Architecture

猫たちのお気に入りがいっぱい 適度な距離感で住まう
大人4人と猫6匹の快適生活

猫たちのお気に入りがいっぱい 適度な距離感で住まう 大人4人と猫6匹の快適生活

それぞれの飼い猫が大集合

「一緒に住めばいいのに」と夫の一言から始まったという吉田邸の建て替え計画。妻・沙織さんの祖父母が亡くなったあと空き家になっていた神奈川県横浜市の家に住んでいた吉田さん夫妻は、県内の他市に住む沙織さんの母・小原清美さんと妹・千春さんに同居話を持ち掛けた。同時に、それぞれの家で飼われていた猫6匹も集結することになった。
「母の家としょっちゅう行き来していて、そのたびにお互いの猫たちも連れて移動していました。その様子を見ていた夫からの思いがけない提案で、えっ、いいの?という感じでした(笑)」

大人4人と猫6匹が快適に暮らせる家を求めて、家づくりがスタート。設計は、ペットと暮らす家をいくつも手掛けている建築家の石川淳さんに依頼した。
「石川さんの作品に興味をもっていた、いとこから教えてもらいホームページを見たのです。シンプルで流行り廃りのないデザインと、キャットウォークがさりげなくリビングと一体化しているところが素敵だなと思い、早速コンタクトを取りました」(沙織さん)。

2階リビングに設えたキャットウォーク。猫たちが自由に行き来する姿に癒される。
2階リビングに設えたキャットウォーク。猫たちが自由に行き来する姿に癒される。
旗竿敷地に建つ。縦スリットの2階窓から猫たちが外を見下ろしていることも。
旗竿敷地に建つ。縦スリットの2階窓から猫たちが外を見下ろしていることも。
沙織さんが書かれた文字をモチーフにした、オリジナルのアイアン表札が目を引く。
沙織さんが書かれた文字をモチーフにした、オリジナルのアイアン表札が目を引く。

シェアハウスのような心地よさ

まず、こだわったのは、4人それぞれの部屋を確保すること。1階には清美さんと千春さん、3階には沙織さんと夫の部屋として、コンパクトな4つの個室を配置。共有スペースとはしっかり分けた造りになっている。
「将来、家族の形も変わるかもしれないし、好みもそれぞれなので、個室はシンプルな造りで各自がアレンジできるようにしてもらいました」(千春さん)。

1階の廊下には、天井までの壁面収納を造り、各自に振り分けた。また、女性専用の大型クローゼットも設置。女性3人で洋服をシェアすることもあるため、1か所にまとめることで使い勝手もよいという。収納をたっぷり設けたことで、各自の部屋はコンパクトでもすっきりとした空間を保つことができる。

家族が集まる2階のLDKは、南側の採光をたっぷり取り込んだ吹き抜けのある大空間。みんなでキッチンに立つこともあるため、キッチンは回遊できるアイランドを採用し、通路も広めに設定した。
「なんとなく2階で一緒に過ごしていることが多いのですが、個室があることでプライベートをしっかり確保でき、程よい距離感で過ごせます。シェアハウスのような心地よさがありますね」(沙織さん)

