Architecture

里山の風景を取り込む 室内と一続きの軒下テラスが
豊かな時間をもたらす

里山の風景を取り込む 室内と一続きの軒下テラスが 豊かな時間をもたらす

自然に囲まれて暮らしたい

昔ながらの里山の風景が広がる地に、自宅兼アトリエを構えた建築事務所アオイデザインを主宰する青山茂生さんと隅谷維子(ゆきこ)さん夫妻。これまで都心のマンションを拠点に仕事や生活をしてきたが、「自然に囲まれて暮らしたい」という2人の思いが合致。物件第一で広範囲に渡って土地を探し、この地に出会った。
「横浜市内なのですが、このあたりは市街化調整区域になっていて、市街化を抑制するエリアとして定められています。そのため里山が残っているのが私たちにとって魅力だったのです」(隅谷さん)。

焼杉張りの外壁が豊かな自然の中に溶け込んでいる。視界が開けた東側と南側には、室内の床からフラットにつながるテラスを各階に設けた。周囲と高低差があるため、まるで緑の中に浮いているような佇まいとなった。

横浜市内の住宅街を通る幹線道路から入ること徒歩数分。里山の風景に囲まれた傾斜地に建つ。焼杉を用いた外壁が緑に映える。
横浜市内の住宅街を通る幹線道路から入ること徒歩数分。里山の風景に囲まれた傾斜地に建つ。焼杉を用いた外壁が緑に映える。
細いアプローチをもつ旗竿地。アプローチには「ドライフラワーになる樹木を植えてもらいました」と隅谷さん。
細いアプローチをもつ旗竿地。アプローチには「ドライフラワーになる樹木を植えてもらいました」と隅谷さん。
眺望が開けた東側と南側に軒下空間を配置。軒は建蔽率に入らない奥行1m以内に設定。
眺望が開けた東側と南側に軒下空間を配置。軒は建蔽率に入らない奥行1m以内に設定。
2階に設けた、ご夫妻念願のアウトドアリビング。眺望を遮らないように、手すり壁の高さは低めに設定した。「座卓にしたことで景色が広がりました」(青山さん)。
2階に設けた、ご夫妻念願のアウトドアリビング。眺望を遮らないように、手すり壁の高さは低めに設定した。「座卓にしたことで景色が広がりました」(青山さん)。

緑と空と陽光を満喫する

リビング、ダイニング、キッチンがワンルームになった広々とした2階は、室内外をゆるやかにつなぐテラスがさらなる空間の広がりを強調。また、斜線制限をかわして最大限に高くした天井が開放感を盛り上げる。
東側と南側に設けた大開口からは、ダイナミックな里山の風景が飛び込んでくる。澄んだ空気とともにじっくりと浸ることができる。

青山さんが特に気に入っているというのが、北側のハイサイドライトを介しての眺め。
「ソファに身を預けると、ハイサイドライトから北側の澄んだ青空と裏のヒマラヤスギが視界に入ってくるため、都心では味わえないゆったりとした気分になります」。
早起きの隅谷さんは、「朝日が昇ってくると東側の窓から光が差し込み、ダイニングの壁を金色に照らすんです。自然の現象が家の中に満ちる瞬間に感動しますね」。

時折、リビングとダイニングの位置を入れ替えたり、家具の向きを変えたりと模様替えを楽しんでいるというお2人。
「家具の位置を変更することで視界に入る景色が変わり、気持ちもリフレッシュされます」と青山さん。

階段を上がってくると、借景を最大限に生かした開放的なワンルームが広がる。テラスに置かれた植物が奥行き感を演出。
階段を上がってくると、借景を最大限に生かした開放的なワンルームが広がる。テラスに置かれた植物が奥行き感を演出。
ブルーグレーのタイルに囲まれた対面式キッチン。「緑を眺めながらの調理は気持ちいいです」と隅谷さん。ゆったりとしたソファは『HUKLA』。
ブルーグレーのタイルに囲まれた対面式キッチン。「緑を眺めながらの調理は気持ちいいです」と隅谷さん。ゆったりとしたソファは『HUKLA』。
引っ越しを機に購入したサボテンは順調に成長中。その奥は1階に続く吹き抜けになっている。
引っ越しを機に購入したサボテンは順調に成長中。その奥は1階に続く吹き抜けになっている。
『ERCOL』のブックトロリー(奥)は、アウトドアリビングで食事をする際に食器等を運ぶワゴンとしても活躍。
『ERCOL』のブックトロリー(奥)は、アウトドアリビングで食事をする際に食器等を運ぶワゴンとしても活躍。
シンク下のキャビネットは『IKEA』で購入し、天板にはナラの巾ハギ材を実験的に組み合わせた。壁の一部はタイルにし、メンテナンスも考慮。
シンク下のキャビネットは『IKEA』で購入し、天板にはナラの巾ハギ材を実験的に組み合わせた。壁の一部はタイルにし、メンテナンスも考慮。
キッチン背面の引き戸内には、冷蔵庫や洗濯機など生活感の出る家電をすべて収納。『IKEA』の食器棚や収納グッズを使用し、無駄なく整理整頓。
キッチン背面の引き戸内には、冷蔵庫や洗濯機など生活感の出る家電をすべて収納。『IKEA』の食器棚や収納グッズを使用し、無駄なく整理整頓。
手前のダイニングテーブルは栃木県の古道具屋で見つけたアンティーク。ダイニングとリビングの位置は、以前は逆だったそう。
手前のダイニングテーブルは栃木県の古道具屋で見つけたアンティーク。ダイニングとリビングの位置は、以前は逆だったそう。

