Renovation
築百年の家を住みこなす大正の家をリノベーション。
自分たちらしい空間をつくる
袋小路に建つ平屋に出会う
小林健さん・有希子さん夫妻が暮らす家は、大正時代に建てられたという平屋。都心の繁華街からほど近いロケーションで、初めて訪れる人は、都心にこれほど古い平屋が残っていることに驚くという。
「もともとこのあたり一帯はひとりの方が所有していたらしいんですが、相続などで分割されていくうちに、この家のある場所が袋小路になってしまったみたいです。長年空き屋だったのを『住んでくれる人がいれば』と不動産屋さんに預けていたそうです」(健さん)。
健さんが2006年にこの家に出会った時は、長年放置されていたため、とても人が住めるような状態ではなかった。けれども、健さんは家を見て、「なんとかなるかな」と思ったという。「ギャラリーに勤めている関係で、ペンキ塗りや展示用の棚などをつくることも多く、この家も自分で手を入れて住めるようにできるんじゃないかと思ったんです」。
4年間かけて少しずつ手を入れる
しかし、それからの道のりは予想以上に長いものになった。生活できる状態にするためには大掛かりな修繕が必要だが、健さんは仕事が忙しく、作業はなかなかはかどらなかったという。
最初にとりかかったのが、腐っていた畳を捨てて床を張り直すこと。「畳をあげたら、下に戦前の新聞が敷いてあったんです」というから、いかに長い間誰も住んでいなかったかがわかる。その床には、天井板を貼り直した。「天井板を外してみたら小屋裏が見えて雰囲気もいいし、天井が高いので広く感じる。古くていい板だったので、床に貼ることにしたんです」。
次にこまかく間仕切られていた襖を外して土壁を壊し、広い空間を確保した。いったん間仕切りのない状態にしてから、新たに部屋の仕切りになる場所に、構造用合板と石膏ボードで壁をたてた。有希子さんは当時を振り返り、「デートに迎えにきてくれたと思ったら、車はトラック。そのままホームセンターに行って、材料を買いこんでこの家に戻って作業を始めるといった感じでしたね」と笑う。
4年にわたる修繕にメドがついたのは、健さんと有希子さんが結婚することになったため。「そろそろどうにかしないと」と、二人が入居できるように急ピッチで作業が進められた。
古材とモダンなインテリアの調和
ふたりが暮らす現在の住まいは、百年前の建材とモダンなインテリアのミックスが独特の心地よさを生み出している。
メインとなるのは、約18畳のリビングダイニング+ベッドルーム。「8畳と10畳など2部屋にするより、ワンルームにして広々と使いたかったんです」(健さん)。自らがつくった白い壁と、黒光りする梁のコントラストが印象的だ。
もともと広縁だった部分は部屋との間の建具を取り外して、リビングダイニングと一体の空間として活用。そして、広縁の向こうには、一面のウッドデッキ。木製フェンスで周囲の視線が気にならない、まるで秘密の庭のような空間だ。
LDKと白い壁でゆるやかにつながるキッチンは、鮮やかなオレンジの壁が目を引く。背の高い有希子さんのためにカウンターの高さを調節するなど、DIYならではの工夫がされており、とても使いやすいとのこと。「休みにはよく友達を呼んで、一緒に料理を楽しみます」(有希子さん)。
サグラダ・ファミリアのように
この家に二人が暮らし始めて3年。「住み始めた頃は、見知らぬ猫がどこからか家の中に入ってくるほど、すき間だらけ。寒さもひどかった」(有希子さん)。けれども住みながら修繕を続け、今では冬も暖かく心地よく過ごせるようになったという。
週末には、友人が多く集まるという小林さん宅。どこか懐かしい独特の心地良さは、訪れる人にも好評のようだ。
「でも、まだまだ手を入れたいところがあるんです。屋根の上に張り出したベランダのようなスペースをつくりたいし、玄関も増築したい」と健さん。すると有希子さんも「家族が増えたら部屋も増えるだろうし、犬も飼いたいからそのスペースもほしい」と続ける。「自分たちでも、この先、家がどんなふうになるのかわからないので『サグラダ・ファミリア状態』って呼んでます(笑)」。