建築家の自邸づくり
埼玉県行田市埼玉(さきたま)。田畑が広がりどこかのんびりとした時間が流れるこの地に、建築家の金子正明さんの自邸はある。
「キナリのシャツのような、かざらないしっくりとなじむここちよさ」をモットーに、素朴でかざらない家づくりを行う正明さん。
そんな建築家の自分の家族のための家が完成したのは、今年の3月のことだった。
正明さんはこの家を「さきたまの家」と名づけた。さきたまの家に住むのは、正明さん・有子さん夫妻と、8歳の颯夏(さな)ちゃん、5歳の和平(わへい)君、そして正明さんのご両親の6人だ。敷地内には、正明さんの仕事場であるアトリエ、お父さまが丹精込めて手入れした庭、家庭菜園もあり、広々とした開放感がある。
新たな試みを楽しむ
この地で生まれ育った正明さんは、都内の設計事務所で経験を積んだのち、10年ほど前に、慣れ親しんだ郷里で「かねこ建築製作所」を始めた。「時が経つにつれて風合いがにじみ出て愛着が湧く家を、丁寧につくっていきたかったんです」と話す正明さん。これまで、地域や住まい手の暮らしに沿った家を多数手がけてきた。
自邸を建てようと決めた経緯を正明さんは「これまでは家族4人でアパート住まいでした。ですが、子どもたちが大きくなって手狭になってきたこともあり、僕の実家でもある両親の家を建て替えて、二世帯がつながって暮らせる家をつくりたいと考えたんです」と話す。
そして完成した家には、ところどころに、建築家としての新たな試みが散りばめられた。「“土間ラウンジ”と名づけた広い土間空間、そこからつながる折り返し階段、砂しっくいの内壁、薪ストーブ、南京下見板張りの外壁など、やってみたかったことをたくさん実現しました」と、正明さんは楽しそうに振り返る。
自然の温もりを取り入れて
正明さんは建築家として、できるだけ自然に還る素材を用いることや、温もりのあるディティールを大切にしており、この家でもそれはふんだんに発揮されている。無垢材の床や砂しっくいの壁、建具屋さんや大工さんが手がけた木の温もりたっぷりのキッチンなどは、自然の中に建つこの家にぴったりだ。
正明さんがつくりあげた居心地・さわり心地・住み心地のよさが、家族6人をやさしく包み込んでいる。
まずはわが家を見てほしい
どこを見ても、画一的な味気なさは一切感じないさきたまの家。それは、正明さんが細部にまで温もりや遊び心を散りばめているからだろう。照明、スイッチ、扉の取手、蛇口など、目に入るもの手が触れるものすべてに、愛情が感じられるのだ。
家が完成して約半年。有子さんは「もともとわんぱくで元気な子どもたちでしたが、この家に住んでからはさらにのびのびと遊んでいます」と教えてくれた。颯夏ちゃんと和平くんは、おじいちゃんおばあちゃんによく色々な相談をしているそうで「二世帯で一緒に住んでいるから、豊かな感情を持った子に育っているのではないかな」と正明さんも微笑む。
「家づくりの相談にみえた方には、まずは我が家を見ていただきたいですね」と話す正明さん。この家は、正明さんの家づくりへのこだわりを詰めこんだモデルとして、この先何十年も、心地よい暮らし方を提案し続けるのだろう。
かねこ建築製作所
http://www.shibamune.net/
工房双葉
http://1st.geocities.jp/craftfutaba/
さきたまの家
設計 かねこ建築製作所
所在地 埼玉県行田市埼玉
構造規模 木造2階建
敷地面積 600.15m2
建築面積 190.00m2
延床面積 256.44m2