DIYでコストダウン

「コストダウンを考えて、自分たちでできることはしようと、自らDIYしたところも多いんですよ」と青山さん。床や天井、建具はすべてグレーのオイルを塗装し、後から購入したアンティークの家具なども同様に塗装して、全体のトーンを揃えた。
また、漆喰の壁もすべて自分たちで塗った。「想像をはるかに超える大変さで、仕事そっちのけでやっていました」と笑うお2人。建具にロールスクリーンの生地を張ったり、IKEA製品を組み立てたり。カーテンレールやスクリーンの採寸・設置なども自分たちで行ったという。
「図工遊びの延長のようで楽しいです。癖になりますね」(隅谷さん)。

「自分たちのための家を一から造りたい」と、戸建てにこだわった自邸が完成して2年半。自らが設計した家で実際に生活することで、実験的に採用した材料の特性や使い勝手など、さまざまな発見があったという。
「家が完成したときがゴールではなく、徐々に家具を揃えたり、カスタマイズしたり、模様替えしたり。住まいながら試行錯誤を重ねることで、変化していく楽しみがあります」(隅谷さん)。

眺望を満喫しながら仕事ができる、1階のワークスペース。ツガ材の天井を軒まで連続させることで、視覚的に広がりをもたせた。
眺望を満喫しながら仕事ができる、1階のワークスペース。ツガ材の天井を軒まで連続させることで、視覚的に広がりをもたせた。
ワークスペースの奥に設けた吹き抜けが、開放感をプラス。1階、2階に分かれて過ごしていても、程よく気配を感じられるとのこと。
ワークスペースの奥に設けた吹き抜けが、開放感をプラス。1階、2階に分かれて過ごしていても、程よく気配を感じられるとのこと。
パーテーションとして使用しているアンティークのキャビネットはネットで購入したもの。ドライフラワーがそこここにセンス良く飾られている。
パーテーションとして使用しているアンティークのキャビネットはネットで購入したもの。ドライフラワーがそこここにセンス良く飾られている。
階段のフォルムをそのまま見せた階段。蹴込部分は角度をつけて上りやすく。
階段のフォルムをそのまま見せた階段。蹴込部分は角度をつけて上りやすく。
透過性のあるロールスクリーンの生地をはめ込んだ引き戸は、現場監督と青山さんで仕上げたもの。
透過性のあるロールスクリーンの生地をはめ込んだ引き戸は、現場監督と青山さんで仕上げたもの。
たたきを設けず、廊下と一体化した玄関はテラスドアを採用。オーク材の床は幅の広いタイプと細いタイプを組み合わせ、変化をつけた。
たたきを設けず、廊下と一体化した玄関はテラスドアを採用。オーク材の床は幅の広いタイプと細いタイプを組み合わせ、変化をつけた。
エントランス脇に設けたウォークインクローゼット。靴も傘もすべて収納。『IKEA』の引き出しは取っ手を付け替え、アレンジ。
エントランス脇に設けたウォークインクローゼット。靴も傘もすべて収納。『IKEA』の引き出しは取っ手を付け替え、アレンジ。
1階の寝室。壁下部に斜めに入ったグレーの木毛セメント板は、テラスにつけた外の手すり壁と同じ高さでデザイン。階段や2階の壁にも採用し、外と内のつながりをもたせた。
1階の寝室。壁下部に斜めに入ったグレーの木毛セメント板は、テラスにつけた外の手すり壁と同じ高さでデザイン。階段や2階の壁にも採用し、外と内のつながりをもたせた。
大きな窓から見事な景観が楽しめる1階のバスルーム。壁にはキッチンと同じタイルを使用。
大きな窓から見事な景観が楽しめる1階のバスルーム。壁にはキッチンと同じタイルを使用。

青山・隅谷邸
設計 アオイデザイン/aoydesign
所在地 神奈川県横浜市
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 92㎡