2階リビングは3階まで吹き抜けに。3階に設えたブリッジ状の廊下から、リビングでくつろぐ人間たちを猫が見下ろしていることもあるそう。も人も見下ろすポイントに。の渡り廊下風の造りは、清美さんのお気に入り。
2階リビングは3階まで吹き抜けに。3階に設えたブリッジ状の廊下から、リビングでくつろぐ人間たちを猫が見下ろしていることもあるそう。
猫が物を落としにくいように立ち上がりを付けたアイランドキッチン。IHクッキングヒーターのスイッチは猫の肉球にも反応するため、カバーを造ってもらった。壁側の収納は造作で、食器や調味料、調理具など収納。
猫が物を落としにくいように立ち上がりを付けたアイランドキッチン。IHクッキングヒーターのスイッチは猫の肉球にも反応するため、カバーを造ってもらった。壁側の収納は造作で、食器や調味料、調理具など収納。
3階の夫の部屋。ゲームをするときには個室に籠るそう。
3階の夫の部屋。ゲームをするときには個室に籠るそう。
沙織さんの部屋には小さなウッドデッキが併設。小さなテーブルが置かれ、まるで“猫用アウトドアリビング”。
沙織さんの部屋には小さなウッドデッキが併設。小さなテーブルが置かれ、まるで“猫用アウトドアリビング”。
3階のシャワーブース。1階にバスルームがあるものの、朝の忙しい時間帯などに使用。
3階のシャワーブース。1階にバスルームがあるものの、朝の忙しい時間帯などに使用。
階段下は収納として活用。1階に向かう階段の一角は、まろくん(オス、6歳)のお気に入りスペース。自ら扉を開けて入るのだそう。
階段下は収納として活用。1階に向かう階段の一角は、まろくん(オス、6歳)のお気に入りスペース。自ら扉を開けて入るのだそう。
1階廊下に設えた天井までの壁面収納。4人それぞれ専用の収納スペースを持っている。
1階廊下に設えた天井までの壁面収納。4人それぞれ専用の収納スペースを持っている。
1階に設置した大型クローゼットは女性専用。収納グッズを上手に利用し、整理整頓されていた。基本的に、猫は立ち入り禁止。
1階に設置した大型クローゼットは女性専用。収納グッズを上手に利用し、整理整頓されていた。基本的に、猫は立ち入り禁止。

猫が喜ぶ仕掛けが満載

「猫が快適な“お猫様御殿”です」と清美さんが笑うように、自由気ままな猫たちの暮らしやすさも重視。猫の習性や行動を考慮し、室内飼いでも飽きない工夫が随所に見られる。

まずは、2階リビングのテレビ台から3階の廊下まで巡らしたキャットウォーク。リビングを見渡しながら家族と一緒に過ごせるため、猫たちにも大人気。壁の白と統一したデザインは、インテリアにさりげなく溶け込んでいる。リビングの床に開いた穴は猫専用階段の出入り口で、1階と続いている。人間用の階段と合わせて2つのルートを用意したことで、6匹の猫たちのトラブル回避にもつながった。キャットウォークも猫階段も、行き止まりをなくした動線を考えた設計で、家中を回遊できる。猫たちが自由に動き回れ、運動量のアップにもつながり、ストレスの軽減にもなっている。

床暖房の入ったリビングの床では、猫たちがゴロゴロと横たわっていることも。太陽の動きに合わせて移動し、自然光に包まれながらお昼寝タイムを満喫している。
外を眺めることが好きな猫たちのために、小さなベランダや窓を所々に設けた。それぞれの猫の特性にあったキャットタワーも置かれ、猫それぞれがお気に入りの場所で過ごしている。

