Architecture

外壁・階段の仕上げはオリジナルレシピで 狭い中、あえて中央にすえた
階段が生活に新たな質をもたらす

外壁・階段の仕上げはオリジナルレシピで 狭い中、あえて中央にすえた 階段が生活に新たな質をもたらす

工房と稽古場がほしい

「つくりものがあるのでレーザーカッターなどの機械や道具類をちゃんと置けるような工房と稽古場のスペースがほしいというのをまずお願いしました」と話すのは翔さん。劇場などの施設計画のコンサルタントをしている翔さんは、休日にはパフォーマンス活動をしているという。工房と稽古場はそのためのものだ。

奥さんの千尋さんは「前に住んでいたマンションではそういった道具類が生活スペースを侵食していたので家を建てるならきれいに片づけられる家にしたかった」という。

3階。階段が天井に突き当たっている。右がキッチンで左がリビングダイニング。各階、階段の左右でフロアのレベルが異なる。
3階。階段が天井に突き当たっている。右がキッチンで左がリビングダイニング。各階、階段の左右でフロアのレベルが異なる。

階段を真ん中に

土地が狭く建築面積もそう大きくは取れない敷地での設計を担当したのは千尋さんがメンバーの一員として勤務するアーキペラゴアーキテクツスタジオの畠山さんと吉野さん。この家の最大の特徴は家の中央部分につくられた階段だが、階段を端に寄せず中央に配するアイデアは敷地条件から生まれたものだった。

「建てられるボリュームもだいたい決まっているなかで、パフォーマンスのための稽古場や工房がほしいというご要望を最初にいただいていたので、床を積層させてつくる必要がありました」と畠山さん。しかしそのときに縦動線である階段を上下の移動のためだけのものにしてしまうと、限られたスペースのなかにそれ以外の用途には使えない場所ができてしまってもったいない。

そこで家の真ん中にゆるやかな階段を配置して、階段ではあるけれども、居場所にもなるし物を置ける家具にもなるというものにしたという。そしてまた、この階段が実はこの家ではなくてはならない重要な構造要素になっていて、中に入っている鉄骨ブレースが建物の横幅いっぱいに架け渡されている——どの階段も壁や天井に突き当たって行き止まりになっているのはそのためだ。

東西両面とも長手方向いっぱいに窓が連続している。これだけの空間に壁がないのは階段の鉄骨がブレースとして効いているため。ダイニング、キッチンとも床と階段の1段の踏み面のレベルが揃えられている。
東西両面とも長手方向いっぱいに窓が連続している。これだけの空間に壁がないのは階段の鉄骨がブレースとして効いているため。ダイニング、キッチンとも床と階段の1段の踏み面のレベルが揃えられている。
北側から見る。スペースが限られているため、建て方が終わったところで段ボールを使って家具の大きさを確認した。
北側から見る。スペースが限られているため、建て方が終わったところで段ボールを使って家具の大きさを確認した。
南側からキッチンを見る。下の階段は壁に突き当たっている。
南側からキッチンを見る。下の階段は壁に突き当たっている。

模型で確認

最上階のスペースは広く感じられるが、翔さんは「図面ではかなり狭く見えた」という。しかし家具も入った20分の1という大きめの模型とパースで確認した上で階段を中央にすえる案をスタートさせることに。

「自分では階段を真ん中にするというのは思いつかなかった」という千尋さん。空間のなかで中心的な存在ともなるため実寸で確認したという。スケールだけでなく踏み面の幅や奥行き、蹴上げの高さを段ボールでつくった階段に実際に座ったり上り下りしてみて確認を行った。

階段越しにダイニング部分を見る。この家のために製作されたオリジナル家具はすべて窓台の高さにそろえられている。
階段越しにダイニング部分を見る。この家のために製作されたオリジナル家具はすべて窓台の高さにそろえられている。

特製レシピの仕上げ

出来上がった階段は空間のなかで存在感を発揮しているが、それはたぶんそのスケールだけではなく、グリーン系の表面の仕上げも大きく作用しているのだろう。「この階段は構造でもあるし家具でも居場所でもあるのですが、たとえばこの階段を木でつくってしまうと キッチンや収納も木でつくる予定だったので家具としての印象が強くなってしまう。あるいはブレースとして鉄骨が中に2本入っていますが鉄骨現しの階段にすると構造として使っている印象が強くなる。このどちらにも偏らないように、仕上げには木でも鉄でもない素材を使うことにしました」(畠山さん)。緑青仕上げと呼ぶその仕上げは、事務所で開発したオリジナルのもので、木と石と金属、樹脂を混ぜ合わせたものという。

