Architecture
都市に住まう建築家の選択 家の中と外に、
たくさんの居場所を作る
街全体を暮らしの一部に
建築家の西川日満里さん、坂爪佑丞さん、琴ちゃんが暮らす家は、西川日満里さんが共同主催するツバメアーキテクツと、設計事務所に勤務する坂爪佑丞さんの共同設計だ。琴ちゃんの誕生をきっかけに、2019年に竣工。
「自邸を設計し、実際に住んでみて気づくことがたくさんありました。たとえば大きく開いたトップライトは、1年を通して暮らしてみることでその良さと難しさの両方を知ることができます」
家は阿佐ヶ谷の賑やかな通りに面して建つ。
「都市に住むと、徒歩圏内に暮らしに必要な場所を持つことができます。週末は銭湯に行って広々としたお風呂を楽しんだり、図書館を利用したり、遊びに来た友人とすぐ近くの料理店へ足を運びます。家の外で生業が広がっているので、それらを利用し、共存しながら暮らしたいと思いました」
家のあちこちに居場所を作る
「都市部の狭小地ですが家に“庭をつくりたい”と考えて、まずその庭の場所をどこに作るか考えました。生まれ育った家や、1つ前に住んでいた賃貸のアパートにも植栽を楽しめるテラスがあり、そこで過ごす時間がとても気持ちがよかったので、新しい家にも季節を感じられる庭があるといいなと思いました」
決まったのがリビングからも寝室からも庭の緑を楽しめる場所。
リビングからは樹々を見上げて木漏れ日を楽しみ、すぐ横の小部屋は樹々の成長を間近で見守ることができる。
寝室の横の本に囲まれた小さな空間は、階下の家族の存在を感じながら、ひとりだけの時間を作れるとっておきのスペース。
ピアノを弾いたり、テラスの緑の手入れをしたりと、様々なことをしながら過ごせる場所があることで、小さいながらも豊かな時間を過ごすことができる。
「簡単に動かせて多目的に使える家具を多く使い、住みながら生活スタイルを整えることを楽しんでいます。動物の巣作りの感覚です。まず大きなストラクチャーを作り、その後に小さな居場所を作っていきました」
それぞれの窓に機能と役割を分担
開口は、いろいろな風景を楽しみ、様々な役割を持たせて作られている。
「レマン湖のほとりに立つコルビュジエが母親に贈った小さな家は、フレーミングした窓を作り風景を切り取ることで湖の美しさを際立たせていました。この家は雑居ビルと住宅が入り混じる雑多な地域に建っていることもあり、慎重に開口部の位置を調整し、それぞれから見える風景を考えました」
リビングの棚下に開いた窓からは、吹き抜ける風と共に、通りの緑や行き交う人を眺めることができる。テラスに面した窓は庭を楽しみ、道路に面した窓は高い位置に作ることで視線を遮り、流れる雲を眺めることができる。
「模型で検討しても、実際の空間とはずれが必ずあります。現場に入ってからも窓の位置を微調整していました」
1階にはコミュニティを育むスペースを
1階の通りに面した部屋は街の一部となり、ギャラリーとして使ったり、喫茶店を開いたり、いろいろな住み方を楽しめるよう考えられている。同時に夫婦それぞれの仕事場の延長として使ったり、将来的にはこどものための部屋として活用することも想定している。
「阿佐ヶ谷は外から訪れる街というよりも、そこに住む人が日常的に街で過ごす比率が高い街だと思います。地域の人が協力して街の雰囲気をつくっていこうとする意識があり、1Fをオープンにすることでこの家もその輪の中に参加できるとよいですね」
坂爪邸
設計 ツバメアーキテクツ+坂爪佑丞
所在地 東京都杉並区
構造 木造
規模 地上3階
延床面積 73㎡