3階の渡り廊下からリビングを見下ろす。ひと続きにつながるキャットウォークのラインが美しい。
3階の渡り廊下からリビングを見下ろす。ひと続きにつながるキャットウォークのラインが美しい。
左から、千春さんと春太くん(オス、8歳前後)、清美さんとももちゃん(メス、13歳)、沙織さんと久太郎くん(オス、3歳)。右側のベランダ前の穴が1階へ続く猫用階段の出入り口。
左から、千春さんと春太くん(オス、8歳前後)、清美さんとももちゃん(メス、13歳)、沙織さんと久太郎くん(オス、3歳)。右側のベランダ前の穴が1階へ続く猫用階段の出入り口。
1階から猫用階段を昇り、春太くんが登場。リビングで寛いでいるときに、突然猫が床から現れる光景はユニーク。
1階から猫用階段を昇り、春太くんが登場。リビングで寛いでいるときに、突然猫が床から現れる光景はユニーク。
1階廊下の奥に設けた猫用階段。階段を昇るとリビングへ続く。チョコくん(オス、3歳)と久太郎くんの若い3歳コンビが活発に昇り降りするそう。
1階廊下の奥に設けた猫用階段。階段を昇るとリビングへ続く。チョコくん(オス、3歳)と久太郎くんの若い3歳コンビが活発に昇り降りするそう。
3階の渡り廊下。リビングが見下ろせ、大きな窓からはあたたかな日差しも入るため、猫の日向ぼっこスペースとして最適。
3階の渡り廊下。リビングが見下ろせ、大きな窓からはあたたかな日差しも入るため、猫の日向ぼっこスペースとして最適。
3階のキャットウォークの到達点には、猫が通れるトンネルを用意。唯一の女の子・ももちゃんが可愛らしいお顔をのぞかせていた。ぞいていた。
3階のキャットウォークの到達点には、猫が通れるトンネルを用意。唯一の女の子・ももちゃんが可愛らしいお顔をのぞかせていた。
1階の千春さんの部屋。ちょっぴり臆病なくろくん(オス、6歳)は、この部屋のクローゼットに籠り気味。運動能力の高いくろくん用のキャットタワーを設置。
1階の千春さんの部屋。ちょっぴり臆病なくろくん(オス、6歳)は、この部屋のクローゼットに籠り気味。運動能力の高いくろくん用のキャットタワーを設置。
坪庭を介して猫が自由に行き来できるように、千春さんの部屋と清美さんの部屋の双方に猫専用出入り口をつけた。
坪庭を介して猫が自由に行き来できるように、千春さんの部屋と清美さんの部屋の双方に猫専用出入り口をつけた。
清美さんの部屋。窓の外にあるウッドデッキは、2階のベランダ下に位置する。高齢のももちゃんが愛用するキャットタワーは段差が控えめになっている。
清美さんの部屋。窓の外にあるウッドデッキは、2階のベランダ下に位置する。高齢のももちゃんが愛用するキャットタワーは段差が控えめになっている。

人と猫が楽しく共存

多頭飼いで気になるのは、トイレ問題。「独立した猫のトイレ室を希望しました」と沙織さん。LDK脇に設けた猫のトイレ専用スペースは、半透明の引き戸でしっかり閉めることができるため、来客時などにもさっと隠せて便利。奥にはサービスバルコニーを設置し、汚物を取ったらすぐに外に出すことができるようにした。また、室内に設置した換気扇を24時間まわし、空気清浄機も置くなど、臭い対策は万全である。6匹分のトイレがズラリと並んでいるが、臭いは全く気にならなかった。

大人4人と猫6匹が共存する吉田邸。空間が広く、人も猫もそのときの気分によって過ごせる居場所がたくさんあり、ストレスのない穏やかな時間が流れている。猫たちの愛くるしい姿とお茶目な行動に癒され、笑いに満ちあふれていた。

床暖房の入ったリビングは、猫にとって最高の心地よさ。季節や時間によって降り注ぐ太陽の位置が変わり、それに沿って動く猫の姿も楽しい。右側の半透明の引き戸内が猫のトイレ室。
床暖房の入ったリビングは、猫にとって最高の心地よさ。季節や時間によって降り注ぐ太陽の位置が変わり、それに沿って動く猫の姿も楽しい。右側の半透明の引き戸内が猫のトイレ室。
6匹分のトイレが並ぶ、猫のトイレ室。奥にはゴミが置けるサービスバルコニーを設置。キャットタワーからは玄関前の様子が見える。
6匹分のトイレが並ぶ、猫のトイレ室。奥にはゴミが置けるサービスバルコニーを設置。キャットタワーからは玄関前の様子が見える。
リビングから一続きになったウッドデッキ。猫も自由に行き来できる。奥の下が、清美さんの部屋。
リビングから一続きになったウッドデッキ。猫も自由に行き来できる。奥の下が、清美さんの部屋。

吉田邸
設計 株式会社 石川淳建築設計事務所
所在地 神奈川県横浜市
構造 木造
規模 地上3階
延床面積 132.81㎡