Architecture
別荘地のように静かで緑に囲まれた家 緑と空の見える図書室で
ゆったりと本を読んで過ごす
![別荘地のように静かで緑に囲まれた家 緑と空の見える図書室で ゆったりと本を読んで過ごす 別荘地のように静かで緑に囲まれた家 緑と空の見える図書室で ゆったりと本を読んで過ごす](https://img.100life.jp/2020/11/24121307/201130uen-1080x480.jpg)
外を気にせず開放感のある家
「東京にいる感じがしません」という上野さん。敷地を購入したときには周囲は植木畑だった。現在では畑の面積は減ったものの緑が多く、また静かな環境で「蓼科や軽井沢などの別荘地に住んでいるような感じがする」と話す。
上野夫妻が設計を依頼した建築家の村田淳さんへのリクエストは大きなところでは2つあった。「ひとつは外の目を気にしないで暮らしたい。当初、コートハウスのイメージをもっていたので、外の目をあまり気にしないで生活ができて、かつ開放感のある家がいいなと」
![右の駐輪スペースの後ろに立つのがアズキナシ。図書室の外につくられたデッキスペースに植えられていて2階からもその緑を楽しむことができる。](https://img.100life.jp/2020/11/24120936/201130uen-001-1024x702.jpg)
図書室をつくる
「もうひとつは図書室がほしかったんですね。本が多いので、家族3人の本を1カ所に集めて、みんなで読める場所をつくってもらいたいとお願いしました」(上野さん)
図書室をつくる思いは上野さんがいちばん強かったという。「引っ越しのたびに本を処分するのがとてもつらかったようで、この家ではちゃんとスペースをつくろうということになりました」(奥さん)
上野さんも「自分の家ができたら本はすべて捨てずにとっておいていつでも読み返せるようにしたいという思いは強くありました」と話す。さらに「本はどこでも読むし寝る前に読んだりもするんですが、ゆったりと座って気持ちよく読めるスペースがほしかった」とも。
![半地下につくられた図書室を1階レベルから見る。](https://img.100life.jp/2020/11/24120942/201130uen-002-683x1024.jpg)
![庭側から図書室の外部につくられたデッキスペースを見る。アズキナシの木が見える。](https://img.100life.jp/2020/11/24120951/201130uen-003-683x1024.jpg)
![デッキスペース側から図書室と奥の庭を見る。半地下につくられた図書室の天井高は約3.8mある。](https://img.100life.jp/2020/11/24121001/201130uen-004-1024x683.jpg)
夫妻ともに図書室のイメージとしてもっていたのはオードリー・ヘプバーンが主演した1963年の『マイ・フェア・レディ』のヒギンス教授の書斎だった。バーナード・ショーの戯曲『ピグマリオン』を原作とするこの映画では、2層分のスペースが本棚でぎっしりと埋まり、上の棚にある本を梯子を使って取るシーンがあるが、そこから梯子付きの背の高い本棚が生まれた。
天井高約3.8m。設計側では住宅でこの大きさを確保するための苦労があった。「この土地は建ぺい率に余裕がないので いろんなご要望を入れていくとどうしても入りきらない。図書室を魅力的な空間にしたいけれども、かといってほかの部屋がその犠牲になるのも良くない。それで寝室を地下にもっていくことにしました」(村田さん)
![本棚の上にも開口が設けられて明るい室内。対面して設けられたデッキスペース側と庭側の2つの開口の間を空気が流れ湿気の心配もない。](https://img.100life.jp/2020/11/24121012/201130uen-005-1024x683.jpg)
![階段下から庭の緑を見上げる。](https://img.100life.jp/2020/11/24121022/201130uen-006-1024x683.jpg)
![玄関から小窓を通して図書室を見ることができる。](https://img.100life.jp/2020/11/24121032/201130uen-007-1024x683.jpg)
![高2の息子さんはこの図書室について「作業が落ち着いてできてけっこう快適です。明るいのもいいですね」と話す。ソファの左に見えるのが寝室開口部。](https://img.100life.jp/2020/11/24121042/201130uen-008-683x1024.jpg)
![デッキスペースの脇に植えられたアズキナシ。](https://img.100life.jp/2020/11/24121051/201130uen-009-683x1024.jpg)
半地下からの眺め
しかし単に地下にもっていっただけでは湿気の問題が発生する。そこで天井高のある図書室を半地下につくりその両サイドに大きめの開口を設けて空気がこもらず流れるようにしたうえで、さらに低い位置にある寝室とつなげることにした。
半地下にある図書室のソファに座ると開口からは緑と空しか見えない。このスペースの心地よさはこの緑が大きく作用していると夫妻で口をそろえていう。「窓が上にあるため、両サイドにある緑を下から見上げるかたちになります。そうすると緑の後ろに空だけ見える感じになるのでそれがものすごく気持ちがいいんです」(上野さん)
![濡れ縁から図書室を見る。奥のデッキスペース側の開口との間で風が抜ける。](https://img.100life.jp/2020/11/24121103/201130uen-010-1024x683.jpg)
