Architecture
都心の狭小地に建つ建築家の自邸 人も猫も思い思いの場所で過ごす
出窓に囲まれた5層の家
隣家に配慮した八角形の家
東京都渋谷区内の駅から徒歩1分。建築家の藤貴彰さんと悠子さん夫妻は、1年ほど前、都心の路地に面した狭小地に自邸を建てた。7歳の息子さん、4歳の娘さん、猫2匹と共に暮らすその家は、八角形の箱を積み重ねたような外観が圧倒的な存在感を放っている。
「すでに建っている隣家の窓を壁でふさぐことや窓がお見合いすることは避けたかったので、敷地に対して斜めに四隅を切り、敷地の角に向かって窓を設けました。足元の設置面積は敷地面積の40%くらいに抑え、空間を作ることで光と風を確保できるようにしたのです」(貴彰さん)。
八角形という建物の形状は、通常の四角形の建物に比べ、周囲の通風・採光への悪影響が少ないことをシミュレーションによって確認したという。住宅密集地における隣家に配慮した住宅となっている。
家具として考えられた出窓
「外からはなるべく縮めていくよう意識しましたが、逆に、屋内は最大限に膨らませていくことを考えました」と貴彰さん。
まず、地階から屋上まで各階に奥行き45cmの出窓をぐるりと設置した。建築基準法では、外壁から張り出した長さが50cm未満であれば延床面積には含まれないことに着目したのである。そして、天井は鉄骨のあらわしにし、床をなるべく薄くしてできる限り天井を高く印象付けた。さらに、フローリングの床板は中心から外側に向かって張り、外へと広がる視線効果を狙った。
「“出窓”というコンセプトは、狭小住宅を自分が手掛けることになったら実践してみたいアイデアのひとつでした」と話すのは悠子さん。
出窓は構造の一部でありながら家具として活用することを考えたという。並んで座れるソファとして、また勉強やお絵描き、PC作業をするためのデスク代わりに、ゴロンと昼寝ができるデイベッドとしてなどさまざまな使い方をイメージした。そのときの気分で家族が思い思いの場所で自由に過ごせる、“居場所”がたくさんある家を目指した。
また、藤邸の出窓は、光・風・熱の環境を分析し、3つの役割を持たせている。光を取り入れるための出窓、風を取り入れるための出窓、光と風を遮る壁窓を効果的に配置し、それぞれの階の出窓で心地よく過ごせるよう計算されている。
猫も楽しめる、さりげない造り
ワンルームが積み重なったシンプルな建物の藤邸だが、季節や時間帯によって光の具合や景色が変わり、階ごとに異なった表情を見せてくれるという。「都心に住んでいながらも、自然の移り変わりに敏感になりますね」と悠子さん。豊かで贅沢な時間をもたらしてくれるようだ。
また、10年共に暮らしている猫のアンちゃん(ロジアンブルー・オス・10歳)とメイちゃん(ミックス・メス・10歳)の習性や行動を考えた造りにもなっている。キッチンの上部をあえて空け、階段からそのまま飛び移れるようにしていたり、1階の本棚は猫が歩き回れるようゆとりのある棚の奥行きに設定していたり。
「猫のための設えというのではなく、人が使うものとして美しくありながら、猫も楽しめる家にしたかったのです」(貴彰さん)。
上下運動や日向ぼっこが好きな猫たちが5層の建物を自由に行き来でき、猫にとっても快適な家となった。
「猫についていくと、その時々で最も心地よい場所に出会えますよ(笑)」(悠子さん)。
高層ビルや特徴的な形態の建物を手掛けてきた貴彰さんと、ホテルなどの小さな空間を活躍の場としてきた悠子さん。建築家ご夫妻がそれぞれの得意分野を活かしてアイデアを出し合い、完成した藤邸は、知識と経験が詰まった実験的な住宅である。
藤邸
設計 藤貴彰+藤悠子 アーキテクチャー
所在地 東京都渋谷区
構造 鉄骨造
規模 地下1階、地上4階
延床面積 84.35㎡