戦力の道具だけが残っていく んです」。
キッチンカウンターの後ろに業務用の冷蔵庫を置きカウンターとしても使用。作業スペースが豊富だ。
そのほか、壁のベニヤ板張りの仕上げやスチールサッシの経年変化なども含め、施主に実際に見てもらいながら打ち合わせをすることも。
少しずつ自分に合う暮らしに
この家に暮らし始めて9年目。「仕事場に住んでいるような感じで、自分のペースでゆるく生きています。普段ここに一日中いて、朝からずっと陽の光がまわって時間の経過が分かったりするのも好きだし、庭に鳥が来たりするのもいいですね。もし仕事場が足りなくなったら他に場所を借りてもいいかなと思っています。家を建てるからといって最初から全部揃っている状態にしなくてもいい。その方が気も楽ですし」。そんな風に語る東端さん。
最近は大原さんと一緒に「SAT.PRODUCTS」というプロダクトラインをつくり始めたという。「普段の設計の仕事でこんなのが欲しいな、と思うブラケットやフック、ポストなどをつくってみました」。それらのアイテムは実際にこの家のあちこちに使われ、家の一部になっていた。「プロダクトの展示をするスペースなんかも、そのうちつくれたらいいなって思います 」。大きいことよりも、自分の目の届く範囲でできることが好き、と話す東端さんらしい住まいだった。