Architecture

16坪にガレージをビルトイン街に向けて開かれた
光溢れるアトリエ住居

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木造薄肉ラーメン構造を実現

間口は4.0m。横浜郊外の約16坪の細長い敷地を、建築家・中村高淑さんは迷うことなく購入した。
「10年くらいずっとこの辺りで探していたんです。この土地で、アトリエとガレージ付きの自宅を設け、かつギャラリーやイベントも開催できる、街に向けて開いた建物を創りたい、と思いました」。
趣味の車やバイクをビルトインするには、耐力壁は邪魔になる。そこで採用したのは柱や梁の出ない薄肉ラーメン構造。
「壁の厚みと床の厚みの中で柱、梁をつくる工法です。これによって狭いスペースを最大限有効に使い、自由度を高めることができます」。
1階はRC造、2、3階は木造という構造も特徴的。
「コストの面もありましたが、社会的に木質化への気運が高まってきていること、また何より自分自身の住宅としても木のもつ素材の魅力や優しい表情がいいなという思いもありました。通常、ラーメン構造はコンクリート造や鉄骨造が主体なのですが、LVLという壁柱を用いることで、世界でも珍しい木造の薄肉ラーメン構造を実現することができました」。
ガレージとアトリエのある1階は、車を出せば一続きの広々とした空間に。ガラスのドアを開放して、ガレージセールを開いたり、イベントを行ったり。街のコミュニティに融合する、開かれたスポットが誕生した。


隣接する建物も中村高淑建築設計事務所の設計で、ミシュランガイドにも掲載されているフレンチレストラン「ヴェルヴェンヌ」
80年代のポルシェ911をイン。ガラスのドアを開け放てば、開かれた空間に。
80年代のポルシェ911をイン。ガラスのドアを開け放てば、開かれた空間に。


ガレージ兼打ち合わせ場所としているエントランスホール。車を出せばイベントスペースやギャラリーとしても使える。
ガレージ兼打ち合わせ場所としているエントランスホール。車を出せばイベントスペースやギャラリーとしても使える。
6畳の事務所は無駄なく使えるよう棚、机を造り付けにした。こじんまりと収まっていて仕事の効率もいい。
6畳の事務所は無駄なく使えるよう棚、机を造り付けにした。こじんまりと収まっていて仕事の効率もいい。
吹き抜けとなった螺旋階段。3階に設けられたトップライトから、光が1階まで降りてくる。
吹き抜けとなった螺旋階段。3階に設けられたトップライトから、光が1階まで降りてくる。
1階のエントランスホールの階段スペースの正面に、陶芸家である妻の作品が。1枚ずつムラのある色合いが味わい深い。
1階のエントランスホールの階段スペースの正面に、陶芸家である妻の作品が。1枚ずつムラのある色合いが味わい深い。


多様性のあるLDK

人がよく集まってくるという中村邸。2階のダイニングキッチンも、スペースをどう有効に使うかを練りあげた。
「LVLの壁柱以外はガラス張りの出窓にして、開放感を出しました。出窓なら延床面積にも含まれません」。
建物の半周が出窓になっているため、抜け感がたっぷりで、光もたくさん取り込める。中央にはオープンキッチンと、それに続くダイニングテーブルが。
「キッチンも可動式なんです。妻が陶芸家でワークショップなどを開くこともあり、来客に合わせてレイアウトを変えられるようにしています」。
DKの一角には、妻・直子さんの工房も。壁や柱で空間が遮られていないため、ガラス窓を介して工房の中の様子も伝わってくる。直子さんは、
「家事動線もとてもいいんですよ。キッチンに立っていて後ろを振り向いたら必要なものに手が届くようになっています」。
造り付けの収納は、お皿などがちょうど収まる約15cmの厚さに。壁のないところは壁の厚さ分も含めて約30cmの奥行きを確保。左右のワイドスパンを使いすっきりと備え付けられている。
「これまでにDKで金継や手作り石鹸のワークショップを開きました。フレキシブルに対応できるので、これからも色んな機会を設けていけそうです」。


2階の明るいDK。キッチンをテーブル替わりにすれば、大人数で集うことができる。出窓のガラスは断熱性の高いLow-E耐火ペアガラスを採用し、夏も冬も快適。
2階の明るいDK。キッチンをテーブル替わりにすれば、大人数で集うことができる。出窓のガラスは断熱性の高いLow-E耐火ペアガラスを採用し、夏も冬も快適。
白いタイル貼りのキッチンはオーダーで造作。キャスターを付け、シンクの配管もフレキシブルにして移動を可能にした。シンク下には収納も設けた。
白いタイル貼りのキッチンはオーダーで造作。キャスターを付け、シンクの配管もフレキシブルにして移動を可能にした。シンク下には収納も設けた。
レンジフードはキッチン、ダイニングテーブルに合わせて横長に。観葉植物の飾り棚にも。
レンジフードはキッチン、ダイニングテーブルに合わせて横長に。観葉植物の飾り棚にも。
バーカウンターのようなダイニングキッチンの向こうには、直子さんの陶芸アトリエが。
バーカウンターのようなダイニングキッチンの向こうには、直子さんの陶芸アトリエが。


