Column
建築ムービーストーリーテリングがユニークな
建築ドキュメンタリー ふたつ
ファッション誌の取材・編集に関わる人物を追う『ファッションが教えてくれること』、作り手の華麗なる舞台裏を捉えた『ディオールと私』など、ファッションについてのドキュメンタリーが次々と公開され注目されていますが、ここに来て、建築のドキュメンタリーが2作品登場です。いずれもストーリーテリングがユニークで建築門外漢でも楽しめる作品。ひとつはなんと、建物自身が語りかけてくるスタイルで、世界的に知られる名建築とエピソードを映像化した『もしも建物が話せたら』。もうひとつは、国内外の建築家や評論家、ジャーナリストが出演し、日本の建築と建築家について忌憚なく語る『だれも知らない建築のはなし』。日本の建築界の舞台裏を知ることが出来作品です。いずれも建築についての情熱が熱く感じられる仕上がりです。
『もしも建物が話せたら』
ヴェンダース監督が挑んだ世界的建築のドキュメントとは?
この6話オムニバス形式のドキュメンタリーでは建築家を讃えることを主眼とせず、主役はあくまで建物で存在する意味とそこに集う人々の営みをていねいに伝えます。観ているうちにその建物にも魂があることすら感じさせるのです。物語を導くナレーションが解説者としての立場ではなく、あえて建物自身に語らせるスタイルなのもそういう思いもからでしょう。その語りは心地よく、あたかもその場を訪れ一緒に居る気持ちにさせられます。
饒舌に語る6つの建築、
目から鱗のエピソード。
隣に突然あの東西を隔てた壁が建てられ、政治にも利用されたドイツのベルリン・フィルハーモニー・ホール。
なんとエカテリーナ王政時代から脈々と吸血鬼のように生きながらえるロシア・サンクトぺテルブルグ図書館。
たとえ殺人の罪を犯した者だとしても優しく受け入れるノルウェー・ハルデン刑務所。その建築環境でこそ多くの新薬が生み出されるアメリカ・サンディエゴの医薬研究所。内部のインテリアも価値を讃えるノルウエー・オスロ・オペラハウス。展示される作品以上に建築がアートしているフランス・ポンピドー・センター。
いずれも建物として一見の価値があることはもちろん、目から鱗のエピソードに圧倒されます。
建築は使う人々に愛され役立たなければ、いわゆる「箱」に過ぎません。しかしここでは建築物はまるで人を優しく包む自然の木々のようでもあり、取り壊されない限り永遠に人々の営みを記憶していく。そんな人々と建物の愛の交歓のような温もりをも各作品から感じ取れ、癒されます。
それら建物をヴェンダース監督は教会と同じ存在であり文化の大聖堂であると考え、この作品の原題を『Cathedrals of culture(文化の大聖堂たち)』としています。彼の審美眼に叶った6大聖堂の面構えや心根を見極めてみて下さい。
『もしも建物が話せたら』
WOWOWプライムにて放映 前編 2015年5月16日(土)13:00 、後編 23日(土)13:00
3D版はWOWOWシネマにて放映 前編 5月29日(金)11:30 、後編 5月29日(金)午後1:00
前編
『べルリン・フィルハーモニー』 監督:ヴィム・ヴェンダース
『ロシア国立図書館』 監督:ミハエル・グラウガー
『ハルデン刑務所』 監督:マイケル・マドセン
後編
『ソーク研究所』 監督:ロバート・レッドフォード
『オスロ・オぺラハウス』 監督:マルグレート・オリン
『ポンピドゥー・センター』 監督:カリム・アイノズ
『だれも知らない建築のはなし』
国内外の著名建築関係者がホンネで語る建築のこと。
近代主義、メタボリズム、ミニマリズム、ポストモダンなどなど、時代の経緯に沿った建築様式の個人住宅、ビルや地方都市の地域施設など多数の建築物を時代に沿って見ることが出来るのも悦楽ですが、それらを語る磯崎新をはじめ安藤忠雄、伊東豊雄といった日本を代表する建築家の面々の登場が鮮烈です。各氏、本音で政府を含めた他者を批判もすれば、自らをアピールする主張も強く、そのやりとりが最大の魅力です。彼らから本音を引き出した石山監督の才能が見えてきます。
加えて、世界的に知られるレム・コールハース、ピーター・アイゼンマン、チャールズ・ジェンクスら建築家や評論家なども国際的視点で日本の建築と建築家について、深いリスペクトを持ちつつも鋭い批判を寄せます。そこから浮かび上がる世界の中の日本の建築の特異性。そして現在の建築界に求められているキュレーションという「建築せざる建築」。
『だれも知らない建築のはなし』
2015年5月23日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
出演:安藤忠雄、磯崎新、伊東豊雄、ピーター・アイゼンマン、チャールズ・ジェンクス、レム・コールハース 、中村敏男、二川由夫、藤賢一、生田博隆
ナレーション:カズオ ギエルモ ペニャ
インタビュー:中谷礼仁、太田佳代子、石山友美
監督:石山友美
撮影:佛願広樹
編集:佛願広樹、石山友美
照明:草彅秀興、桝谷滋威
録音: 臼井勝:光地拓郎、Diego Van Uden Stephen Lee Danial Neumann
原題: Inside Architecture -A Challenge to Japanese society
製作:第14回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展日本館製作委員会、P(h)ony Pictures
配給:P(h)ony Pictures
配給協力・宣伝: プレイタイム
2015年 / カラー / 16:9 / 73 分 / ドキュメンタリー