北側から見る。階段の途中に置いてあるプロジェクターで奥の壁に映画などを投影して見ることができる。
北側から見る。階段の途中に置いてあるプロジェクターで奥の壁に映画などを投影して見ることができる。
緑青仕上げは材料の配合がオリジナルなだけでなく、工程も特殊なため塗装は事務所で行ったという。
緑青仕上げは材料の配合がオリジナルなだけでなく、工程も特殊なため塗装は事務所で行ったという。

床を極力薄く

最上階は東西の両面とも長手方向いっぱいに窓が連続して光がふんだんに入るがその下階のスペースは小さな窓が3つあるのみ。しかし、暗く感じることはないという。これには建築的な工夫があって、マッシブホルツという工法を採用し45㎜の角材を1本1本つないでつくることで床を限りなく薄くしているのだという。

「通常であれば床が倍以上厚くなって光がなかなか下まで届かないのですが、この工法でつくることで階段の吹抜けを通して光が下にも広がっていくのです」(吉野さん)。空間が明るくなるだけでなく上下階の遮断感も感じにくくなっているという。

左右の柱は40mmの無垢の鉄骨。これだけ細くできたのは階段が柱の座屈止めの役目を果たしているため。床は45㎜の角材を1歩1本つないでつくっている。通常よりも2分の1以下の厚さのため、光が階段を通じて下階に広がる。
左右の柱は40mmの無垢の鉄骨。これだけ細くできたのは階段が柱の座屈止めの役目を果たしているため。床は45㎜の角材を1歩1本つないでつくっている。通常よりも2分の1以下の厚さのため、光が階段を通じて下階に広がる。
リビングダイニングの下に水回りスペースが続く。
リビングダイニングの下に水回りスペースが続く。
水回りスペースの前から見る。上がキッチンで下が寝室。
水回りスペースの前から見る。上がキッチンで下が寝室。
寝室側から見る。洗面スペースの下に本棚が置かれている。
寝室側から見る。洗面スペースの下に本棚が置かれている。
1階を見下ろす。階段が壁に突き当たっている。
1階を見下ろす。階段が壁に突き当たっている。
1階から階段を上ると壁に突き当たる。右が寝室。
1階から階段を上ると壁に突き当たる。右が寝室。

4カ月暮らしてみての感想をうかがった。まずは翔さん。「以前よりも生活の質がとても上がって早く家に帰りたいと思うようになりました」。千尋さんは「毎日楽しく暮らしている」と話す。「今までだと一日家に引きこもっていると気がめいるようなこともあったのですが、この家は上は開放感があるし下はちょっと落ち着いた感じで切り替えられるのでそういうことがほとんどなくなりました」

最後に隣家のお話がでた。この敷地はもとはお隣りの家の庭だった土地だが、緑青仕上げを施した家が建ち上がってから隣家の方が「老後は今の家を売ってどこかのマンションに引っ越すことも考えていたけれども、この家が建ったことによってわたしは死ぬまでここに住まう」という話をされて、グリーン系の外壁に合わせてリビングのカーテンも変えたのだという。隣人にとっても素敵な風景になり庭の一部になっているということなのだろう。こうしたお話をうかがうのははじめての経験。こういうこともあるのだなと感じ入った。

玄関から見る。本棚の上に洗面スペースがある。
玄関から見る。本棚の上に洗面スペースがある。
右が玄関、中央に見える扉から翔さんの稽古場兼工房に入ることができる。
右が玄関、中央に見える扉から翔さんの稽古場兼工房に入ることができる。
周囲は住宅が建て込んでいるため、頭だけ少し飛び出るようなボリュームにして開口を大きく開けた。
周囲は住宅が建て込んでいるため、頭だけ少し飛び出るようなボリュームにして開口を大きく開けた。
取材時には稽古場のスペースがパフォーマンスのための大道具の製作スペースになっていた。
取材時には稽古場のスペースがパフォーマンスのための大道具の製作スペースになっていた。
「パーティをやったときにこの階段に料理を載せたお皿が並んでひな壇みたいになって面白かったですね」(翔さん)。
「パーティをやったときにこの階段に料理を載せたお皿が並んでひな壇みたいになって面白かったですね」(翔さん)。

河童の家
設計 アーキペラゴアーキテクツスタジオ
所在地 神奈川県川崎市
構造 木造
規模 地上2階、一部ロフト
延床面積 49.30㎡
施工床面積 73.95㎡