Architecture

見たことないつくりのRC住宅都会の狭小地で
街とつながって暮らす

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一目惚れの敷地

正方形の敷地を探していたという建築家の古澤さん。「見た瞬間にここだと思った」敷地は約45m2の狭小地で、私道(位置指定道路)の突き当りに位置する。そして、住宅に両脇を挟まれたその私道は古澤邸のためだけに存在しているかのように見える。

「正面性もあって一目惚れでした。そして、ここだったら街とつながったような生活ができるんじゃないかと」


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私道奥の真正面に立つ古澤邸。敷地は約45m2。建物の半分近くが外部空間になっている。


外部空間が半分

当初の計画ではプランの真ん中に螺旋階段をもうけていたが、「図式的には美しいけれども、求心力が強すぎて生活が束縛されそうな感じがしたため」、多数の案を経て現在のプランへと変更を行った。しかし、道路に面した建物の半分近くを外部空間にするというコンセプトははじめと変わらずに維持した。 
 
「こういう繁華街に近い場所ではどうしても外部が少なくなってしまう。さらに、子どもを育てるうえでも外があるほうが絶対いいと思ったので」と古澤さん。


2階バルコニー。都会ではどうしても外部空間が少なくなってしまうため、2~4階でバルコニーを4カ所もうけた。
2階バルコニー。都会ではどうしても外部空間が少なくなってしまうため、2~4階でバルコニーを4カ所もうけた。
2階の入口近くから外階段越しにバルコニーを見る。
2階の入口近くから外階段越しにバルコニーを見る。


コンクリート階段が途中からスチールにかわる。
コンクリート階段が途中からスチールにかわる。
2階へ上る階段途中から見る。
2階へ上る階段途中から見る。


梁とスラブを分離する

試行錯誤を重ねて行き着いたプランは中央に十字形を配したものだった。図面を見る限りこのプランにも空間を支配するような図式の強さが感じられるが、十字の四隅に柱を設けて十字の交点の部分には柱を置いていないため、ある意味、螺旋のプランとは違って中心といえるものもなく、十字形によって「生活が束縛されそうな感じ」はまったくしない。

十字形を意識させない要素としてはこのほか、梁と床/天井のスラブが分離していることが挙げられる。通常は梁と同じレベルにスラブがつくられるが、古澤邸では上下の梁の間にもうけられている。そのため床レベルから見ると天井までの途中に梁が見えることになる。

2階スペース。柱から出ているのはスラブではなく梁。この梁が上から見ると十字の形になっている。梁が直角にぶつかっている部分が建物の中央になる。
2階スペース。柱から出ているのはスラブではなく梁。この梁が上から見ると十字の形になっている。梁が直角にぶつかっている部分が建物の中央になる。
2階スペース。左からキッチン、階段室、バルコニー。ガラス面が大きいが、建物の中央近くにあるためプライバシーの面ではあまり気にならないという。
2階スペース。左からキッチン、階段室、バルコニー。ガラス面が大きいが、梁が視線をほどよくさえぎるためプライバシーの面ではあまり気にならないという。


この構造は構造家との話し合いの中から生まれたものという。「梁とスラブが一体になっていることに疑いをもつ人はいないと思いますが、ラーメン構造というのは柱梁構造のためスラブは本来、構造的に不要です。ジャングルジムのようなものなので、ある意味、スラブは柱や梁とは別の要素なんですね」

こうしてできた空間ではスラブと梁が絵画のフレームのようになって外部空間をさまざまなプロポ―ションで切り取るだけでなく、視線が内外ともに斜めにも抜けて都会の狭小敷地では得難い開放性も獲得している。さらにはまた、正面がガラス張りのため、内へと閉じがちの都会生活では珍しく街とのほどよい距離感と関係性もつくり出されている。


4階からの見下げ。基本的に外の階段をコンクリート、内部は木にしているが、それだけでは対比的になりすぎるので途中にスチールの階段もつくっている。
4階からの見下げ。基本的に外の階段をコンクリート、内部は木にしているが、それだけでは対比的になりすぎるので途中にスチールの階段もつくっている。
寝室のある4階スペース。
寝室のある4階スペース。
 
