Architecture

10坪敷地での家づくり空間を家具化/家具を
空間化して住まう

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コンパクトな敷地

青島邸の敷地は約10坪。建築家の青島さんは、このコンパクトな敷地に自邸を建てるにあたって、まず法規面での条件を整理した。  

「角地なので建蔽率の緩和があり、また、住宅地ですが用途地域としては中高層住居専用地域ということで、建物は12~13mぐらいの高さまでは建てられる。その一方で、道路斜線、隣地斜線、北側斜線による制限があって、こうした法的なルールによってかなりの形が決まっていきました」


形状は法規によってかなりの部分が決まっているが、開口の位置や形状は青島さんのデザインによるもので、外観にオリジナルな表情を与えている。
形状は法規によってかなりの部分が決まっているが、開口の位置や形状は青島さんのデザインによるもので、外観にオリジナルな表情を与えている。

空間を家具化する

そして設計では、あらかじめ課せられているこうしたルールに、建築をつくる際に自分が常々考えていることをどう融合させていくかが大きな課題となった。

「小さい建物であるために、家具は入れられないし、化粧みたいな仕上げは極力抑えていかないといけない。そこで、たとえば家具を置くというよりは、空間を家具化してしまおうと。建築と家具が一体となるようにしないととても収まらないだろうなと考えたんです」


天井は張らず250cmの天井高を確保。左右の幅は4mあり、大きなテーブルを置いてもまだ余裕がある。奥の道路側にはリビング的なスペースがあり、スペースいっぱいにクッションが置かれている。
天井は張らず250cmの天井高を確保。左右の幅は4mあり、大きなテーブルを置いてもまだ余裕がある。奥の道路側にはリビング的なスペースがあり、スペースいっぱいにクッションが置かれている。

IHとオーブンが組み込まれたダイニングテーブルは12㎜のセラミックの板を2枚重ねてつくられたもの。キッチン家具製作会社アムスタイルに勤める奥さんのさくらさんがデザインを手がけた。「家の中心的な存在となって家族が集うテーブル」のイメージがあったという。
IHとオーブンが組み込まれたダイニングテーブルは12㎜のセラミックの板を2枚重ねてつくられたもの。キッチン家具製作会社アムスタイルに勤める奥さんのさくらさんがデザインを手がけた。「家の中心的な存在となって家族が集うテーブル」のイメージがあったという。

この「家具化した空間」は、空間化した家具、あるいは建築化した家具と言い換えてもいいかもしれない。

ダイニングとキッチンのある階では、全体を3つに区切る9㎜厚の鉄板に挟まれた中央部分に大きなダイニングテーブルが置かれている。この建築的なスケールともいっていい大きさのテーブルは、鉄の壁と一体化してつくられているように感じられる。また、同じ階の両サイドに配されたキッチンと家族がくつろぐリビング的な小スペースも、家具化した空間/空間化した家具としてつくられている。


キッチンには冷蔵庫がビルトインされている。こちらもさくらさんのデザイン。
隣地は公園のため、豊富な緑が季節により移ろう様を楽しむことができる。
隣地は公園のため、豊富な緑が季節により移ろう様を楽しむことができる。
青島さんは手前側にあるベンチからの眺めが季節を感じられて気に入っているという。
青島さんは手前側にあるベンチからの眺めが季節を感じられて気に入っているという。


道路側につくられたこのスペースは、家族のくつろぎのスペースであるとともに上の寝室、テラスに向かうための廊下的なスペースでもある。空間化された家具は家具デザイナーの藤森泰司氏によるもの。空間を区切る鉄の壁は9㎜の厚みがある。
道路側につくられたこのスペースは、家族のくつろぎのスペースであるとともに上の寝室、テラスに向かうための廊下的なスペースでもある。空間化された家具は家具デザイナーの藤森泰司氏によるもの。空間を区切る鉄の壁は9㎜の厚みがある。
寝室へと昇る階段は、一方をコンクリートにアンカーで止め、一方を鉄板に溶接している。
寝室へと昇る階段は、一方をコンクリートにアンカーで止め、一方を鉄板に溶接している。
その裏側も同様のことを行っているが、狭さを逆手に取ったデザインのアイデアといえるだろう。
その裏側も同様のことを行っているが、狭さを逆手に取ったデザインのアイデアといえるだろう。


モノを出っ張らせない

また、このひとつ下の階に降りると、上階と同じ位置に立てられた鉄板からそのまま持ち出しでテーブルと棚が出ていて、家族の書斎スペースをつくっている。

さらに「とにかく小さな家なので、ごつごつといろんなものが出っ張らないようにしよう」(奥さんのさくらさん)ということもあり、設備機器を表に出さないようにした。そのために全フロアに床下暖房を入れ、照明も極力目立たないように建築と一体化させて設計を行っている。

