Architecture

旗竿敷地での意外な解法子ども目線でつくった
明るくて広い空間

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子どもメインの家づくり

鈴木邸が建つのは目黒区にある旗竿敷地。竿の部分の先に見えるその姿は他では見たことのないものだ。妻側の壁面がそのまま扉のように外へと向かって開いているように見えるのだ。

奥さんとニジアーキテクツの谷口さんが保育園のママ友だったところから設計をお願いすることになったという鈴木夫妻。リクエストとして伝えたのは「リビングは明るく、また人が呼べる空間に」「キッチンから階の全体が見渡せるように」「お風呂は広く掃除がしやすく」などだったが、ともに幼い2人の子どもの親であることから、子どもを中心にした家づくりになったのは自然な流れだった。

「リクエストとしてお伝えはしませんでしたが、子どもメインで考えていました。設計サイドでも子ども目線で考えてくれて、子どもが伸び伸びと遊べる空間もつくっていただきました」と鈴木さん。


旗竿敷地の竿の先の部分に壁を外へと向けて開いたようなエントランスがつくられている。階段を上がって左側に玄関がある。
旗竿敷地の竿の先の部分に壁を外へと向けて開いたようなエントランスがつくられている。階段を上がって左側に玄関がある。

半地下をつくって広く明るく

「お2人の人柄をよく知っていたのでイメージはしやすかった」と話すのは谷口さん。夫で設計事務所を共同主宰する原田さんとまず考えたのは、半地下の部屋をつくって最上階の2階を明るく広い空間にすることだった。

「3階建てにするとどうしても北側斜線の制限から3階が窮屈になってしまう。それだったら建物を少し沈めて最上階を思いきりゆったりした空間にしようと考えた」(原田さん)という。1層を完全に地下に埋めると工事費がかさむので、大きな影響の出ない範囲内に収めるため1.5mほど沈めることに。


2階のベランダ。左がリビングで右が外側へと開いた袖壁。
2階のベランダ。左がリビングで右が外側へと開いた袖壁。

2階リビング。左の袖壁からの反射光が室内へと入る。このように開口を開けると袖壁の部分までリビングが延長したように感じられる。横幅いっぱいの大開口をつくれたのはこの袖壁のおかげ。構造的にも防火の上でも役立っている。
2階リビング。左の袖壁からの反射光が室内へと入る。このように開口を開けると袖壁の部分までリビングが延長したように感じられる。横幅いっぱいの大開口をつくれたのはこの袖壁のおかげ。構造的にも防火の上でも役立っている。

多用途な袖壁

これで2層分に近い高さとなった2階部分は、扉のように開いた部分につくったベランダがリビングが延長しているように感じられることとも相まって実際の床面積以上に広く感じられることに。
このベランダはまたコンパクトな敷地で子どもたちが走り回れる場所を確保することにもつながっている。

旗竿敷地にもかかわらず十分な明るさを確保できたのは三角屋根に設けたトップライトの存在もあるが、妻側に袖壁をつくったことも大きい。2階リビングの大開口が可能になったのはこの外側に開いたように見える袖壁があるおかげなのだ。構造と防火面でも役立っているほか、この袖壁は周囲から家族のプライバシーも守っている。
1階も同様で、玄関扉にガラスを使えたのも寝室の開口を壁の横幅いっぱいに開けられたのもこの袖壁が隣家との間にあるからだ。


南側に設けたトップライトから光が室内へと降り注ぐ。テレビの上の壁面前にはロフトスペースがつくられている。
南側に設けたトップライトから光が室内へと降り注ぐ。テレビの上の壁面前にはロフトスペースがつくられている。
キッチン部分の壁の高さは1.2m。リビングに座っている人からは調理している手元が見えない高さという。
キッチン部分の壁の高さは1.2m。リビングに座っている人からは調理している手元が見えない高さという。


玄関を入って左側に寝室、その奥に浴室がある。浴室はリクエスト通り「広く、かつ掃除がしやすい」ものになったという。階段は段板の裏にリブを設けずすっきりとしたデザインに。リブのかわりに蹴込みの部分に板を渡して補強している。
玄関を入って左側に寝室、その奥に浴室がある。浴室はリクエスト通り「広く、かつ掃除がしやすい」ものになったという。階段は段板の裏にリブを設けずすっきりとしたデザインに。リブのかわりに蹴込みの部分に板を渡して補強している。
玄関前から敷地の竿の部分を見る。右の寝室部分の開口は壁の横幅いっぱいに開けられている。
玄関前から敷地の竿の部分を見る。右の寝室部分の開口は壁の横幅いっぱいに開けられている。
寝室前から階段を見る。一筆書きのように続く手すりが美しい曲線を描いている。
寝室前から階段を見る。一筆書きのように続く手すりが美しい曲線を描いている。


将来は子ども部屋として使う予定の半地下の空間。
将来は子ども部屋として使う予定の半地下の空間。

上のお子さんはこの半地下の空間が家の中で一番のお気に入り。朝起きるとすぐ「地下に行きたい」と言うほどという。
上のお子さんはこの半地下の空間が家の中で一番のお気に入り。朝起きるとすぐ「地下に行きたい」と言うほどという。

大人も満足

設計サイドでは夏場に2階の大開口を開け放しにしてベランダで子どもたちが水遊びをすることも想定したという。去年は「たらいみたいなものをベランダに出したら“キャッキャキャッキャ”と言いながらみんなで走り回って」(奥さん)と想定通りの展開になったそうだ。

夫妻の希望であった「子どもメインの家」になったが、もちろん大人も満足させる空間となっているようだ。「リビングを子どもが大きくなってもみんなが集まれる空間にしてほしいというのは設計の途中でお伝えしたんですが、今まさにわれわれ大人もここにほとんどいるような感じになっています」(鈴木さん)

奥さんの自慢はトップライトという。「朝起きて2階に上がると、天気のいい日はパーッと光がきれいに通って、夜は夜でお月様がきれいに見えるんです」。「初夏とかは、冷房を付けないでもここ(大開口)とトップライトを開けると風が抜けて」とても気持ちよく過ごせるのだという。


「土地を最初に見に来た時にわれわれが共通して抱いたのは、竿の部分から渦を巻くようにして上昇していくイメージでした。それを空間としてつくれたと思っています」と話す原口さん。渦の終着点はリビングの家族の座るあたり。
「土地を最初に見に来た時にわれわれが共通して抱いたのは、竿の部分から渦を巻くようにして上昇していくイメージでした。それを空間としてつくれたと思っています」と話す原田さん。渦の終着点はリビングの家族の座るあたり。

鈴木邸
設計 ニジアーキテクツ
所在地 東京都目黒区
構造 木造+一部RC造
規模 地上2階地下1階
延床面積 64m2