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中庭へと開かれた快適住空間ここにしかない、
かけがえのない贅沢な時間

中庭へと開かれた快適住空間 ここにしかない、 かけがえのない贅沢な時間
「コーヒーとか飲んでいる時に、ふと、いま幸せだなぁ、贅沢な時間を過ごせてるなぁと感じることがありますね」と語るのは大槻さん。以前は外に出かけていって何かをしないと得られなかったかもしれないようなことが、この家では得られるのだという。

奥さんも、「仕事から帰ってきてほんの数十分、お茶とか飲んで少し休憩するんですけど、リラックスできるし、自分の時間を楽しむことができて贅沢ですね」。お2人がこう語るのは、キッチン前の、ダイニングなどに使われる空間だが、建築家への要望は、あまり具体的なものではなかったという。


ダイニングなどに使っているスペース。手前にキッチン。カーテン無しの生活をしたかったが、レースだけは付けようとカーテン屋さんを呼んだら、「これはつけない方がいいです。僕だったら付けません!」と言われ取りやめに。
ダイニングなどに使っているスペース。手前にキッチン。カーテン無しの生活をしたかったが、レースだけは付けようとカーテン屋さんを呼んだら、「これはつけない方がいいです。僕だったら付けません!」と言われ取りやめに。

この空間は、カフェでの読書が好きだという大槻夫妻が建築家とした「お茶を飲みながら本を読んだりできる空間があったらいいな」というような会話から発して実現したもの。そもそも、建築家の岸本さんとは、具体的なデザインについてはほとんど話をせず、世間話や雑談の中からヒントを得て岸本さんが空間のアイデアを組み立てることが多かったという。

具体的なリクエストを極力控えたのには、「こういう空間にしてほしい、こういう部屋がほしいなどの要望を伝えて自分たちの思い通りのものをつくってもらうのでは面白みがない」という大槻さんの思いもあった。「それでは建築家さんにお願いする必要もないというか。そういう意味で言うと、丸っきり自分たちがイメージしていない家が出来たんですよ」


内側の玄関を入って左側にあるキッチンコーナー。
内側の玄関を入って左側にあるキッチンコーナー。
この空間のコーナーは柱も壁もなくガラスのみ。
この空間のコーナーは柱も壁もなくガラスのみ。
兄妹が勉強などする空間から玄関方向を見る。
兄妹が勉強などする空間から玄関方向を見る。
室内はおおむね、垂直部分が白で、水平部分が木のままの仕上げだが、キッチンは例外的に垂直部分も木をそのまま見せている。
室内はおおむね、垂直部分が白で、水平部分が木のままの仕上げだが、キッチンは例外的に垂直部分も木をそのまま見せている。


まったくの予想外だった中庭空間

その最たるものが中庭だった。庭がほしい、近くに緑があるといいな、という話はしたが、「中庭一面に敷かれたデッキの間に木がこのように立っているというイメージは一切なかった」という。

家の真ん中に設けられた中庭は、木が植えられた部分以外の場所にすべてウッドデッキが敷き詰められている。それを囲むように配置された各部屋は、どれも中庭に向いた面がガラス張りで、中庭を通して向こう側の部屋の中にまで視線が通る。さらに、一部分を除く大部分が平屋なので、視線を上に向けると空まで眺めることができる。


玄関から中庭を見る。左のベンチは靴の脱ぎ履きの時に使う。
玄関から中庭を見る。左のベンチは靴の脱ぎ履きの時に使う。
ひとつめの玄関。ここで靴を脱いでスリッパに履き替える。
ひとつめの玄関。ここで靴を脱いでスリッパに履き替える。


「せっかく家を建てるなら、縁側がほしかった」という大槻さん。一家の憩いの場として大活用されている。
「せっかく家を建てるなら、縁側がほしかった」という大槻さん。一家の憩いの場として大活用されている。

和室縁側。中庭右奥にひとつめの玄関、左にもうひとつの玄関。
和室縁側。中庭右奥にひとつめの玄関、左にもうひとつの玄関。
中庭に面してあるもうひとつの玄関。右はソファのある空間。
中庭に面してあるもうひとつの玄関。右はソファのある空間。


