Outdoor
光と緑と土とつながった贅沢空間 自然を間近に感じて、
豊かに暮らす
角を曲がり川口邸の正面に出ると、ガラス戸を折りたたんで開放された中庭のような空間で、川口さん一家全員がテーブルを囲んで休日のひと時を楽しんでいるところだった。
このお宅の特徴のひとつであるこの庭空間は実はサンルームで、「暖かい家がいい」という川口さんのリクエストに応じて建築家が提案したうちのひとつ。真冬になると冷え込むことから出されたリクエストだ。
サンルームをダイニングに
真冬に冷え込むような土地では、内と外を遮断してしまうことがほとんどだ。しかし建築家の保坂さんは、子どもが3人いる家庭にこういう場所があれば豊かに使ってもらえるだろうと、家の中と外の中間的な空間をあえてつくった。当初は、たまにピクニック気分で食事もする場所として想定したが、設計の途中で、川口さんのほうからここでいつも食事をしたらどうかと逆提案がありダイニングに変更になったという。
この場所で日々食事をすることになって、食べるということが非常に豊かになったという川口さん一家。「ここで外の景色を見ながら食事ができるというのが、この家で一番贅沢なことかな」と奥さん。川口さんはこう語る。
「いつもここで家の前のマツやサクラを見ながらご飯を食べています。また、冬に雪が降ってもここで食事ができるので、つねに季節を感じながら食事ができる。そのせいか、うちの子どもたちは季節感とか自然に対する感性が豊かになりましたね」
トップライトで明るい室内
サンルームなどとともに、この家を「暖かい家」にする上で大きな役割を果たしているのが、全部で4カ所に設けられたトップライトだ。厚さ20mm、80×800cmのアクリル板が両端の壁の間に架かる。
とにかく家の中が明るいと川口さんは言う。「設計時に模型を外に出して、太陽光のもとで光の入り方を確認した時に、すごい明るい家なんだなあと思いましたね。でも、実際住んでみると、それを上回るくらい明るくて」。陽がつねに差し込んでいるので陽の光で目が覚めることもしばしばだ。
明るいのは日中だけではない。「月の光がけっこう明るいんですね。そんなこと、今まで実感したことがなかったんですけど」と川口さん。さらに「月や星の明かりがすごくきれいで。そういうのがこの家ならではの楽しみなのかなと思っていて、住んでみて本当にいろいろ発見がありますね」
雨を楽しむ
川口さんには、実は、一人占めしている「この家ならではの楽しみ」がある。「仕事の後の休息のひとときを大事にしたい」という川口さんは、家族が寝た後に、奥の書斎やダイニングスペースで、音楽を聴いたりしながら一人静かにウイスキーの杯を傾けるのだという。そして、時折りトップライトを通して夜空を眺める。
寝静まった中で自分一人だけが、世界、いや宇宙全体と通じるみたいな…そんな感じだろうか。聞いてみた。「そうですね(笑)。とても贅沢な気分になります」と答えた後、こう付け加えた。「夜空もいいですが、雨が降るとこれがまたすごくきれいなんです」
「今まで雨が降って嬉しいなんて思うことはなかったですけど、ここでは雨がありがたく感じられますね」と川口さん。奥さんも「私も雨の時がいちばん好き」だと言う。
われわれが忘れてしまった自然との直接的な接触とそこからもたらされる感動。そんな感動を日々味わいつつ暮らす川口家の人たちがとてもうらやましく感じられた。
設計 保坂猛建築都市設計事務所
所在地 山梨県富士吉田市
構造 RC造
規模 地上1階
延床面積 102m2