Architecture
家具・日用品にも時間を惜しまず素材に、色に、
こだわり尽くした家づくり
ガラッと変わったのはインテリアの仕上げのこと。着工し上棟式もすでに済んでいたタイミングだった。「少し後だともう変更できないぐらいのぎりぎりのところで、2人の仕事が終わった後に、建築家の井上さんに来ていただいて、夜中遅くまでみんなでああでもないこうでもないと会議をしましたね」と林さん。
次から次へぽんぽんと
大きな変更の起点となったその会議で、リビングでは、それまで白く塗装するはずだった造付けの収納やカウンターが木地をそのまま生かした素材感のある仕上げへと変わった。この変更とともに、1 階では玄関ホールの床がコンクリートに変わり、その隣の壁と中2階の収納ボックスが黒の杉板張りに変更になった。「1カ所変えたら、それに合わせて、ぽんぽんぽんと話をしながら決まっていって。少し増額になりましたけど、結局は、ほとんどそのままで行きましたね」
インテリアの変更にともない、建築家は外観にも大きく手を加えた。「ガルバリウムの平張りをしているところを全部黒にするなど、僕らが変えたところに合わせて全体の調和を取るような感じで色を入れていってくれました」
白から黒へ
木とコンクリートにガルバリウム鋼板と、素材感と色味の豊かな家へと方向転換した林邸だが、ニュートラルな白中心のインテリアからのシフトは、冒頭で紹介した会議の前から始まっていた。「妻が窓のフレームを黒くしたいとすごく言っていたんですが、僕と井上さんは最初、どちらかと言うと反対していたんですね」と林さん。
奥さんは「真っ白い家だと、自分たちのものじゃない感じになってしまう」気がして嫌だったという。「窓枠を黒くしてもらったら、階段も黒くなって」。それで、「合わせて合わせてどんどん黒が増えていった」という。
家具や日用品も
建築のみにとどまらず、家具や日用品などにもこだわった。リビングに置かれたイームズのシェルチェアは、今は生産されていないヴィンテージものだ。ヤコブセンのセブンチェアとどちらにするか迷ったが、目黒にあるお店で偶然見つけて購入した。長大作デザインの低座椅子は、捨てられる直前だったものを譲り受けて張り地を替えた。張り地の赤と濃紺が差し色となってリビング空間を華やかに彩る。
ダイニングテーブルとベンチはNAUT(ノート)という名古屋の家具メーカーの製品で、スチールの脚は黒色。椅子はカイ・クリスチャンセンのNo.42で、黒色にこだわって張り地を黒にした。テーブル上のライトはflameという芦屋の照明メーカーのデコランプという製品。これも「空間全体のテイストから黒に」。
「僕もそうなんですが、妻も仕舞わずに表に出しておくものを買うときはとてもこだわって。僕が一生懸命探してこういうのがあるって見つけてきても、妻が“ 駄目、駄目”みたいな感じでけんかになることもありますね(笑)」
納得できたものしか買わない。この強いこだわりからは、日用品までも“ 自分たちの家づくり”の一環としてとらえる2 人の決意のようなものさえ感じられる。
この新居への引っ越しが取材の約1カ月前。まだまだこれからも林邸の“ 家づくり”は続くに違いない。
設計 GEN INOUE
所在地 東京都大田区
構造 木造
規模 地上2 階
延床面積 87.58m2