光と緑と土とつながった贅沢空間 自然を間近に感じて、豊かに暮らす

光と緑と土とつながった贅沢空間 自然を間近に感じて、
豊かに暮らす

国道から1本入った道をさらに脇へ1本入って進むと、窓ひとつない壁にジグザグの先端を削ったような特徴的な屋根を持つ外観が見える。それを横手に見ながら先に進むと、入り口のあたりから何やらにぎやかな雰囲気が伝わってきた。

角を曲がり川口邸の正面に出ると、ガラス戸を折りたたんで開放された中庭のような空間で、川口さん一家全員がテーブルを囲んで休日のひと時を楽しんでいるところだった。

このお宅の特徴のひとつであるこの庭空間は実はサンルームで、「暖かい家がいい」という川口さんのリクエストに応じて建築家が提案したうちのひとつ。真冬になると冷え込むことから出されたリクエストだ。


サンルームには、ダイニングテーブルと家族5人分の椅子が置かれている。手前と奥の木はオリーブ。

外壁へのウレタン塗装が高い断熱効果を発揮し、これも「暖かい家」をつくるのに大きな役割を果たしている。

家の正面に設けられたサンルーム。下は土と土モルタルだが、ガラス戸をすべて閉めれば内部空間になる。


サンルームをダイニングに

真冬に冷え込むような土地では、内と外を遮断してしまうことがほとんどだ。しかし建築家の保坂さんは、子どもが3人いる家庭にこういう場所があれば豊かに使ってもらえるだろうと、家の中と外の中間的な空間をあえてつくった。当初は、たまにピクニック気分で食事もする場所として想定したが、設計の途中で、川口さんのほうからここでいつも食事をしたらどうかと逆提案がありダイニングに変更になったという。

この場所で日々食事をすることになって、食べるということが非常に豊かになったという川口さん一家。「ここで外の景色を見ながら食事ができるというのが、この家で一番贅沢なことかな」と奥さん。川口さんはこう語る。

「いつもここで家の前のマツやサクラを見ながらご飯を食べています。また、冬に雪が降ってもここで食事ができるので、つねに季節を感じながら食事ができる。そのせいか、うちの子どもたちは季節感とか自然に対する感性が豊かになりましたね」


川口さんの提案でダイニングの用途も加わったサンルーム。夏はいつもこのようにガラス戸は開けたまま。冬の朝はここがいちばん暖かいという。歩いた時に泥が付かないように、動線上は土モルタルとし、そこを避けるようにオリーブなどの木が植えられた。

家の前にはマツの木が数本とサクラの木。

南側に大きく開いた開口からもふんだんに光が入る。


トップライトで明るい室内

サンルームなどとともに、この家を「暖かい家」にする上で大きな役割を果たしているのが、全部で4カ所に設けられたトップライトだ。厚さ20mm、80×800cmのアクリル板が両端の壁の間に架かる。

とにかく家の中が明るいと川口さんは言う。「設計時に模型を外に出して、太陽光のもとで光の入り方を確認した時に、すごい明るい家なんだなあと思いましたね。でも、実際住んでみると、それを上回るくらい明るくて」。陽がつねに差し込んでいるので陽の光で目が覚めることもしばしばだ。

明るいのは日中だけではない。「月の光がけっこう明るいんですね。そんなこと、今まで実感したことがなかったんですけど」と川口さん。さらに「月や星の明かりがすごくきれいで。そういうのがこの家ならではの楽しみなのかなと思っていて、住んでみて本当にいろいろ発見がありますね」


左が子どもたちのスペース。カーテンの裏には2段ベッドがある。将来、このスペースを戸で仕切れるようにレールが敷かれている。右がリビングとキッチンスペース。

次女の乃暖(のの)ちゃんと末っ子の和珠(なごみ)ちゃん。広いリビングで伸び伸びと遊ぶ。

子どもスペースの一角にある収納棚の上には乃暖ちゃんが描いたママの絵。

長女の仁那(にな)ちゃんと乃暖ちゃん。この一角は子ども専用で、彼女たちのお気に入りスペース。

「つねにきれいでいられる空間」という奥さんのリクエストからキッチンは収納スペースを多くつくり、この通りスッキリ!


雨を楽しむ

川口さんには、実は、一人占めしている「この家ならではの楽しみ」がある。「仕事の後の休息のひとときを大事にしたい」という川口さんは、家族が寝た後に、奥の書斎やダイニングスペースで、音楽を聴いたりしながら一人静かにウイスキーの杯を傾けるのだという。そして、時折りトップライトを通して夜空を眺める。

寝静まった中で自分一人だけが、世界、いや宇宙全体と通じるみたいな…そんな感じだろうか。聞いてみた。「そうですね(笑)。とても贅沢な気分になります」と答えた後、こう付け加えた。「夜空もいいですが、雨が降るとこれがまたすごくきれいなんです」


「すごくリラックスできる」という書斎スペース。「音楽聴いたり、本を読んだり、お酒飲んだりとかで楽しんでいます」

キッチンから一番奥の洗面スペースを見る。奥には、バストイレなどの水回りがある。


「地面に設置したライトの光がトップライトに降り注ぐ雨に当たるととてもきれいで、子どもたちはそれを線香花火みたいだと言って喜んでいます」と奥さん。さらにまた、そのトップライト上でつねに移り変わる波紋のような模様がダイニングテーブルに反射してとても不思議な感じの光景をつくり出すのだという。

「今まで雨が降って嬉しいなんて思うことはなかったですけど、ここでは雨がありがたく感じられますね」と川口さん。奥さんも「私も雨の時がいちばん好き」だと言う。

われわれが忘れてしまった自然との直接的な接触とそこからもたらされる感動。そんな感動を日々味わいつつ暮らす川口家の人たちがとてもうらやましく感じられた。


明るく暖かい空間のためオリーブの生育も速い。

昔の日本家屋の縁側のように、庭から家の内部がよく見える。

壁から壁までアクリルのトップライト。80×800cm、厚さ20mm。


川口邸
設計 保坂猛建築都市設計事務所
所在地 山梨県富士吉田市
構造 RC造
規模 地上1階
延床面積 102 m2