これは狭さを感じさせないためのデザイン的な配慮だが、もちろん冷蔵庫は表に出さずビルトインとして空間と一体となったキッチンに収めた。さらに、斜線制限によって斜めに傾斜した壁の圧迫感を減ずるために、キッチン部分はダイニング部分よりも23cmほど床のレベルを下げている。


2階の書斎スペース。鉄板にテーブルと棚が溶接されている。
2階の書斎スペース。鉄板にテーブルと棚が溶接されている。
洗面スペース前から2階を見る。
洗面スペース前から2階を見る。
洗面スペースもさくらさんによるデザイン。
洗面スペースもさくらさんによるデザイン。
階段途中から2階の書斎スペースを見る。
階段途中から2階の書斎スペースを見る。
書斎の隣にある子ども部屋。
書斎の隣にある子ども部屋。


想定外の使われ方

建築家は住宅では住み手によるさまざまな使われ方を想定して設計するが、住み手がその想定を超えた使い方をすることはよくあること。この家では設計を行った青島さんが住み手でもあり、想定していなかったことを自ら発見する楽しみがあるのではないかと思っていたという。

「たとえば子ども部屋の階段ですが、あそこに子どもが座ることは想定していましたが、階段のほうに向かって階段の下に脚を出して座るというのは考えていなかったですね」(青島さん)


青島さんが今頃の時期や夏場にはちょうどいい気温になって好きだという1・2階の中間にあるスペース。
2階へと昇る階段。
2階へと昇る階段。


階段から地下を見下ろす。
階段から地下を見下ろす。
1階の玄関ホール。右奥に上階への階段、右手前に地下への階段がある。
1階の玄関ホール。右奥に上階への階段、右手前に地下への階段がある。


さくらさんが「意外とそこからプリントが出てくるんですよ」と言って指したのは、ダイニングの道路側の端部に設けられた階段部分。小学校から持ち帰ったプリント類をお子さんが階段の隙間から渡すのだという。

「そんなに上下運動を頑張らなくても、そういった隙間からいろいろなやり取りやコミュニケーションができるんですね」。階段を通して光や風を通し、そこに座ることも当然建築家であれば考えるが、階段の隙間から手や脚が出てくるというのはうれしい「想定外」だったようだ。


地下の青島さんの事務所スペース。RCだが3階と同じように壁に穴が開けられている。
地下の青島さんの事務所スペース。RCだが3階と同じように壁に穴が開けられている。

家族同士がそれぞれにいい距離感でつながっているというのも住んでみて気が付いたことという。「以前住んでいたマンションよりも平面的な面積は狭いけれど、お互いにちょうどいい距離が取れている。全体がワンルームのような感じでつながっていますが、それぞれに居場所が取れている感じがあります」(さくらさん)

いちばん上にあるテラスで、家族でよくバーベキューをするという青島さんに面白いアイデアをうかがった。「駐車場にひとつテーブルを置いて、いちばん上にはバーベキューのセットがあって、その間の階のどこにでも座れてどこででも話ができてというパーティが開催ができたら面白いんじゃないかなと」

家全体を使ってのパーティ――このいかにも楽し気なアイデア、住んでから思いついたものなのかどうかは聞きそびれたが、このお話を聞いて、駐車場を起点として、訪れた人たちが楽しそうに歓談する様子をじっくりと眺めながら徐々に上へと昇って行って最後はバーベキューが行われているテラスへと至る――そんな映像が撮れたら楽しいだろうな、と思った。


青島邸模型。3階建てだが地下を含めると12の床レベルがある。
青島邸模型。3階建てだが地下を含めると12の床レベルがある。
3階と最上レベルを結ぶ階段。
3階と最上レベルを結ぶ階段。


最上レベルに置かれたベッドとテラス。テラスでは土日ごとに家族でバーベキューをしているという。
最上レベルに置かれたベッドとテラス。テラスでは土日ごとに家族でバーベキューをしているという。

キッチンの壁側部分と鉄板の壁に沿って照明が入っており、夜間に点灯するとバーのような雰囲気に。照明デザインは東海林弘靖氏によるもの。キッチン部分の照明には防水ライトを使用している。
キッチンの壁側部分と鉄板の壁に沿って照明が入っており、夜間に点灯するとバーのような雰囲気に。照明デザインは東海林弘靖氏によるもの。キッチン部分の照明には防水ライトを使用している。

青島邸
設計 at/la
所在地 東京都世田谷区
構造 RC造
規模 地上3階地下1階
延床面積 102m2