Kitchen

パティシエールこだわりの家造り広めのキッチンと
“わくわくする”空間

パティシエがこだわった家づくり  広めのキッチンと “わくわくする”空間
自宅でフランス菓子の教室を開いている伊東かおりさんは、パリに2年近く滞在し、世界的に著名な料理学校、ル・コルドン・ブルーで学び修業を積んだパティシエール。自宅をつくるにあたってまずこだわったのが、お菓子教室のスペースだった。

「子どもがまだ小さいので、家で仕事をしたかったんですね。それがお菓子の教室で、教室もできるような広めのキッチンが欲しかったんです」


広いキッチンには、かおりさんがこだわった、業務用のオーブンと天板に大理石を使ったカウンターが置かれている。

幅広の大きな窓が通り側に。外を歩く人よりも目線が高く、また、昼間はガラスの反射があるため、それほど視線が気にならない。
窓際に置かれたシートには“フランス菓子教室 メゾン・ド・カオリ”の文字が見える。



大理石のカウンターとプティ・バッケン

この“広めのキッチン”でかおりさんは、さらに3つのものにこだわった。

教室の生徒さんたちと作業をする大きなカウンターの天板に大理石を使う。「あと、この業務用オーブンを入れたかったんですね。建築家に相談したら、どのくらいの重さがあるんですかと聞かれて。そのパンフレットを見てもらったら、えーっ、何ですかこれはって(笑)。重量が500kgぐらいあるんですよ。木造の家ですが、それでオーブン部分の床はコンクリートになっているんです」

このオーブンは七洋製作所という会社のプティ・バッケンという製品。バッケンというのはお菓子業界では有名な製品だそうで、“ プティ” と付いているので、お店などで使うものよりひと回り小さいものだ。「色の展開も、白黒赤とかの他にも黄、ピンクなどもあってかわいくて、インテリアとしても、あるいはカフェに置いても見栄えのするオーブンですね」


プティ・バッケンで焼いたお菓子の焼き具合を、それぞれ手で確かめる。
オリーブオイル、バルサミコ酢と塩こしょうで、分量を加減しながら、キッシュに添えるサラダ用のドレッシングをつくる。
ル・コルドン・ブルーの修了書。右が料理と菓子の上級修了書で、 左が両方修了したことを示す“グラン・ディプロム”。
お菓子教室で、パイ生地を生徒さんたちとつくる。 生地の伸ばし方にちょっとした工夫が必要のようだ。
この日は教室の上級者コースで、卵とベーコンをつかった“キッシュ・ロレーヌ”を焼き上げた。
授業が終わってからのティータイム。話の弾む楽しいひと時だ。



キッチンには、ショーウィンドウのような窓

さらに、通りに面したキッチンの窓にもかおりさんはこだわった。

「ショーウィンドウ的な感じにしたくて。一般の家庭では、中を見せたくないからこんな大きいものはつくらないそうで、最初はもうちょっと小さかったんです。だけど、中を見せられる時にはバーッと開けられる大きな窓で、ピタッと閉めるとまったく中が見えず、明かりが洩れるぐらい、そういう窓が欲しかったので、もっともっと大きくしてと建築家にはお願いして、結局この大きさになったんです」

プティ・バッケンも、隠すよりもむしろ見てもらいたかったので、外からよく見える向きにして置いた。お菓子教室の生徒さんは、通りよりも高さが一段上がっているので見られてもそんなに嫌じゃないとか。「いつも優越感に浸ってつくっているなんていう話を生徒さんから伺ったりしますね」


夫の泰文さんの愛車のロードスター。前後からだけでなく、右のキッチン、左の書斎、上のリビングからと、四方から眺められる。

子ども部屋には赤いブランコ。その前にリビングと、左上に見えるのは主寝室。
車の上はリビングに開けられた“床の窓”。奥に書斎。手前に見えるのはワインセラー。



ブランコと床の窓とビルトインガレージ

お子さんや夫の泰文さんも、設計時に、一般家庭では珍しいものをリクエストした。

「いつも子どもを打ち合わせに連れて行っていたので、建築家が“君たち、何が欲しい?” って聞いてくれたんですよ。そしたら、上の子が、あの時は5歳ぐらいだったと思いますが、“床の窓とブランコが欲しい”って」。それで、子ども部屋には赤いブランコが、リビングの床には、“ 窓” がつくられた。この窓は子どもたちが思っていたいたものより大きく、「出来たらこんなに大きかったってすごい喜んで」。

泰文さんはビルトインガレージ。と言っても、ダイニングとは大きなガラス面を介して接し、上のリビングの“床の窓”からも車を眺められるという特別仕様だ。家の中から車を眺めるというのは長年の夢だったという。「後で聞いた話ですけれども、大学の時から、僕は将来、自分の部屋から車が見える家に住むんだって思っていたらしいです」

ガレージの隣には泰文さんの書斎もつくられた。ここにはワインセラーや模型が置かれている。模型は鉄道模型で、すべて自身でつくられたもの。自分の好きなものに囲まれて、隣にある車もじっくりと眺められるこのスペースにこもるのが好きで、ここにはあまり人を入れたがらないのだという。まさに、泰文さんだけの“聖域”なのだ。


ダイニングからは、ガレージとリビングの両方が見える。
リビングから子ども部屋、さらに主寝室のレベルへと少しずつ上がるスキップフロアの構成。
玄関ホール上のトップライト。開口が多いこの家、夜、時間がたつにつれ月が見える窓が変わっていくのも楽しみのひとつ。



わくわくして、楽しい空間

「子どもが小さかったので、つねに子どもが見えるところで過ごしたかったんですね。あと、これから大きくなって、思春期とか迎えた時に、話さなくなったりするのが嫌だったので、どうしても顔を合わさなければならないようにしてほしかったんです」。そこで、子どもたちが帰宅したらDKの前を通らないと自分の部屋に行けないつくりになっている。DKと玄関に挟まれた階段のことだ。

「それと、子どもが階段が欲しいって言ったこともあって家の中に階段がいっぱいあるんですよ」。確かに、規模の割に階段が少し多いかもしれない。しかも、この階段が単に部屋と部屋をつなげるだけでなく、ちょっとずつ迂回して移動するつくりになっている。自然と移動することが多くなる家なのだ。


リビングを上から見る。室内は赤・黒・白でほぼ統一。新たに家具などを購入する際には、夫妻で「これを買おうと思うんだけど」とお互いに申請して話し合いを持つのだという。

こうして出来た空間。かおりさんは、居るだけでなんかわくわくすることがあるという。「家に居る時は慣れてあまり感じなくなっちゃうんですけど、何日か外に出ていて帰って来ると、“ああ、ウチってわくわくするな”と」気づくのだという。

この“わくわくする”空間で、かおりさんのお気に入りは何と言っても自身がこだわってつくったキッチンだ。

「ご飯つくったり、あと教室もあってやることがいろいろあって、そうしたことをすべて終えたり、その合間の準備している時ですかね。1人でこうやっているのが“ああ、楽しい!”って思える瞬間があるんですよね」


小田急線新百合ヶ丘駅から徒歩20分ほどの閑静な住宅街の一画。四角い箱の一隅が欠き取られた形の外観が印象的。
伊東邸
設計 山縣洋建築設計事務所
所在地 神奈川県川崎市
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 123.93m2