木の表情も楽しめるLVL(ラミネイティッド・ベニア・ランバー)。出窓の天板にはフローリング材のサンプルを寄せ木のように使用。
木の表情も楽しめるLVL(ラミネイティッド・ベニア・ランバー)。出窓の天板にはフローリング材のサンプルを寄せ木のように使用。
中村さんがデザインした親子サイドワゴン。パーティーの際には生ビールサーバーの台としても活躍する。以前は事務所でワークデスクとして使用していた。
中村さんがデザインした親子サイドワゴン。パーティーの際には生ビールサーバーの台としても活躍する。以前は事務所でワークデスクとして使用していた。


豊かな生活を生む水まわり

薄肉ラーメン構造の特徴がもうひとつ活かされているのが、3階のバスルーム。洗面、トイレ、お風呂が一体になった開放的な空間を、トップライトと強化ガラスの仕切りを介して光が通り抜ける。
「窓の断熱ブラインドの上側だけを開けてお風呂に入ります。昼間は向いの山の緑が、夜には星空がきれいですよ」。
朝晩2回入ることもあるくらいのお風呂好きだという中村さん夫妻。木製のすのこがバスルーム全体に敷き詰められた床、FRP防水のシンプルな壁や天井に包まれ、リゾートにいるような雰囲気に。
「狭い家ですが、その分バスルームは充実させたいと思ったんです。そんなところが生活のゆとりを生むと思っています」。
ベッドルームでも、同じように断熱ブラインドを上半分開放し、ベッドに寝転びながら、空の青や山の緑をゆっくりと眺めるのだそう。外と一体となれるような空間にいると、狭小という感覚は全く感じられなかった。


南洋の腐りにくいイペという木をすのこ状にして敷き詰めたバスルーム。壁や天井は耐久性の高いFRP防水で仕上げた。シャワーカーテンを開けておけば、お風呂とトイレの間の強化ガラスを光が通り抜ける。
南洋の腐りにくいイペという木をすのこ状にして敷き詰めたバスルーム。壁や天井は耐久性の高いFRP防水で仕上げた。シャワーカーテンを開けておけば、お風呂とトイレの間の強化ガラスを光が通り抜ける。
真上にトップライトを設置した洗面。洗濯機をビルトインできるようカウンターを造作。その上でアイロンをかけたり、窓際に洗濯物を干したり。家事動線もよい。
真上にトップライトを設置した洗面。洗濯機をビルトインできるようカウンターを造作。その上でアイロンをかけたり、窓際に洗濯物を干したり。家事動線もよい。
螺旋階段を3階まで登りきるとプライベートスペースに。ガラスを使った仕切りが、ディスプレイ棚風。
螺旋階段を3階まで登りきるとプライベートスペースに。ガラスを使った仕切りが、ディスプレイ棚風。
日溜まりのようなベッドの上は愛猫もお気に入り。間仕切りにもなっている入り口の収納も、キャスター付きの可動式。
日溜まりのようなベッドの上は愛猫もお気に入り。間仕切りにもなっている入り口の収納も、キャスター付きの可動式。


2階の直子さんの工房。ここでは自身の作陶に没頭できる。バーチの床に、棚はシナベニヤで。
2階の直子さんの工房。ここでは自身の作陶に没頭できる。バーチの床に、棚はシナベニヤで。
陶芸家・中村直子さん。自由が丘で陶芸教室つぼみも開講。
陶芸家・中村直子さん。自由が丘で陶芸教室つぼみも開講。
陶磁器を素材に、器や茶道具、立体作品を制作。
陶磁器を素材に、器や茶道具、立体作品を制作。
内側から灯りがこぼれるランプシェード。
内側から灯りがこぼれるランプシェード。


壁の厚みを利用した階段脇のスペースに、これまでに手がけた家の模型を飾る。
壁の厚みを利用した階段脇のスペースに、これまでに手がけた家の模型を飾る。
建築家(一級建築士)・中村高淑さんのアトリエ。造付けの3人分のワークデスクや資料棚によって作業効率のよい執務空間となっている。
建築家(一級建築士)・中村高淑さんのアトリエ。造付けの3人分のワークデスクや資料棚によって作業効率のよい執務空間となっている。


中村邸
設計 中村高淑建築設計事務所
所在地 横浜市青葉区
構造 RC造+木造薄肉ラーメン構造
規模 地上3階
延床面積 95.32 m2