Architecture
光を導く階段室都市のまん中で
空を感じて暮らす
広さを求めて戸建てを選択
Sさんの家が建つのは、浅草や上野にほど近い、昔ながらの住宅地。現在家を建てた敷地は、もともと夫の高広さんの両親が営む家業の駐車場兼倉庫として使われていた。
「それまでは都心のマンションに夫婦で暮らしていましたが、子どもが生まれることになって、家をどうしようかということになったんです」(高広さん)。当初はマンションを購入することも検討したが、「広いところに住みたい」という高広さんの思いが強く、この土地を活かして家を建てることを決意した。
設計は、個人住宅から店舗や集合住宅までを幅広く手がける小宮山昭さんに依頼。「実は大学時代の友人のお父上という縁で紹介していただいたんです」。その後、小宮山さんが手がけた住宅を見学させてもらったところ、夫妻ともに都会的な作風が気に入り、設計を依頼することにした。
ギャラリーのような玄関ホール
通りから外観を見ると閉じた印象を受けるS邸だが、玄関から一歩中に入ると、光に満ちた開放的な空間が広がっている。その開放感を導いているのが、1階から3階まで続く階段室だ。3階の天井が全面ガラス張りとなっており、大きなトップライトとして1階まで光を落としているのだ。
この階段室は、1階では広々とした玄関ホールとしての役割も果たす。1階の床面積の大半を4台分のカーポートが占めるため、居住空間としては1階は玄関ホールのみという贅沢なスペース。一部にRCが使われているほかは白一色のホールは、その静謐な雰囲気もあいまって、まるでギャラリーのようだ。
だが、この広さは視覚的な効果を生むだけではない。妻は「ベビーカーを置いておくにも十分なスペースで、この広さが思いがけず実用的なことに住んでから気づきました」と話す。
広さ30畳以上のLDK
階段を上った先の2階は、暮らしの中心となるLDK。階段室とはガラスの引戸で仕切られているので、階段室の明るさと広がりをそのままLDKで感じることができる。「とにかく広いリビングがほしかったので満足しています。仕事から帰ると、だいたいリビングで過ごす感じですね」(高広さん)。
広いリビングは、子どもの遊び場としても活躍している。夫妻がこの家に引っ越したのとほぼ同時期に生まれた柚乃ちゃんも、リビングで遊ぶのが大のお気に入り。日頃は小さなすべり台などの遊具をリビングに置いて、元気いっぱいに遊んでいる。
高広さんが広いリビングを望んだ一方、妻は使いやすくオープンなキッチンにこだわった。「お互いに働いているので、お料理しながら会話ができるようにしました」。オープンキッチンでも散らからないよう、キッチンの奥には家事室と食品収納庫を設け、モノの置き場所を確保している。「モノを出しっぱなしにしないために、収納については小宮山さんと細かく打ち合わせをして、しまう場所をつくっていただきました」。
空へと続く階段
設計時の「ベランダのような外を感じる空間がほしい」というリクエストが実現したのが、リビングの引戸の向こうに広がるスペース。「今はテーブルと椅子を置いているだけですが、リビングから眺めているだけでも気持ちのいい空間です」(高広さん)。
2階から3階へと続く階段は、塗り壁の質感とアールの曲線がヨーロッパのようなイメージを醸し出す。そして3階に上り切ると、頭上には青い空が広がっている。
家の中にいながら、外を感じられるS邸。ゆったりとした階段室が叶えた開放的な住まいには、都市で暮らす喜びがあふれている。
設計 小宮山昭+ユニテ設計・計画
所在地 東京都台東区
構造 鉄骨造
規模 地上3階建て
延床面積 170.96m2 (住宅部分)