![静かで落ち着いた空気感のある庭。この緑があるおかげでお隣の視線も気にならない。手前の木はオオサカズキ(モミジ)。](https://img.100life.jp/2020/11/24121113/201130uen-011-1024x683.jpg)
![床がルーバー状になっているのは地下との間で空気を循環させるため。その上は物干しスペースになっている。](https://img.100life.jp/2020/11/24121123/201130uen-012-683x1024.jpg)
![右奥に見えるのが玄関でその左に図書室がある。](https://img.100life.jp/2020/11/24121132/201130uen-013-683x1024.jpg)
![地下室からルーバー状の床を見上げる。左下の鉄棒は上野さんが懸垂をするために取り付けられたもの。](https://img.100life.jp/2020/11/24121143/201130uen-014-683x1024.jpg)
![階段室を1階から見る。](https://img.100life.jp/2020/11/24121151/201130uen-015-683x1024.jpg)
2階の天井とキッチン
道路側にアズキナシが立ち、奥の庭にはオオサカズキとシラカシなどが植えられているが、それらの緑は2階からも楽しむことができる。下階とはまた違う角度から緑に接することのできる2階は家型の天井がL字でつながっている。
「勾配屋根の木造の2階は天井を自由につくりやすいので、空間に変化をつけるためにL字のプランのままに家型の天井をつなげてみました。家型にするとフラットな天井よりも陰影が出るし、陰の部分も時間によって表情が変わっていくので面白いのではないかと」(村田さん)
リビングダイニングと一体的につくられたキッチンでは、食洗器をビルトインにするなど隠せるものはなるべく隠して表にモノが出ないようにするほか、広さについてのリクエストがあった。「2人立てるような広さにしてくださいとお願いしました。一緒に料理することも多いので、2人いてもつっかからないような広さがほしいとお伝えしました」(奥さん)
![リビングからダイニングとキッチンを見る。キッチンは夫婦2人で作業ができるよう広めにつくった。家型の天井を交差させた部分は少し不思議な印象を与える造形になっている。](https://img.100life.jp/2020/11/24121202/201130uen-016-1024x683.jpg)
![ダイニングとキッチンを見る。ダイニングからキッチン内のモノが見えないようキッチンを囲む壁の部分を高くしている。](https://img.100life.jp/2020/11/24121212/201130uen-017-683x1024.jpg)
![2階は引き戸で階段室が仕切られるようになっている。](https://img.100life.jp/2020/11/24121221/201130uen-018-683x1024.jpg)
![約24㎡あるリビングダイニング。表と庭側の2つの開口のほかにテレビの上にも開口が開けられていて室内が明るい上に天井も高めで快適に過ごせる空間になっている。](https://img.100life.jp/2020/11/24121231/201130uen-019-1024x683.jpg)
![キッチンからリビングを見る。右の開口からはアズキナシの木がよく見える。](https://img.100life.jp/2020/11/24121241/201130uen-020-1024x683.jpg)
![リビングから庭の方向を見る。オオサカズキが少し紅葉しているのが見える。](https://img.100life.jp/2020/11/24121250/201130uen-021-1024x683.jpg)
![アズキナシの前の室内にも緑が置かれている。](https://img.100life.jp/2020/11/24121300/201130uen-022-1024x683.jpg)
“ここはどちらですか?”
最後にこの家で5年ほど暮らされての感想をうかがった。「図書室がいちばん好きなスペースですね。両方に緑と空が見えてまた静かで明るい部屋なので、最高の空間かなと思っています」と奥さん。さらに2階のキッチンスペースも好きという。「キッチンに立つとちょうどアズキナシがダイレクトに見られてお気に入りの場所ですね」
上野さんも自らの強い希望でつくった図書室がやはりとても気に入っているという。「しかし、僕がメインで使おうと思っていた当初の予定と違って家族に取られてしまうことが多い」と話す。3月からのコロナ禍のもとでは大学で英語の教師をされている奥さんがZoomでオンライン授業を行う際に図書室を使っているため「ほぼ使えない」状態になっているという。
「Zoomでは皆さん背景を替えたりしますが、うちではそのまま室内を映しています。そうすると大きな本棚とその後ろの中庭の緑が大きな開口を通して見えるので、“ここはどちらですか?”とよく聞かれます。今は思っていたほど図書室で過ごすことができていないですが、やっぱりあそこに座るとすごく落ち着くし集中もできるのですごくいいですね」。こう話す上野さんには、世の中とはまた別にもうひとつ、「コロナ禍が早く過ぎ去ってほしい」と願う強力な理由があるように思えた。
上野邸
設計 村田淳建築研究室
所在地 東京都三鷹市
構造 木造
規模 地上2階地下1階
延床面積 142.19㎡