Renovation

建築家がセルフリノベーション下町の民家を
低コストで大改造

建築家がセルフリノベーション  下町の民家を 低コストで大改造

広がりを可能にする家

下町の文化と風情が残る街・雑司ヶ谷の一角に、モダンでありながらまわりの景観と不思議になじむ建物がある。建築家の河内一泰さんが事務所兼自宅として生活するここは、築約50年の物件を、自らリノベーションしたもの。

「もともと老夫婦が住んでいた木造の家屋でした。鉄骨のスケールの大きい建物を探していたのですがなかなか見つからなくて。この物件は木造だったのですが、フラットな陸屋根で屋上をテラスとしても使えるし、もと谷だった地形から地下にも堀り進めることができる。上にも下にも広がりを持たせる余地がある、と思って決めました」

木造家屋は大きい部屋や天井の高い空間はつくりにくいのだという。ここならば望んでいる大空間が造り上げられる、というのが選んだ理由だという。


構造調査をして必要な柱などを残しリノベーション。床は無垢のパイン材を敷き、壁や天井は白いペンキを4回ほど塗り重ねた。
構造調査をして必要な柱などを残しリノベーション。床は無垢のパイン材を敷き、壁や天井は白いペンキを4回ほど塗り重ねた。
玄関前が和みスポット。近所の人たちともなじみとなり、交流を楽しんでいる。
玄関前が和みスポット。近所の人たちともなじみとなり、交流を楽しんでいる。
2階にあがる、フィンランドバーチを使った外階段。自然による風化を感じさせる。
2階にあがる、フィンランドバーチを使った外階段。自然による風化を感じさせる。


手作業でリノベーション

1階の事務所はワークスペースと打ち合わせのためのスペースに分かれているが、打ち合わせスペースは半地下になっていて4メートルの天井高を確保。そのため事務所全体が広々とした空間に見える。

「地域的に谷状のエリアなので、基礎の立ち上がりが普通より高い高基礎になっているんです。床下に空間があったので、これは使える、と土を掘り起こしました」

家の前の道路は重機が入らない幅のため、作業は事務所のスタッフと手作業で行った。土は業者に依頼して搬出。

「意外とそれに費用がかかったのですが。設計しながら作業をするという、一体全部でいくらかかるかわからない状態で、何もかもを同時進行で進めていきましたね」

当時、妻は長女・詩ちゃん(6歳)を妊娠していて里帰り中。スタッフに手伝ってもらいながら、土をかき出す作業、壁を壊し、天井をはがす作業、床張り、ペンキ塗りなどセルフビルドで10カ月くらいかけて完成した。

「こだわったのは南側のファサードです。内階段を撤去して外階段を取り付けたのですが、階段を覆うスクリーンをもう一枚外側に立てました」

素材は工場の壁や屋根の材料に使うFRPの波板。これにより光を通しながらも中は見えない状態になる。階段や踏み台は船の甲板などで使われているフィンランドバーチを採用。

「外なのですが室内の材料を使いたかったんです。木を使うことで室内っぽく見せるのが狙いでした」

経年によって変化した白い波板とフィンランドバーチのためか、その佇まいが下町の雰囲気に溶け込む。仕事の合間に、ファサード前に置いたイスに腰かけ、タバコを吸うのが河内さんの日課だという。


事務所ではスタッフが仕事中。机なども河内さんが手作りした。
事務所ではスタッフが仕事中。机なども河内さんが手作りした。
河内さんの仕事スペース。低い位置で仕事ができるよう、工夫されている。
河内さんの仕事スペース。低い位置で仕事ができるよう、工夫されている。
ガラス窓から2階のリビングダイニングを望む。遊び心が楽しい。
ガラス窓から2階のリビングダイニングを望む。遊び心が楽しい。
事務所の壁に、詩ちゃんのお絵描きが。幸せな家族の暮らしぶりが伝わってくる。
事務所の壁に、詩ちゃんのお絵描きが。幸せな家族の暮らしぶりが伝わってくる。
手掘りで土を搔き出した打ち合わせスペース。
手掘りで土を搔き出した打ち合わせスペース。
半地下に降りる階段も河内さんの手作り。下は本棚にしてサンプルケースとして活用。
半地下に降りる階段も河内さんの手作り。下は本棚にしてサンプルケースとして活用。
合板に足をつけて作った丸テーブル。イスはあえて違う形を揃えることで、変化をつけている。
合板に足をつけて作った丸テーブル。イスはあえて違う形を揃えることで、変化をつけている。
大空間に合うものを考えた結果、照明は蛍光灯をばらしケーブルの皮をむいて吊るした。「シャンデリアは似合わないなと思って」
大空間に合うものを考えた結果、照明は蛍光灯をばらしケーブルの皮をむいて吊るした。「シャンデリアは似合わないなと思って」


