Outdoor
眺望の良さに惚れ込んで多角的に風景を愉しむ
坂の上のおおらかな暮らし
富士山が見える家
高台の住宅地に暮らすNさんご一家。富士山をはじめ遠くの山々まで見渡すことができる素晴らしい景観に惹かれて、3年前に家を建てた。「富士山が見えなければ家を建てなくてもいいと思っていました」と笑うご主人は、5年近く探し求めた末、「理想の土地に出会った」と話す。都心からもほど近く、最寄りの駅からは徒歩10分程度で通勤も便利。また、毎週末、趣味のサーフィンのために千葉や茨城の海を訪れるというご主人のもうひとつの願い、「高速道路に渋滞なく入れるところ」も叶えられた。まさに絶好の土地を手に入れたのである。
家づくりのパートナーとなる建築家もインターネット等でとことん探したという。そして依頼したのが、(株)一級建築士事務所 アトリエマナの河内真菜さん。以前に河内さんが手掛けた、ある建築の斬新さに興味を持たれて問い合わせしたのがきっかけだった。
Nさんから河内さんへの最初のリクエストは、「できるだけ奇抜に」だったと当時を振り返るお二人。「僕がデザイン性しか興味がなく、その視点のみでリクエストしていったんですが、プライバシーへの配慮や生活動線など女性ならではの視点も加え、河内さんが住みやすくアレンジしてくれました」
開放感とプライバシーを両立
N邸では、ソファでくつろいでいるとき、キッチンで料理をしているとき、にぎやかに食事をしているとき……、日常の暮らしのなかで、その気持ちのよい眺めが存分に楽しめるようになっている。
傾斜地のため前面道路との高低差は約4m。それが周囲からの視線をある程度は遮ることにはなったが、住宅街ゆえに近隣からの視線はどうしても気になるところだった。そこで建築家の河内さんが考えたのが、景観と並行して設計した建物の1階部分に、一部T字に突き出した緩衝空間を設けること。これにより、周囲からの視線をコントロールし、プライバシーの確保につなげた。また、外観の特徴にもなっている大胆な庇の出もポイントに。景色は抜けつつも周囲の視線をカットするように計算されて変化がつけられている。
これらのシンプルながら大胆な仕掛けにより、窓を大きく設けて光をたっぷり取り込みながらも周囲の視線を制御した、開放感たっぷりの家が実現した。T字の奥行のある空間は心地良さを高め、落ち着く居場所を造り出した。同時に、いろいろな角度から立体的に風景を楽しむことができ、変化に富んだ毎日の暮らしへと導いている。
キッチンを中心としたワンルーム
N邸の1階部分は、キッチンを中心にさまざまな部屋が展開するワンルームになっている。「間仕切りを全部開けると40畳くらい感じられるような広々とした空間にしたかったんです。全体を見渡せ、子どもたちの様子もうかがえるので、安心して家事ができます」(奥さま)。
「無機質な感じが好き」という奥さまは、オールステンレスのキッチンをオーダー。背面の大きな収納棚もステンレスで統一した。コンセントも収納棚内に設置し、電化製品など全て収納。重厚感がありながらも、すっきりとスタイリッシュな印象に仕上がっている。
床材はコンクリートを希望。キッチンに立っている時間が長く、やや冷えるという奥さまだが、「普通のスリッパでは寒いので、UGGの靴などを履いて、密かにおしゃれを楽しんでいます」と笑う。また、「キッチンがオープンだとみんなが手伝ってくれるという狙いもあります」とも。小学校1年生の長女もお手伝いに興味を持ち、食事の準備はもちろん料理も少しずつ手伝ってくれるようになったと話す。「餃子を包むのがとても上手なんですよ」と、キッチンに一緒に立つ時間を楽しんでいる。
キッチン以外の1階の床材は、「ちょっと古い感じにしたかった」(ご主人)とブラックウォールナットにホワイトグレーのオイルを塗装したものを使用。ちなみに2階の床材は、リゾート地をイメージしてパイン材を採用した。これらは、ご主人がインターネットで調べて指定したものだという。
また、T字に突き出たダイニングの天井は、高く見えるようにと黒色を指定。さらに、「ルーバーをどこかに入れたかった」というご主人の希望で、この天井に加えられた。
仕切りのない空間は、床材や天井の変化でゆるやかに区切られ、メリハリの効いた空間に仕上がった。ご夫妻の素材やイメージへのこだわりが存分に発揮されている。
くつろぎスペースがそこここに
「何LDKとか何部屋とかこだわっていないんです。自由に寝そべったり、くつろいだりできるスペースが、そこここにあるのがいいんです」(ご主人)と、おおらかに自在に住みこなしているNさんご夫妻。
リビングから続く広いウッドデッキは、最高のロケーション。「冬でもあたたかで、裸で寝そべっているほどです(笑)」とご主人。太陽や風を感じながら心地良い時間が過ごせるアウトドアリビングを満喫しているようだ。
また、2階には、以前の住まいから使用していたという赤いソファが置かれたセカンドリビングがある。こちらがご主人の1番のお気に入りの場所だそう。「眺めのいいテラスがある家はあっても、部屋に居ながらにして雄大な景色が望める開放的な空間がある家はなかなかないですからね」。一人、ソファに座り、ボーッと自然を眺めているのが至福のときと話す。
一方、奥さまのお気に入りは、1階のリビングで過ごす時間とのこと。「吹き抜けで天井が高く、窓が広くて気持ちいいです」。生後半年の次女の育児に追われる日々のなか、大開口から見渡せるのびやかな景色がほっと一息つかせてくれるのだろう。
自然の移ろいを感じられる美しい景観が、毎日の暮らしをより上質なものにしてくれているようだ。
設計 (株) 一級建築士事務所 アトリエマナ
所在地 神奈川県川崎市
構造 木造
規模 地上2階
延床面積 120.49m2