Green
木に抱かれて暮らす空中に浮かぶ
ツリーハウスのような家
こう語るのは建築家の都留理子さん。自宅兼事務所を建てることになりこう考えたという。実際に住んでみると、木の上に座っている感じがするという。「以前は左手のほうにもう1本大きな木があって、両側から木に抱かれているような感じでしたね」。
眺望が良く、開放的な家
この“ツリーハウスみたいな”家が実現できたのは、40以上の土地を見た末にこの土地にめぐり合えたから。紹介をしてくれた不動産会社の説明は、「南側接道」というだけで、北側が斜面で眺めが良く見事な木に囲まれた環境であることは、実際に敷地を訪れて初めて知ったという。
この立地は「眺望が良く、開放的な家」という夫の雄一さんが望んでいた条件にピッタリだった。独立して2軒しか設計の実績がなく、自宅を手がけるにはまだ早いと感じていた都留さんの背中を「名作をつくって」と押してれたのは雄一さんだった。
できれば事務所兼用にしたいとも思っていたので、田園都市線の駅から徒歩で数分のこの土地を見た時には、「気に入って、瞬間的にもうこれしかないみたいな感じ」で即決したという。条件に恵まれたこの場所との出会いで、時期尚早と感じていた都留さんも一気に「建てたい」という気持ちに切り替わったという。
窓のデザインはカシの木に合わせて
この家の特徴は、なんといっても、ダイニングとリビングのある3 階の、北側に開いた大開口。水平に続くガラス窓が建物のコーナーを回って左右両サイド、つまり、西と東の景色も見られるようになっているのは、建物の竣工当時は木がちょうど両サイドにあって、それを生かそうと思ってデザインをしたから。
残念ながら左側にあったヤマザクラはその後、マンションが建つ際に切られてしまったが、右側にあるカシの木だけでも、都留さんが目指したツリーハウスの面影は十分残っている。
デザインでも基本的にはこのカシの木がポイントとなり、窓の開け方も木を中心に考えた。「2階だと木の枝の下にいるような雰囲気になるように開口を天井まで開けて、3階では水平に木の枝が伸びているので水平に長い窓にしました」
戸外のような開放感
「周辺も木が豊かで緑に囲まれ、ほんとにビックリするような」環境だったという土地に建てられたこの家。初めて訪れた人は3階まで上がると感嘆して声を上げるという。「パーティ時にはこの空間でみんな伸び伸びとしてくれて。囲われていない感じがするので、アウトドアでのバーベキューに近い感覚で、わりと自由に、思い思いに過ごしてくれますね」
素人目にはわからないが、実は3階には、建築家ならではの工夫が施されている。室内は、外の緑との相性を考えて、壁は白く、床はモルタルにして、全体の彩度を低く落とした。
「あと、出窓の水平面を全ツヤの塗装に、その内側の壁は逆にツヤ消しにして、緑や外光が映り込むようにしました」。そうすることでまた、その2つの部分の間のエッジが際立ってくるのだという。
珍客も訪れる
都留さんのお気に入りはもちろんこの3階。「出窓に座ったり、このダイニングテーブルに座って外を眺めるのが好きですね。あと、キッチンからの眺めも好きで、キッチンで作業をしていてちょっと顔を上げた時に、左手の森の手前で子どもが遊んでいて、両方見える感じの風景とか」
子どもたちも、屋内にいながら戸外に近い開放感を味わえるこの環境で、実に伸び伸びと遊び育っている。
大きなカシの木には、いろんな鳥が羽を休めにやってきて、春にはウグイスの声が間近で聴けるという。以前には、珍客が訪れたことも。その動物の名を聞いて、都留さんに思わず聞き返すと、「3階のリビングで、夫婦でご飯を食べている時に視線を感じてふっと見てみたら、木のところからアライグマがこちらを見ていたんです」。何とも微笑ましいシーンが思い浮かんでふと笑みが漏れた。
設計 都留理子建築設計スタジオ
所在地 神奈川県川崎市
構造 S造
規模 地上4階
延床面積 129.12m2