Architecture
素材にこだわった開放的空間さりげなく
“自然志向”の家。
赤みを帯びたコールテン鋼の壁が傾き、4つの部分に分割されたその姿は山が連なっているようにも見える。この外観デザインはコールテン鋼が周囲に圧迫感を与えないようにするためで、道路側から奥へと向かってその4つの“山”が段々と小さくなっているのも同じ理由からだ。
コールテン鋼は、建築家が好んで使う建築素材のひとつだが、すでに建て直す前の滝川家でも表札に使われていたという。
経年で味わい増す素材
「コールテン鋼は子どもの頃からずっと身近にありました」と滝川さん。この2世帯住宅の1階部分に住まわれている彫刻家のお父様がコールテン鋼を使用した作品も制作されていて、この素材には長い間親しんできたのだ。それで、表面の錆が膜となって内部を保護するなどこの素材の性質も熟知していたという。
錆びたコールテン鋼独特の味わいが好きだという滝川さん。「素材は鉄ですが、遠くから見れば木に見えなくもない」とも。この家を設計した建築家の石井さんは、「経年変化が味わいとなっていくところが自然素材の良いところですが、そういった意味ではコールテン鋼はまさに自然素材だと言っていい」と語る。
滝川夫妻は新しい家には木と鉄を使いたいと素材にこだわったというから、この滝川邸は、自然素材を使った“自然志向の家”と言うこともできるだろう。
自然志向の空間
この“自然志向”をより鮮明に感じ取ることができるのが、外観の閉鎖的ともいえるイメージからは想像できないほど光がふんだんに注ぎ込む2・3階の室内だ。
2階に上がってすぐ右手の木の壁は、滝川さんが「真っ白い空間の中にちょっとごつごつした立体感があると面白いと思った」ところから、その手前のデッキ状の3階床と階段で使用しているレッドシダーへと施工途中で変更されたものだ。
DK部分は特に、この壁のほかに、フローリング、そして約3.8mもあるダイニングテーブルと、木が多用されて“自然志向”が強く感じられる空間になっている。
北欧デザインとアウトドア
白い壁・天井と木のコンビネーションが、夫妻の好きな北欧デザインのウッディながらクールな感触も与えるこのDK空間にはまた、アウトドア的な空気感も漂う。
レッドシダーの壁が、吹き抜けに面して2層分の高さがあるために外壁のようにも感じられるのに加えて、空間が明るく開放的なこともあり、室内ながら外部にいるような感触があるのだ。
休みの日には、「炭に火を付けてちょろちょろと一杯飲む時間がいちばん好き」と言う滝川さん。「気がつくと肉とか焼いていて、ここに座って食べればって言うんです。それが真夏とかでもあるんですよ。暑い中、汗びっしょりになりながら…」と奥さんがすかさず補足する。
最後にうかがったこのエピソードからは、素材へのこだわりとは違う次元でもまた一貫している滝川さんの“自然志向”のようなものが感じ取られた。
設計 石井秀樹建築設計事務所
所在地 東京都世田谷区
構造 鉄骨造、一部RC造
規模 地上3階
延床面積 158.3m2