DIY
DIYで自分好みの空間に元倉庫を大改装
自由な発想で暮らす
自由な空間づくりが理想だった
「家の前を通る小さな女の子が、“ママ、ここ何のお店? 何か買えるのかなあ”って。そんな反応がうれしくて」
インテリアショップか、お花屋さんか。玄関先は通りがかりについ足を止めたくなるショーウインドーのよう。ここに住むのは、グラフィックデザイナーの天野美保子さんと、内装設計の仕事に携わるその夫。もとは倉庫だった物件を探し当て、自宅兼事務所として使えるようリフォームした。
「クルマ好きな夫は、2台のクルマを置けるガレージと、園芸好きな私は、土をいじれる環境が必要でした。マンションではそれらを叶えることが無理なので、一戸建てを探していましたが、求める家のカタチは自由度の高い箱、でした。ここを見つけたときはこれしかない! と。必要な条件を満たしていたことと、いかようにもできる空間に魅力を感じましたね」
DIYでこだわりを実現
50坪の敷地の土地代を考えると、リフォームにかけるお金はできるだけミニマムにしたかった。そもそも、手作りや工作大好きなおふたり。がらんどうの元倉庫は、夫婦の創作意欲を掻き立てた。
「ガレージには中2階を設けて事務所にしたいということと、その下に工作ができる小部屋を作ること、エレベーターのあった場所を2階への動線とするなどの希望を出して、大きな改装は建築家の方にお願いしました。塗装関係など内装の仕上げや、造り付けの棚などは、自分たちで少しずつ作っていきましたね」
例えばフレンチアンティーク風の1階のエントランス。壁にレンガタイルを貼り、その上からペンキを塗装。もともとあった流し台にはタイルを貼って、ガーデンシンクとしてリフォームした。飾り棚も、もともとついていたカーテンボックスを再利用できるよう加工したもの。ほどよくシャビーな雰囲気が醸し出され、DIYとは思えない完成度の高さだ。
「人に頼むとやり直しができないけど、自分でやれば何度でもやり直せるじゃないですか。ペンキを塗るにしても、同じ白でも狭い面積で見るのと、広い面積で見るのでは違いますよね。天井全体に塗ってみると、ちょっと青っぽかったり、白っぽかったり。2階の鉄骨の梁も、なかなかしっくりこなくて、4回くらい塗り直しましたね」
生活空間はシンプル&ナチュラルに
そんなこだわりが活かされた、2階の住居は、リビング、ダイニング、キッチン、ベッドルーム、バスルームがすべて一体となったオープンスペース。
「せっかくの大きな空間なので、小部屋をつくらない方がいいと建築家の方に提案されたんです。もともと小割の空間が好きじゃなかったので、意見が合いました」
広々とした空間は、本棚やクローゼットなどでゆるやかに間仕切り。キッチン、バスルーム、トイレも仕切りのガラスを挟んで背中合わせに配置されている。内装は木の質感と白い色で統一され、ナチュラルで落ち着ける雰囲気だ。
「もし一から作っていたら違うアイデアもあったのでしょうけど、建物に合わせた内装を考えたとき、白い箱というコンセプトで作ろうと思いました。白に木や金属の素材を合わせるように考えて、色を感じるものは避けましたね。もともと長い時間を過ごす生活スペースは、ニュートラルな色にしたいと思っていました」
オリジナリティ豊かに
冷たすぎず程よい温もりのある空間は、ふたりのアイデアとDIYの技によるもの。ブロックの脚にステンレスの天板で構成されたシンプルなキッチンには、ワインの空き箱に取っ手をつけた収納を設置。見た目に楽しいだけでなく、食器やカトラリーがぴたりと収まるサイズや、引き出しやすいキャスターなど、機能的なところがすばらしい。ブロックや、ごみ箱なども白でペイント。手間を惜しまないこだわりぶりが感じられる。
「オープンキッチンなので、人が来たときにあまり生活感がでないようにしたかったんです。コンロはふた付きで隠せるものを選び、道具もまめにしまうようにしています。幸い夫が、“ヨドコウさん”と呼びたくなるほど大の片づけ好きで。とても助かっています」
収納はぴったりと収めず、2割の空きスペースを作るのがルール。天野さん手作りの照明器具や工芸品、アンティークの家具や宝箱などが、白い空間をさりげなく彩っている。
「ものを大事にしたいという思いがあって。数十年前のラジカセやストーブも、塗装し直したりして使っています。壊れたら直すのが主義だし、違う用途にして使うのもいいと思いますね」
長年使い込んだ愛着のある品々も、大空間に温かみを添えているようだ。
生活に緑は欠かせない
広々としてくつろげるリビングからは、目の前の生産緑地のケヤキの木が眺められる。新緑のこの季節、リビングのテーブルから窓の外を眺めるのも、天野さんの楽しみのひとつ。
「借景が気に入って、この家を選んだ部分もあります。23区内にあって、この辺りの適度な田舎感は気に入っていますね」
幼い頃から福島の実家で、庭の緑に囲まれて育った天野さんは、ガーデニングの本を出したこともあるほどの園芸好きだ。
「田舎と違って東京では、野菜は買うもの。そこで、貸し農園を借りて野菜を作りはじめました。今では屋上にもガーデンを造って育てています」
震災前からエネルギー問題には関心があった。家の断熱問題もあり、屋上を緑化することに。回廊状になったガーデンには、ローズマリーやフェンネル、チャイブ、アーティチョークなどのハーブが咲き乱れる。まわりに広がるのは、のどかな景観。
「陽気のいい日はここで外ご飯をしたり、夏はビールを片手に花火を見たり。屋上で過ごす時間も楽しんでいます」
家や植物に手をかけながら、生活を愉しむ。そんな暮らしの充足感が伝わってきた。