Architecture
大型犬が駆けまわる人にも犬にも優しい
スロープハウス
2階建てなのに階段のない家
広い庭を持つ一戸建てが建ち並ぶ落ち着いた住宅地に、昨年4月に家を建てた横田さん姉妹。現在、ラブラドール・レトリーバー2匹と共に暮らすその家は、地上2階建てで、ドッグランとなっているルーフテラスまで設けているが、段差、階段は一切ない。施設から時々戻られる車椅子のお母さまと自分たちの老後、また当時介護をしていた老犬のために、“スロープの家”にこだわった。「人間も犬も年を取れば足腰が弱り、階段の上り下りが大変になりますよね。ホームエレベーターも考えましたが、災害時の停電や故障などの可能性を考えると、やはりスロープがベストだと思いました。何年も前に雑誌で見かけた“スロープの家”が忘れられなくて、家を建て替えるにあたり、インターネットで検索。前田さんの作品を見つけ、“これだ!”と思い、すぐにコンタクトを取ったのです」(姉)
“スロープの家”を手掛けるのは、ペットと暮らす家の設計に定評のある建築家の前田敦さん。当初は、横田さん姉妹が当時住まわれていた37坪ほどの敷地での建て替えを計画していたが、スロープの家を考えたとき、部屋の面積に比べてスロープの比率が高くなってしまったという。「建築基準法を踏まえると、1階分を上るのに約23mの水平距離が必要となります。スロープの家を計画する場合、階段の住宅に比べ、広い敷地面積が必要になるのです」(前田さん)。
そこで、より広い環境を求めて前田さんと共に土地探しからスタートすることに。もともと住まわれていた自宅から2kmほどのこの場所に、60坪弱の土地が見つかった。そして、夢の“スロープの家”が完成した。
老犬が自力で2階へ
スロープの家は、1階からルーフテラスまですべてスロープのみでアクセスする構成になっている。玄関の土間から正方形の家の外周をぐるりと1周して2階へ上がり、2階のベランダに出てもう1周するとルーフテラスへと続く。緩やかな傾斜のため、階段よりも上下移動は楽だが、距離としては長くなるため、運動量は自然と増える。人にも犬にも健康的なバリアフリー住宅である。
「最初はふくらはぎなどが筋肉痛になりました(笑)。前の家では、姉と2人がかりで抱っこして2階に上げていた老犬のビートが、この家に来て、自力で2階まで歩いてきたときはとても感動しましたね」と妹さん。残念ながら、ビートくんは昨年10月8日に旅立ったそうだが、自由に行き来できるこの家で最期を迎えられたことは、ビートくんや横田さん姉妹にとって何よりも嬉しいことだったであろう。
犬目線の設計
「ワンズと一緒に生活しやすい家であること」を重視している横田邸は、犬との生活動線を考え尽くしたうえに、犬目線の設計になっている。例えば、スロープの床は滑りにくい床材を使用し、内壁は防水性の高いロシアンバーチを採用して尿や傷をブロック。スロープ以外の室内の床材にも滑りにくい磁器タイルを使用し、万が一犬が粗相しても簡単に掃除ができるようにした。また、玄関脇には犬専用の入り口があり、立派なシャワーブースへと続いている。泥だらけで散歩から戻ってもすぐに洗え、そのまま広々とした寝室で自由に過ごせるようになっている。
スロープ幅は120cmと広めに設計。お母さまの車椅子もラクラク通れる幅であるが、理由はそれだけではない。横田さんたちの後ろを尻尾をふって追いかける犬たちの尻尾が壁にあたってケガをしないようにという前田さんの配慮からである。また、スロープには犬の目線の高さに窓も設置し、大好きな外を眺められるようにした。
保護犬のラブラドールに惹かれて
「子どもの頃から、いつもそばに犬がいました」という横田さん姉妹。ラブラドールの保護犬を引き取ってからは、やんちゃで明るい性格のラブラドールに夢中になり、この犬種ばかりを引き取っているという。ビートくんも、現在一緒に暮らすリズムくんもドレミちゃんも、皆保護犬だった。
愛犬への思いにあふれた横田邸では、若いリズムくんとドレミちゃんが毎日運動会を繰り広げているという。くったくなく天真爛漫な2匹は、撮影中も好奇心旺盛で元気いっぱいだった。