2階、3階の住居部分は、仕切りの少ない真っ白な空間。ここも大改造を行い、水まわりの設備以外は自ら造り上げた。

「狭いのでできるだけワンルームに近い形にしたいと思いました。この広さだとダイニングテーブルをおくとリビングが取れなくなってしまうので、キッチンはオープンカウンターにして、そこで食事ができるようにしました」

カウンターだけではテーブルとして少し狭かったので、木を接ぎ足して広めのサイズに。スツールもカウンターの高さに合わせて、河内さんが作成した。詩ちゃんの友達とその保護者を呼んでパーティーを開くときも、キッチンカウンターが活躍する。

「普通の家は気をつかうけど、ここは居心地がいいみたいなんですよね。勝手に冷蔵庫にビールを入れている人もいたりしますが、そういうのも全然OKですから」

別の場所に事務所を構える、同じく建築家の妻に代わって、ママ・パパ友達に対応するのは一泰さん。子供の世話をしたり、手料理をふるまったりするのもまた、楽しい時間だと言う。


むき出しの天井や配管がロフトっぽい雰囲気。キッチンカウンターで食事をとる。
むき出しの天井や配管がロフトっぽい雰囲気。キッチンカウンターで食事をとる。
妻が購入してきた古いミシン台の脚に、天板を取り付けた机。詩ちゃんが使用。
妻が購入してきた古いミシン台の脚に、天板を取り付けた机。詩ちゃんが使用。
カウンターに合わせて作ったスツール。1脚1脚高さが違うのが味。かつ身長に合わせて選べて便利。
カウンターに合わせて作ったスツール。1脚1脚高さが違うのが味。かつ身長に合わせて選べて便利。


遊びのあるリビング

リビングで目を引くのが、床にはめ込まれた正方形のガラス。ここから1階の事務所が見下ろせる。

「もともと内階段があったところなんです。リノベーションする時、最後に塞ぐつもりだったのですが、ガラス張りにしておけば、下で親が仕事をしているところを子供が見られると思って」

今ではそれが、この家のリビングの特徴となっている。上からも下からも、日常の風景がワンシーンのように切り取られる窓は、ピクチャーウインドとしての機能も果たしているかのようだ。

「リビングでは夜、子供に勉強を教えたり、一緒にトランプで遊んだりしています。テレビは、あると子供との思い出がつくれないのでクローゼットに隠してしまいました」

クローゼットや洗面、バスルームのドアなどは、あえて設けずカーテンで仕切っている。

「コスト面を考えた選択ですが、湿気がこもらずカビもこないし、結構いいですよ」


ゴロゴロと寝そべることができる大きなソファーは無印良品。内装はニュートラルな白で統一。
ゴロゴロと寝そべることができる大きなソファーは無印良品。内装はニュートラルな白で統一。
1階の打ち合わせスペースを見下ろせるガラス窓。床は無垢のパイン材を使用した。
1階の打ち合わせスペースを見下ろせるガラス窓。床は無垢のパイン材を使用した。
洗面、バスルームはドアを取り付けずカーテンで仕切る。白一色の空間がどこか幻想的。
洗面、バスルームはドアを取り付けずカーテンで仕切る。白一色の空間がどこか幻想的。
現在、保育園の年長の詩ちゃんに勉強を教えるのは河内さん。オリジナルの教材を作って、数の特訓中。
現在、保育園の年長の詩ちゃんに勉強を教えるのは河内さん。オリジナルの教材を作って、数の特訓中。


空につながるベッドルーム

ラフなその考え方とライフスタイルが伝わってくる河内邸だが、3階はさらに開放的な雰囲気に満たされる。ベッドルームにテラスが隣接したそのスペースは、大きな開口部から光が差し込み、テラスからは広々とした視界が広がる。

「寝ているときに空が見えるのが気持ちいいんです。だからカーテンもつけていません」

テラスにはローテーブルを置いて、食事をすることも。雑司ヶ谷の町並みの向こうに池袋のビル群が見渡せる。

「コストを考えての設計でしたが、自分で好きなように決めて造っていけたのが良かったですね。後にも先にも好き放題できるのは、この家だけですから。いい経験にもなったと思います」

当分、この街を離れたくないという河内さん。仕事と家庭と近所との距離がちょうどいい、そんな生活の充足感が感じられる。


3階のベッドルームとテラス。無駄なもののない、明るく開放的、かつ清潔な空間。
3階のベッドルームとテラス。無駄なもののない、明るく開放的、かつ清潔な空間。
陸屋根を活かして広いテラスに。都会の中のオアシスのような家。
陸屋根を活かして広いテラスに。都会の中のオアシスのような家。
河内邸
設計  河内一泰
所在地 東京都豊島区
構造 木造
規模 地上3階
延床面積 91.8m2