Architecture

対角線上にゆるやかな階段が通る家 5匹の犬たちとともに
伸びやか、おおらかに暮らす

対角線上にゆるやかな階段が通る家 5匹の犬たちとともに 伸びやか、おおらかに暮らす

家の真ん中につくられたゆるやかな階段

同郷のお2人、佐藤さんと須田さんがともに暮らすのは5匹の犬たち。この家のコンセプトにはこの犬たちの存在が大きくかかわる――コンセプトのひとつは「犬たちとともに伸びやか、おおらかに暮らす」というものだった。

この家の大きな特徴である平面の対角線上につくられた階段はこのコンセプトから導き出されたもの。設計を担当した建築家の比護さんは「最初は抱っこして上り下りするというお話だったんですが、階段にスロープを付けて犬と一緒に並んで歩けるようにしようと考えました」と話す。

2階のLDKを見る。できるだけゆるい角度にするために階段は対角線上に配置してめいっぱい距離を長くとった。
2階のLDKを見る。できるだけゆるい角度にするために階段は対角線上に配置してめいっぱい距離を長くとった。
犬たちも楽々上り下りできる階段。階段の上にスロープを付ける予定だったが、コストの関係で延期された。
犬たちも楽々上り下りできる階段。階段の上にスロープを付ける予定だったが、コストの関係で延期された。
手前側は表にある緑を高い位置から見えるようにレベルを上げている。奥は階段の角度をゆるくするため下がっている。
手前側は表にある緑を高い位置から見えるようにレベルを上げている。奥は階段の角度をゆるくするため下がっている。

開放感もほしい

階段を対角線上につくったのはできるだけ距離を長くとって角度をゆるやかにするためだった。家の真ん中にあるためこの階段を中心にして犬たちがぐるぐると走り回ることもできる。この階段には設計案を見て「比護さんらしい斬新な感じだな」と思ったという佐藤さんのリクエストが合体している。階段部分の上にクッションが置いてあってそのうえで寝そべることができるのだ。

そのほか、2階ではお酒の好きな佐藤さんがアルコール類だけを入れる冷蔵庫を入れたい、料理のお仕事をされている須田さんがキッチンにこだわりパントリーをつくりたいと伝えたが、これらに加えて大きめのバルコニーもリクエストだった。「開放感がほしかったので、リビングに隣接して大きなバルコニーを希望しました」(佐藤さん)

開放感という意味ではバルコニーとともに階段と同じ対角線の延長線上に開けられた開口も作用している。視線を遠くまで通すとともにその先に緑がとらえられるように開けられているのだ。

左上の垂木は少しねじれながら奥に続いているため、静的な印象にはならず動きながら連続しているように感じられる。
左上の垂木は少しねじれながら奥に続いているため、静的な印象にはならず動きながら連続しているように感じられる。
左が佐藤さんが希望した日本酒にも対応したセラー。真ん中にロフト用の梯子。右奥がパントリーになっている。
左が佐藤さんが希望した日本酒にも対応したセラー。真ん中にロフト用の梯子。右奥がパントリーになっている。
バルコニー側から見る。佐藤さん(左)は今座っている小上がりがお気に入りの場所。
バルコニー側から見る。佐藤さん(左)は今座っている小上がりがお気に入りの場所。
ロフトから見下ろす。正面奥の右側にバルコニーがある。
ロフトから見下ろす。正面奥の右側にバルコニーがある。
開放感を得るために希望したバルコニー。当初はもっと大きくしたいと考えていたという。
開放感を得るために希望したバルコニー。当初はもっと大きくしたいと考えていたという。

収納スペースもおおらかに

「ちらかっているのがいやなので、なるべくきれいに整うような感じでパントリー、水回りと寝室以外はほぼワンルームで広くて開放的な感じにしてくださいとお願いしました」(佐藤さん)。この要望は1階でもしっかりと反映されている。2階は階段を中心にしてぐるりと回れるつくりになっているが、1階でもお風呂の戸を開ければぐるりと回ることができるのだ。

このつくりは「伸びやか、おおらかに住む」ということにつながっているが、同じ趣旨から収納の方法も工夫された。「おおらかに住みたいということでしたので、極力1階の収納は可動棚にしました。やはり住んでみないとわからない部分もあったので、ここには服の収納あちらにはキャンプ用品を置いてというふうに決めずに、ここからここまでぜんぶ棚を入れられるようにしておくので、置くものが決まったらそれにあわせて収納スペースをレイアウトしてくださいという感じでつくりました。竣工間際にその一角に机をつくりたいという話になったのですが、収納スペースの一部がワークスペースになったり靴を入れたりキャンプ用品を入れたりというように生活に合わせて自由に変えられるようになっています」(比護さん)

左のアール状に切りとられた壁が空間に柔らかな表情を与える。
左のアール状に切りとられた壁が空間に柔らかな表情を与える。
左がお風呂で右奥が寝室。お風呂の戸を開けると階段の周りをぐるりと回ることができる。
左がお風呂で右奥が寝室。お風呂の戸を開けると階段の周りをぐるりと回ることができる。
犬たちの体を洗えるように大きめの洗面にした。
犬たちの体を洗えるように大きめの洗面にした。
洗面側から玄関方向を見る。
洗面側から玄関方向を見る。

竣工から1年と2カ月ほど、佐藤さんは階段の上につくられたクッションのスペースがお気に入りという。「お酒を飲んでからここですぐひっくりかえってテレビを見ていてそのまま犬たちといっしょに寝てしまうことも多いので、ここが自分ではいちばん気持ちがいいんだろうなと思います」 

須田さんはこだわってつくったパントリーがお気に入りという。「ちょっと広すぎるかなと思ったんですが、これくらいあるとまだまだいろいろと整理がつけられるのでいいですね。それとキッチンとダイニングがコンパクトにまとまっているのでご飯をつくって食べて洗ってというのがほぼひとつの場所ですむのもよかったです」。さらに「収納に関しては満足がいく状態に落ち着くまで2年かかりますって比護さんに言われたのですがそれはその通りだなといま思っていて、まだいろいろこうやってみたいとかああやってみたいとかと考えています。それがまたとても楽しいですね」と続ける。

「あまりかっちりしすぎていないのがいい」という佐藤さん。犬たちも走り回ったりそれぞれが好きなところで寝て好きなところで遊んでいて喜んでいるようだという。犬たちと「伸びやかに暮らす」という当初のコンセプトは見事に実現されているようだった。

正面にマンションがあるため、視線が抜けるようにこの左手にもうひとつ開口を設けている。
正面にマンションがあるため、視線が抜けるようにこの左手にもうひとつ開口を設けている。
玄関を入ると右手に収納内容によって変更できる可動棚による収納スペースが続く。
玄関を入ると右手に収納内容によって変更できる可動棚による収納スペースが続く。
バルコニー+駐車場でよく見かける外観になるのを避けて「ちょっと楽しい感じにできないか」と考えられたデザイン。
バルコニー+駐車場でよく見かける外観になるのを避けて「ちょっと楽しい感じにできないか」と考えられたデザイン。
内部にもあるアール状のデザインがここでも採用された。右の開口はお隣とコミュニケーションできるよう開けられた。
内部にもあるアール状のデザインがここでも採用された。右の開口はお隣とコミュニケーションできるよう開けられたもの。

佐藤・須田邸
設計 ikmo
所在地 東京都清瀬市
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 97.42㎡