Architecture
斜面の庭はドッグランに居場所によって景色が変わる
季節を味わう六角形の家
住宅街で自然の豊かさを満喫
公園に隣接した傾斜地に建つ平邸。建築家の真知子さんとドッグトレーナーの和憲さんが、ゴールデンレトリーバーとセキセイインコと共に暮らしている。眼下に雑木林が広がる自然豊かなロケーションは、まるで別荘地に来たよう。大型の商業施設が集まる町田駅から徒歩10数分とは思えない静かな環境である。
敷地は、西側に公園を望めるものの、ほかは隣家に囲まれた私道の突き当り。自宅の設計を手掛けた真知子さんは、「公園を一望できるよう、この眺めを最大限に生かすことを第一に考え、“六角形”の家をプランニングしました」と話す。
1階、2階とも西側は大きく開口し、公園の景観を充分に取り入れた。家の形は、正三角形の角を取った六角形。構造上も、整形なので耐震強度が高いという。
また、南東に庭を造り、北東の車庫まわりにも植栽し、公園側と合わせて3方向の窓からさまざまな表情の緑を楽しめるように設計した。隣家が視界に入らないよう工夫したことで、住宅街なのに自然の中で暮らしているような気分が味わえる。登山が趣味で、自然を愛するご夫妻らしい家となった。
家族の気配を感じて暮らす
平邸は、外観だけでなく、“六角形”が随所に登場する。まず、家の中央には、天井高4.8mの六角形の吹き抜けがある。吹き抜けの下は、ダイニングを配置し、それを囲むように大小6つの部屋が並ぶ。キッチンやリビング、階段室兼書斎は六畳大の六角形の部屋に。それぞれの部屋の間には、六角形を半分にした3畳大の台形スペースがあり、玄関や犬の部屋、そして“眺めの部屋”になっている。
観葉植物が置かれ、内も外もグリーンを楽しめる“眺めの部屋”は、「床から天井まで部屋幅いっぱいに開かれた窓から、大迫力の自然が感じられ、時間を忘れてぼーっとしてしまいます(笑)」と、真知子さん。仕事の合間にリフレッシュしたいときなどに過ごす、お気に入りの場所という。
ロールスクリーンを使用すれば、各部屋を仕切ることもできる。セキセイインコのプルプルくんを放鳥するときは、ピークくんにいたずらしないようピークくんを犬の部屋に入れてロールスクリーンを下げるそう。それ以外の時間はほとんど、ひと続きの開放的な空間を満喫している。1階、2階のどこに居ても家族の気配を感じられ、安心して暮らせる造りになっている。
ワクワクする回遊性のある間取り
2階は、中央の吹き抜け部分を囲むワンルーム空間で、回遊できる間取り。吹き抜けとの間は、六角形の半分にあたる3面のみ壁にした。見通しをあえて抑えることで、角を曲がるたびに目に飛び込んでくる景色が新鮮に楽しめ、毎日の生活にワクワク感を添えている。
2階の角に位置した寝室やリラックスルーム、水回りの天井も六角形で、傘をさしたような形状になっている。杉板の木目と外の緑とのコントラストが美しい。「リラックスルームの椅子に座って外を眺めると、公園の緑だけでなく、空まで抜けて見えるのが開放感があって気持ちいいですね」と、和憲さんはここからの風景が最も好きという。
2階とはいえ、4階ほどの高さがあり、野鳥もたくさん来訪するそう。鳥のさえずりや木々の揺れる音を聞きながら、時間とともに移り行く光の中にいると、まさに別荘で過ごしているような非日常を味わえる。
人もペットも心地よく
この家は、ドッグトレーナーの和憲さんの仕事場も併設している。斜面の土地の高低差を利用し、地下室を造り、犬のトレーニングルームとした。また目の前に広がる庭の斜面はドッグランとして活用。大型犬の足腰を鍛えたり、トレーニングしたりするのには、傾斜地は好都合だったという。
和憲さんが“相棒”というのが、ゴールデンレトリーバーのピークくん。預かった犬のトレーニングの際には、見本を示す役というだけあり、とても賢く穏やかで、和憲さんに従順だ。
扉のないワンルーム空間や小さめの家具を配置しているのは、ピークくんが動きやすいようにと考えてのこと。また、1階の床材はひんやりとするタイルとあたたかなカラマツを貼り分け、季節や時間帯によって心地よいところに行けるように配慮した。
ピークくんだけでなく、もちろん人間も、その時々の気分で過ごせる居場所がたくさんあり、座る場所によって目に入る景色が変わる。ご自宅が仕事場のお二人は、時間によって刻々と変わる部屋の表情や何気ない瞬間に季節を感じながら、大らかに過ごされているようだった。