Design
ミラノサローネ 2012 – 2 – 来場者を魅了した日本人建築家による
光のインスタレーション – 2 –
世界中のデザイン関係者が注目するビッグイベント、ミラノサローネが、4月17〜22日の6日間にわたり開催された。その中でも斬新なアイデアで注目を引いた日本の建築家の作品にフォーカスを当てて紹介する記事の2回目となる今回は、中村竜治建築設計事務所の中村竜治さんに、映像作家との協働によるインスタレーション作品について話をうかがった。
「今年のキヤノンのテーマが“NEOREAL IN THE FOREST”だったので、ここから空間で光を受け止めるというコンセプトを立てて、とても単純な立体のグリッド(格子)をつくりました。そのグリッドに6つのプロジェクターで映像を投影するとそこに立体が立ち上がるというものです。映像はマッチ棒や鉛筆、アクリルのプレート、波紋といった日常にあるものを撮影したもので、全体が4分で構成されています」
素材は0.3mmのピアノ線
中村さんがつくられたグリッドは具体的にはどういったものですか。
「直径0.3mmのピアノ線で組まれていて、床から自立した構造体になっています。ピアノ線の柱が10cm間隔で80列×50列あるので、全体としては8m×5mの大きさのものです。高さ方向は、構造的に上下で間隔が変えてありますが、20列で2mあります。
プロと学生の混成部隊約20数人で1カ月かけて日本で制作したものを、折り畳んでミラノにもっていきました。1m×4mのユニットになったものを10個、広げてから間をつないでいくんですが、これは現地で日本人の留学生12人を使って3日間かけて組み立てました」
空間で光を受け止める
光を空間で受け止めるというコンセプトはどこから出てきたんでしょうか。
「霧が立ち込めた森に木漏れ日が差すと光の筋が見えますね。その光がもし像をもっていたらどう見えるのかなという素朴な疑問から出発しました。光を透過しつつ受け止める均質な物体をつくる必要があったので、すかすかだけれども均質に中身が詰まっているような性質をもつグリッドという形を借りることにしました。光を透過しながら受け止めるということを実現させるために、フレームをできるだけ細くしていくと同時に、全体をできるだけ大きくして、最終的に約25万の線分で構成されるグリッドになりました。映像を受ける面自体はとても小さいけれども、その面を大量につくることで像が見えてくるというものです」
来場者の反応
現地での反応はどうでしたか。
「訪れてくれた人の滞在時間が長いのが印象的でした。多くの人が、何が起こっているのか一生懸命見て理解しようとしているようでした。
グリッドの存在感がとても希薄なので、最初、床に投影されているものとその上に生まれている光の関係がなかなか理解できない。そのうち、床の上のすかすかな立体のようなものが光を受け止めていることが分かってきて、平面である映像が立体に立ち上がる状況をしばらく不思議そうに見入っています。すると、その立体がどうやって設置されているのかが気になってくる。4分間の映写の最後のところで一瞬グリッド全体が明るくなるんですが、そこでそれがグリッド状の自立した構造体であることがはっきりと分かる。しかしそれでも、これがどうして自立していて、どんな素材でどうやってつくられているのかが分からず、さらに近付いてじっと見入ってしまう、というような感じでしたね。
明るくなるところでは、毎回低い歓声ともなんともつかない声が上がっていました。とにかく一瞬では感じきれないものだったと思います。映像はつねに再現性や鮮明さといった現実感を追い求めてきたと思いますが、この体験では、平面に映像を映すのとも、忠実に3次元を再現しようとするホログラムとも違った、もうひとつの現実感を味わってもらえたのではないかと思います」
建築と混じり合う映像
今回の試みが建築のほうへと展開できそうな予感はありますか。
「キヤノンのプロジェクターはすごく粒子が細かくてドットが見えない。だから今回のようなとても小さな面にもなめらかに映ったと思うのですが、壁面に映すと、映像というよりはそこにポスターが貼ってあるみたいな見え方をします。映像というとフィクショナルな感じがしますが、このプロジェクターから映写されたものには実体感のようなものがある。これがさらに進んでいくと、たぶん、映像というよりは物体のようなものに近づいて建築と混じり合うようになっていくんじゃないか。そして、建築との相性が今よりよくなる可能性があるのではないかと思いますね」