Column
生まれ変わった倉庫-1-日本の手仕事を発信する
東日本橋の「組む 東京」
倉庫として活用されていたスペースをリニューアルし、ユニークなショップやギャラリーとして生まれ変わった施設を紹介。前編は東神田に位置する「組む 東京」へ。
古くから問屋街として知られる東日本橋。近年は、近隣の馬喰町や浅草橋、蔵前などを含む一帯が「イースト東京」という愛称で親しまれており、若いデザイナーやアーティスト、クラフトの職人などが集まるクリエイティブな街としても注目を集めている。この街が父方の実家だったという小沼訓子さんは、大学で日本美術史を専攻したあと渡英し、キュレーションの仕事に出会う。帰国後、家業である「中川ケミカル」のショールームで、自社商品の展示のほか、素材に焦点をあてた展示のキュレーションも行っていた。2000年頃から徐々に盛り上がりを見せていた東東京に可能性を感じた小沼さんは、祖父が建てた築60年以上の倉庫を日本のものづくりを紹介する場にしたいと一念発起。1年以上かけてリノベーションをし、ショップ、スペース、コミュニティスペースの機能を持ち合わせた「組む 東京」をオープンさせた。ここでは、小沼さんが古くから親交のあったものづくりと向き合う作家たちの作品を中心に展示し、国内外へその魅力を発信している。
大きなガラス窓から自然光がたっぷり入る1階は、ギャラリーとショップスペースで構成。ギャラリーでは月に1回程度、アーティストの企画展を行っている。小沼さんの周りには昔から、自然とものづくりに関わる人たちが集まっていたといい、この空間をフルに使って、彼らの作品を紹介している。小沼さんが作り手同士を引き合わせ、コラボレーションのイベントをすることもある。「地下一階はストックに使っているスペースですが、要望があればここでも作品を展示したり、ワークショップを行うなどその時々でフレキシブルに対応しています」と小沼さん。ショップスペースでは大治さんがデザイナーとして関わっている有田焼の磁器ブランド「JICON」や真鍮の生活用品ブランド「FUTAGAMI」などの日本の手工業品を常設で取り扱うほか、山崎淳子さんが手がけるテキスタイルのアクセサリブランドの「JEUJUEI」、木工作家の小沼智靖さん、金属造形作家の柴崎智香さんなどの作り手の作品も紹介。また、「組む 東京」のオリジナルアイテムもある。フランスで調香を学んだペレス千夏子さんが立ち上げた香りのブランド「東京香堂」とコラボレーションした持ち運びしやすい香袋で、2種類の香りをリリースしている。
2階はイベントやトークショーなどを行うイベントスペース。トークショーやオープニングパーティなどを行い、人と人の交流の場として活用している。取材当日は和紙造形作家の森田千晶さんの作品を使った和紙の茶室が作られていた。ここでは、彗星菓子手製所による菓子とお茶を振る舞う茶会「森閑」を開催。柔らかな和紙に包まれた空間で、静謐なお茶の時間を提案した。1階では、森田さんの作品にあわせて、森、草木、花をイメージした香りを随所にしかけ、作品を鑑賞しながら、自然の中にいるような体験ができる展示を行った。このようなユニークな鑑賞体験を考えるのも小沼さんの仕事の一つ。作家同士を引き合わせてオリジナルのイベントを行うなど、ここでしか味わえない体験を提供している。このような展示やイベントを通じて、東東京に来る機会がなかった人にも足を運ぶきっかけにしてほしいと小沼さん。ものづくりに励む人たちと組みながら、日本の手仕事の素晴らしさと同時に街の魅力も発信している。