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建築家たちの秘密基地“明るい小屋”で
楽しく、自由に暮らす。
こう話すのは建築家の比護結子さん。設計事務所を共同主宰する柴田晃宏さんと、事務所兼用の自宅で暮らしている。
月光を浴びながら寝られるのは、屋根面積の6割をトップライトが占めているため。月の上る方角によっては、通り側の大きく開いたガラス屋根から、その奥にあるロフトまで光が差し込んでくる。
“細長い”は楽しい
2人が江東区のこの場所に越してきたのは7年前のこと。自分たちの空間をプレゼンテーションできる場所をつくろうと、リノベーションを前提に中古の家を探したという。家は構造がシンプルであるということが大きな条件だった。
「手を入れるのには構造がシンプルじゃないといけない。それと、構造自体を見せたいというのもありました」と柴田さん。
「一目見てわくわくしました」と比護さん。「細長くて楽しいだろうなと。それと、家の奥まで距離がけっこうあるのがいいと思いましたね」
温室、植物園、小屋
実際の設計では、古くて不動産価値0の建物も合わせて敷地としてとらえ、その敷地の中にどのように住空間とアトリエをつくっていくかを考えたという。
「アトリエはパブリックに近いので半屋外的な“敷地”の空間に配置して、住空間はとにかくコンパクトに最小限にまとめてその中に入れ込むという、入れ子のような構造に収斂していきました」と柴田さん。
さらにそこに、2人が好きな温室や植物園のイメージを重ねるとともに、小屋のような仮設的な建築物がもつ空気感も加えていった。
比護さんは「お施主さんがいる仕事ではできませんが、断熱などをがっつりと作り込むというより、ちょっと軽く作るみたいなものが好きなので…」と話す。
“楽しい”が重要
出来上がった家は、〈キチ001〉と名付けた。以前から事務所をキチと呼んでいたこともあるが、2人の活動拠点であり、かつ、“秘密基地”的なニュアンスも込めたという。このネーミングからはこの家の、子どもたちの遊びに通じるような自由さ、そして楽しさが伝わってくる。
「“楽しい”は重要ですね」という比護さん。「家では片づけとかやらなけらばいけないことがけっこうありますけど、そういうことに追われて過ごすのではなくて、すべてを楽しくやりたいという気持ちがあるんですね。ご飯をつくるのも楽しくあってほしいし、洗濯物を干すだけでも楽しくあってほしい。そういうところをこの家には入れたいなあという気持ちはありましたね」
「明日満月なんですが、昨日の夜はものすごく明るくてきれいだったんですよ」と言う比護さんに、「あれを味わうとなかなか捨てがたいよね」と柴田さん。
そしてまた、冒頭で紹介した月光のもとでの眠りも格別だ。「ちょうどいま寝ているところに月の光が入ってくるので、それを浴びながら寝るのも体にいいかなと…」と比護さん。これこそまさに“秘密基地”ならではの体験ではないだろうか…そのように感じられた。
設計 ikmo
所在地 東京都江東区
構造 木造