DIY
昭和の家屋をアレンジ創造性を発揮する
クリエイターの拠点
昭和の香り漂う家
以前は麻布に事務所を構えていた海山さんが、杉並の築50年程の物件に移り住んだのは2年半前。鉄筋コンクリートのモダンな建物から、元住居兼鉄工所だった木造物件へ。全く違った環境にシフトした。
「古い家がいいと思ったわけではないんです。自宅兼事務所として使える物件を探していて、友人からの紹介でここを見つけ、すぐ内見に来たら雰囲気に惹かれ、更にポテンシャルを感じたんです」
海山俊亮さんは家具や日用品など、生活まわりのもののデザインを手掛けるプロダクトデザイナー。
「麻布のときは自宅と仕事場を分けていましたが、生活にかかわるものを生み出す仕事なので、生活と仕事があまり離れていない方がよいと思うようになりました。この物件は自宅兼事務所として使用しても、階段のお陰でプライベートな空間と仕事の空間をうまく分けることができます」
斬新な発想でDIY
1階の元鉄工の作業所だったというスペースは、作品を展示したりイベントを開いたりするギャラリーに。2階は、3部屋分の壁を抜き1部屋にして、様々な分野の仕事を行うシェアメンバーと共用するオフィスに。友人の力を借りながら、この大改造をDIYでやってしまった。
「床は畳を全部はがして、2×4材を敷き詰めて仕上げ材を塗りました。1階のギャラリーも床は仕上げ材を塗り、かなり傷が付いていた壁は、押し入れの解体などで出た板を使って目隠ししました。床材をひたすら並べて敷いていく作業が大変でしたね」
ぶち抜いた壁には、前から持っていた木製のブラインドを仕切り代わりに。サイズが合わなかったので、足りない部分は木の柱を立てて継ぎ足した。ふすまは取り外し、出入りしやすい両開きの扉を作成。デザインの専門学校で空間や家具の勉強をした海山さんにとって、それは本領発揮の機会だった。
「制作も学校で履修したので、作るのは好きですね。元々は家具や空間に興味があり、そこから少しずつプロダクトに関心が移り現在に至っています」
ユニークな作品の宝庫
懐かしさが溢れるレトロな家に、海山さんの商品や試作品などが点在する。
「展示会用に制作した什器や試作品以外に、元々この家にあって譲り受けたものもあります」
インスタレーション用に作った高さの異なるボックスを組み合わせた収納、本が倒れないよう斜めに設計された本棚など、ユニークな発想の作品がインテリアとして機能している。ギャラリーには余った端材で作ったベンチも。
「2脚あって、それぞれ座面がデコボコになっているのですが、凹凸を組み合わせるとテーブルとしても使えるようになっています」
学校の机の天板に、友人に作ってもらった鉄工の脚を組み合わせたテーブルなども。それらのオリジナル作品もあれば、前の家主にもらったちゃぶ台、茶箱、古道具屋で見つけてきた棚など、斬新なアイデアと古いものが混在し、温かみを醸し出している。
人が対流する、温かい空間
昭和レトロを感じさせるこの家の中でも、特に味わい深いのが台所。2帖ほどのスペースに、高さの低い昔サイズのシンクが構えるキッチンで、海山さんは調理も楽しんでいる。
「料理は好きで和洋中からタイ料理まで、なんでも作りますよ。一時期はカレーに凝って、スパイスから作っていました」
棚にはギャバンのスパイスや調理器具などがぎっしり。最近では友人と鮭のアラから出汁を取ったスープでしゃけラーメンを作っているのだとか。キッチンの前には、家2軒分くらいは入りそうな広々とした庭が広がる。
「夏は竹を割って流しそうめんをしたりしています。友人を呼んだときにはパーティーもできるし、庭があったのはよかったですね。今はデッキを取り付けようと計画中です」
海山さんが発信する様々なプロダクツを仲立ちとして、またクリエイターが集う場として、様々な人が対流する空間。広々とした一軒家にはそれを受け入れるキャパシティがある。
「色んな人と交流できる、そういう家はなかなかないので、ここに住むことができてよかったと思いますね。古い家特有の辛さはありますが、それはある意味当たり前のこと。もし住み替えることになってもこんな家がいいと思っています」