“創造と発見”のある暮らし - 1 - 自作家具でさらに豊かで、楽しい空間

“創造と発見”のある暮らし – 1 – 自作家具で
さらに豊かで、楽しい空間

この家は、神奈川県厚木市の閑静な住宅地の一画に立つ。暮らすのは、クルマのデザイナー を長く務め、数多くのデザインを手がけた神宮さんご夫妻とご主人のお母様、そして猫のアトンだ。

「親とは玄関を分ける必要はないけれど、水回りは分けたいとか、近くて遠い、あるいは遠くても近いとい うか、また、独立していながらつながってるみたいな、そういった関係性、距離感にしてほしい」。これが 設計依頼時の、建築家への数少ないリクエストのひとつだった。

このリクエストに応えるために、神宮邸は南北に走る大きな壁で2つの世帯が分けられている。さらにこの 微妙な距離感をつくり出すのを助けているのが、スキップフロアを活かした部屋の配置だ。


上が個室のフロア、下がダイニングと水回りのフロア。


キッチン。料理をしながら流しの前の窓からテラスとダイニングが見える。

階段は上り下りが苦にならない段数で設計。下に少し見えるのがキッチン。


絶妙な距離感が生み出す居心地の良さ

床をスキップさせるアイデアは、土地が少し傾斜していて道なりに1mちょっと下がっていたことから建築家から出されたもの。玄関を入ってすぐ目の前にある階段を数段上がってダイニングとキッチン・バスなどの水回り、また数段上がるとリビング、さらに数段で3つの個室のあるいちばん上のフロアにいたる。リビングの下の玄関と同じレベルにはお母様のスペース、ダイニングと水回りの下にはガレージと仕事場が配され、このすべてが中央の階段で結ばれているという構成だ。

「この家のスキップフロアは、違う空間に行くみたいな感じがして気持ちがいい。会社から帰ってきて 11 時くらいまでダイニングで過ごしその後リビングに行くと、場面が変わるというか空気が変わるというか、まったく違うところに来た感じがする。

逆にダイニングとリビングでお互い違うことやっていても、何か声をかけるとそこで一個になれる。それが 同じフロアの高さだとそういうふうにはならないと思いますね。違う空間にいるんだけれどもつながっている居心地の良さみたいなものがある」。

「さりげないようでいて、計算し尽くされている。だから不思議と飽きない空間なんですよ」と続けるご主人。奥様と2人でも、空間を持て余すということがまったくないという。


家の中でいちばん過ごす時間が長いのがこのダイニング。「人 が集まってもやっぱりここ。座るとけっこう長く居られます」 と奥様。手前のサイドテーブルはご主人の自作。

リビングを北側から見る。手前にあるのはイサムノグチのテーブル。右のベランダに面した窓を開けると心地の良い風が入ってくる。


ガレージの上のダイニング。奥にリビングが見える。

道の突き当たりに立つ神宮邸。竣工時には“この透明の家、どういうふうに住むんだろう”と近所で話題になったという。


自作家具で“空間をカスタマイズ”

そんな神宮家の空間をさらに楽しく、豊かに住みこなすために、ご主人は “ 空間のカスタマイズ ” みたいなこともしている。職業柄もあり、モノづくりがとにかく好きなご主人が、家具を自作しているのだ。この家の固定家具以外で黒く塗装された家具はほとんどがご主人によって製作されたものだという。「組立てのプロセスやどうやって端材を出さないかなど考えながらつくるのが楽しいですね」。

ダイニングテーブルの脇のキャスター付きテーブルもそのひとつで、製作には板づくりから始めて3 カ月くらいをかけたという。これで苦労したのは、板の厚みをいかに出すか。ダイニングテーブルの脇に置くには、同じくらいの厚さがないと様にならないからだ。そして、最後の仕上げにも手間をかけた。「本当はダイニングテーブルのように木目が分かるようにしたかったけど、失敗して、いちどぜんぶ削り直してからスプレーで黒に塗装しました」。
 


この CD ラックも、ご主人が製作。中に収まる CD は学生時代 に聴いていたレコードを自分でデジタル化したもの。ジャケッ トはレコードのジャケットを写真を撮って製作した。

この家の固定家具以外でブラック系の家具はほとんどがご主人が 製作したものだ。このダイニングのサイドテーブルもそのひとつで、製作には板づくりから始めて 3 カ月くらいかけたという。


リビングの南端部分にあるお茶のためのスペース。机はご主人製作のもの。

お茶のためのスペースに置かれた飾り棚は、ご主人が自作した家具の中で、いちばんの自信作だ。


家具作りへの思いとデザイナーならではの空間への理解の深さが伝わるこんなエピソードをご主人は披露してくれた。「玄関を入って左手に飾り棚みたいなものを自分でつくって、これがすごい完璧にできたんですよ。でも空間に全然似合わなかった。僕はクルマのデザインをやっていたから、物のかたちを見たり想像する力はある程度もっていると自分で思っていた。これだったらぜったい合うというのをつくったのに、ぜんぜん合わなかった。あれはショックでしたね。

ということは、玄関入って左の面というのは、入った瞬間、壁面がスパっとつながってるからいいんだというのを 発見した。形というのはそういうもので、それが気持ちよさみたいなものにつながっている。それを飾り棚で破ろうとしちゃったわけです。完成されてるというか、計算された気持ちのいい空間がつくられていると思いましたね」。


神宮邸

設計 川辺直哉建築設計事務所
所在地 神奈川県厚木市
構造 木造、一部鉄筋コンクリート造
規模 地下1階地上2階
延床面積 152.39 m2