中庭を囲むように部屋が分散して配置されているのは、大槻さんが狭い空間を好み、奥さんも人を家に呼ぶよりは自分が行ってしまうほうが好きで、広い空間が必要ないということも理由であったようだ。

しかし、出来上ったそれぞれの空間は、確かに広くはないが開放的なために狭さをまったく感じさせない。そして、予想外にも「人がよく来るようになった」という。家族連れで大人数になった場合は、こちらに大人、あちらに子供と自然に分かれるが、個々の空間が閉じずにつながっている上、窓を通してもお互いを見ることができるので、一体感が損なわれることはないという。

「うまいこと大人は大人でこのダイニングでゆっくり話せて、子供たちはあちらのソファのある部屋でゲームやっているけれど、いっしょにいる感じがあるので、それがとてもいいですよね」と大槻さん。


兄妹が勉強などする空間。奥さんはここで夕飯の下ごしらえ前などに、本を読んだりするのも贅沢に感じるという。
兄妹が勉強などする空間。奥さんはここで夕飯の下ごしらえ前などに、本を読んだりするのも贅沢に感じるという。
寝室(左)前から中庭奥を見る。
寝室(左)前から中庭奥を見る。
内側の玄関を入って右側の空間から中庭を通して和室を見る。ソファに座ると空がよく見える。
内側の玄関を入って右側の空間から中庭を通して和室を見る。ソファに座ると空がよく見える。
奥さんはこのソファでゆったりと本を読むのも好きという。
奥さんはこのソファでゆったりと本を読むのも好きという。


和室から縁側を通して中庭を見る。和室は夏涼しいため子供たちはこちらで寝る。「建築家から季節によっている場所を変えればいいといわれたんですが、まさにその通りの生活をしている」と大槻さん。
和室から縁側を通して中庭を見る。和室は夏涼しいため子供たちはこちらで寝る。「建築家から季節によっている場所を変えればいいといわれたんですが、まさにその通りの生活をしている」と大槻さん。

不便さがつくり出したこの家だけの楽しみ

ただ、引っ越した当初はここで住むのはちょっと大変かなと感じることもあったという。「たとえば、寝室が向こう側にあるじゃないですか。寝室に用があると、ぐるりと回って行かないといけないんですね」。しかし、そう感じたのは最初ぐらいで、慣れとともにあまり苦にならなくなった。

いまやこのかつて不便と感じさせたものが、逆に、この家ならではの楽しみを生み出している。休みの日のお昼などには、食事を持って和室の縁側に行き、家族で中庭を見ながら食事を楽しむのだという。

小学校に通う兄妹からのリクエストも多いらしい。「あっちで食べようってよく言いますね。“今日のお昼は外~”とか」。簡単な食事の場合はお盆を縁側に置いて、そうでない時は、卓袱台を縁側の前に出して家族で並んで食事をいただく……一軒家でもこういう贅沢な時間を気軽に持つことができる家はなかなかないだろう。


休日の昼などにはここに並んで座って食事をすることも多い。時には、プレートを出して焼き肉をすることも。
休日の昼などにはここに並んで座って食事をすることも多い。時には、プレートを出して焼き肉をすることも。
夜は木の足下に仕込まれたライトが灯る。オレンジ色の光で中庭が照らされて、旅館のような雰囲気になるという。
夜は木の足下に仕込まれたライトが灯る。オレンジ色の光で中庭が照らされて、旅館のような雰囲気になるという。

さまざまな形で大槻一家にかけがえのない贅沢な時間を提供するこの家の、もうひとつの“贅沢な”活用法を、最後に奥さんからうかがった。

屋根へはキッチン上のロフト空間から出ることができるが、今年のお月見は屋上にのぼってしたのだという。「家にいながらにして“月がきれいだね”とか、“今日の夕焼けの空すごいね~”とかが日常の会話の中に自然に織り込まれているのって、やはり贅沢だなって感じますね」


人の通りが多く、また、近くにアパートなどが建つ可能性があることなどから、外に対しては閉じたつくりにした。
人の通りが多く、また、近くにアパートなどが建つ可能性があることなどから、外に対しては閉じたつくりにした。
玄関へのアプローチ。
玄関へのアプローチ。
大槻邸
設計 acaa建築研究所
所在地 神奈川県厚木市
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 105.41m2