柱から出た梁によって十字の形ができているのがわかる。
柱から出た梁によって十字の形ができているのがわかる。
階段部分の吹き抜けは1階から4階まで続く。
階段部分の吹き抜けは1階から4階まで続く。


狭小住宅では上下移動の体験が重要になるため、歩くごとに風景が変わる、散歩のような楽しさを目指した。
狭小住宅では上下移動の体験が重要になるため、歩くごとに風景が変わる、街を散歩するような楽しさを目指した。
2階と3階を見る。2つの床の途中に存在感のある梁があるため、スキップフロアと勘違いする人が多いという。
2階と3階を見る。2つの床の途中に存在感のある梁があるため、スキップフロアと勘違いする人が多いという。
スラブがピン角でぶつかる部分は〇〇〇〇で接合されている。
スラブがピン角でぶつかる部分はスチールで接合されている。


3階バルコニー。
3階バルコニー。
和室のある3階スペース。
和室のある3階スペース。
 
3階和室から見る。
3階和室から見る。


厳しさとは真逆の居心地がいい

引っ越しをしてから1カ月という古澤さん一家。間仕切り壁のような存在感のある梁はモノを置く棚としても活用しているというが、はじめてチャレンジしたつくりの空間の中で古澤さんは「モノをどこに置くのかがまったく決まらなかった」と話す。「ようやく落ち着いてきましたが、いろんなところにモノを置いていいきっかけがあるから、しばらくの間、毎日のようにモノが移動していました」

家族の戸惑いは、古澤さんよりもさらに大きかった。「最初は開放的すぎて全部外につながっている気がして自分の部屋がないような感じがしました」と娘さん。しかし今は心地よい開放感に慣れて外の目が気にならなくなり、カーテンも開けて暮らしているという。

さまざまなプロポーションの開口部が外をさまざまに切り取って風景の変化を楽しませてくれる。
いろいろなプロポーションの開口部が外をさまざまに切り取って風景の変化を楽しませてくれる。
1階玄関内部から外を見る。
1階玄関内部から外を見る。壁と天井のスリットから光が入る。
1階。木のボックスの内部はトイレ。
1階。木のボックスの内部はトイレ。
 
階段越しに玄関のほうを見る。
階段越しに玄関のほうを見る。


階段途中から見る。梁とスラブが分離することで、通常ではありえないような外との関係性が建物のいたるところで生まれている。
階段途中から見る。梁とスラブが分離することで、通常ではありえないような外との関係性が建物のいたるところで生まれている。
古澤さんと息子さんの2人がいるのは梁の上。40×40cmの梁は棚としても使えるし、腰かけたりすることもできる。
古澤さんと息子さんの2人がいるのは梁の上。40×40cmの梁は棚としても使えるし、腰かけたりすることもできる。


奥さんも「家の中まで見えてしまうのかなと思っていたんですが、意外に見えないので、外からの視線はだんだん気にならなくなってきました」と話す。「あと、頭をコンクリートの梁にぶつけたりするととても痛いのですが、そうした厳しさとは真逆の居心地の良さがあってそれがとても気に入っています。コンクリートでなければ、このような快適な開放性は得られなかったんだろうなと」
 
奥さんは古澤さんに「狭い面積の中でバルコニーを広く取りすぎてもったいない」と設計中ずっと言っていたそうだ。しかし「外とつながって空間が広く感じられるし、よくあそこでお茶を飲んだりして楽しんでいるので、これで良かったなと思って」いるという。

設計で外を意識的に多く取り込んだ古澤さんもこう話す。「昨日も友人たちをまねいてバルコニーで食事をしたんですが、外というのはやはり気持ちがいいですね。外とつながっているというのは街とつながっているというのと同じなので、そのあたりの気持ちの良さに住んでみてあらためて気づいたような気がします」。古澤さんはまたこの気持ちの良さを「街と体験が一体化する」という建築家らしい表現でも伝えてくれた。


古澤邸
設計 古澤大輔/リライト_D+日本大学理工学部古澤研究室
所在地 東京都杉並区
構造 RC造
規模 地上4階
延床面積 90.59m2