Kitchen
工夫を凝らして快適に料理のアイデアが膨らむ
和めるキッチン
温かな家から生まれる新レシピ
目の前に広がる、広大な公園の緑がまぶしい。料理研究家・小林まさみさんの家は、都内では考えられないほど、豊かなグリーンに包まれた環境にある。
「5年くらい探して、やっとこの土地を見つけたんです。決め手はやはり、緑でしたね」
料理研究家としてテレビに出演するほか、著書も多数出版。手軽に作れる、温かな家庭料理が人気だが、そのアイデアはこんなのどかな環境から生まれてくるのかもしれない。
「ふだん家で余った材料を使って作った時に、こんなのはどうかなと思いついたり、テレビでレストランの紹介をしているのを観て、自分だったらこうアレンジする、と考えたり。何気ないことからレシピを思いつきますね」
家はそのような発想の原点であり、キッチンは料理を完成させる大切な仕事場でもある。4年前に家を建てる際には、当然、キッチン回りにこだわった。
「それまで住んでいた団地で、こうだったらいいのに、と思っていたことを活かして、キッチンを設計してもらいました。今はお休みしていますが、家で料理教室も開いていたし、アシスタントもいるので、使いやすさと導線を考えて作りましたね」
使いやすさにこだわったキッチン
シンクは野菜などを洗うときのことを考えて、ごぼう1本がそのまま入る大きさに、シンクと3口コンロの間は、まな板が2枚並べて置ける広さに。アイランドとシンクの間も、人がすれ違えるくらいの広さを確保した。さらに、長時間キッチンに立つので、床はテラコッタなどの素材を避け、疲れない素材を選び、人工大理石のアイランドには、下に棚を取り付けて、キッチンツールをたっぷり収納できるようにと考えた。
「仕事では、無駄のない動きが大事なんです。取り出しやすい位置に必要なものがある、手が届くところにものがあることが重要です。見せる収納というのもあるけれど、うちは使っていないものは全部片付けてしまいますから」
心強いアシスタントの存在
収納力たっぷりで、見事にすっきりと片付いたキッチン。それは、アシスタント“まさる”の意向でもある。まさみさんが親しみを込めてそう呼ぶのは、ご主人のお父さんである義父、まさるさん。結婚当初から同居していたまさるさんがアシスタントをかって出て9年。ものを片づけたり、キッチン回りやツールをきれいに磨いたり。まさみさんの気付かないところまで、マメに働くアシスタントの存在により、キッチンはいつも新品同様。
「私より女っぽいというか、几帳面できれい好きなんです。10年以上使っているお鍋もピッカピカで、仕事関係の人たちから“まさルンバ”と呼ばれるくらいです(笑)」
かつて病床にあった妻の替わりに台所に立っていたまさるさん。そのキッチン経験も、家づくりに活かされた。
「キッチンの出窓は“まさる”の希望で大きめにつけました。手の届く高さなので、ぬれたザルをおくなど、ちょっとしたときに便利です」
キッチンタイルは、部屋の広がりが出る白に。最初は4分の1の大きさのタイルを考えたのだが、目がこまかくない方が、部屋の印象がすっきりするというアドバイスを聞いて、現在の大きさのものにした。
「今もノートをキッチンに用意して、気付いたことを書きとめているんです。こうだったらいいな、と思うことをメモしておけば、次のリフォームにも役立つと思って」
インテリアはアンティークを基調に
白いタイルに木目の棚という、キッチンの雰囲気とマッチして、リビングなどもアンティークの家具が雰囲気を出している。
「木の温かい感じが好きなんです。公園に面したリビングの窓の下には、和裁の裁ち板を見つけてきて、わざとさびさせて、大工さんに取り付けてもらいました。アンティークのホーローのランプも付けて、ここで外を見ながらお茶でも飲めたらいいなと。最近はよく“まさる”が座って、外を眺めています」
イギリスのアンティークのカップボードや本棚は、厚みのない奥行きがちょうどいいので、食器入れに。FAXや書類など実用的なものは、日本の古い蠅帳を棚がわりとして使っている。古道具屋さんで見つけたという40年代の日本の椅子も、懐かしく温かい雰囲気を醸し出す。
「この辺りは、ご近所の人たちも温かくて、昔からのこの土地のこととか、いろいろ教えて頂けます。休日には夫と川沿いをジョギングしたり、“まさる”は公園の“まさベンチ”で日向ぼっこしたり。家族みんな、気持ちよく過ごしていますね」
仕事に疲れると、コーヒーにこだわるまさるさんが豆をひき、入れてくれるカフェで一服。温かく和やかな暮らしが、またしみじみとおいしい家庭料理を生む。