Family
中庭へと開かれた快適住空間ここにしかない、
かけがえのない贅沢な時間
奥さんも、「仕事から帰ってきてほんの数十分、お茶とか飲んで少し休憩するんですけど、リラックスできるし、自分の時間を楽しむことができて贅沢ですね」。お2人がこう語るのは、キッチン前の、ダイニングなどに使われる空間だが、建築家への要望は、あまり具体的なものではなかったという。
具体的なリクエストを極力控えたのには、「こういう空間にしてほしい、こういう部屋がほしいなどの要望を伝えて自分たちの思い通りのものをつくってもらうのでは面白みがない」という大槻さんの思いもあった。「それでは建築家さんにお願いする必要もないというか。そういう意味で言うと、丸っきり自分たちがイメージしていない家が出来たんですよ」
まったくの予想外だった中庭空間
その最たるものが中庭だった。庭がほしい、近くに緑があるといいな、という話はしたが、「中庭一面に敷かれたデッキの間に木がこのように立っているというイメージは一切なかった」という。
家の真ん中に設けられた中庭は、木が植えられた部分以外の場所にすべてウッドデッキが敷き詰められている。それを囲むように配置された各部屋は、どれも中庭に向いた面がガラス張りで、中庭を通して向こう側の部屋の中にまで視線が通る。さらに、一部分を除く大部分が平屋なので、視線を上に向けると空まで眺めることができる。
しかし、出来上ったそれぞれの空間は、確かに広くはないが開放的なために狭さをまったく感じさせない。そして、予想外にも「人がよく来るようになった」という。家族連れで大人数になった場合は、こちらに大人、あちらに子供と自然に分かれるが、個々の空間が閉じずにつながっている上、窓を通してもお互いを見ることができるので、一体感が損なわれることはないという。
「うまいこと大人は大人でこのダイニングでゆっくり話せて、子供たちはあちらのソファのある部屋でゲームやっているけれど、いっしょにいる感じがあるので、それがとてもいいですよね」と大槻さん。
不便さがつくり出したこの家だけの楽しみ
ただ、引っ越した当初はここで住むのはちょっと大変かなと感じることもあったという。「たとえば、寝室が向こう側にあるじゃないですか。寝室に用があると、ぐるりと回って行かないといけないんですね」。しかし、そう感じたのは最初ぐらいで、慣れとともにあまり苦にならなくなった。
いまやこのかつて不便と感じさせたものが、逆に、この家ならではの楽しみを生み出している。休みの日のお昼などには、食事を持って和室の縁側に行き、家族で中庭を見ながら食事を楽しむのだという。
小学校に通う兄妹からのリクエストも多いらしい。「あっちで食べようってよく言いますね。“今日のお昼は外~”とか」。簡単な食事の場合はお盆を縁側に置いて、そうでない時は、卓袱台を縁側の前に出して家族で並んで食事をいただく……一軒家でもこういう贅沢な時間を気軽に持つことができる家はなかなかないだろう。
屋根へはキッチン上のロフト空間から出ることができるが、今年のお月見は屋上にのぼってしたのだという。「家にいながらにして“月がきれいだね”とか、“今日の夕焼けの空すごいね~”とかが日常の会話の中に自然に織り込まれているのって、やはり贅沢だなって感じますね」
設計 acaa建築研究所
所在地 神奈川県厚木市
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 105.41m2