Renovation
古い民家をリノベーション木の風合いと民芸品を楽しむ
“普通”が心地よい家
ふたりのアトリエとして
昨年、築30年の家をリノベーション。「アトリエ・フォーク」を拠点に独立し、活動をスタートした二人、切り絵作家のYUYAさんとパン教室を運営するスパロウ圭子さん(食のアトリエ・スパロウ主宰)。色々な物件を探し歩いた後、中野の1軒家に辿り着いた。
「ここなら1階でパン教室や、オープンアトリエもやりやすいかなと思いました。こうすれば使える、というイメージが浮かびやすかったですね」。
と、大学で建築を学んだYUYAさん。落ち着いた住宅街にひっそりと建つ家は、木を活かした素朴なリノベーションが温かい。室内は切り絵作品と、おふたりが好きで集めたフォークアートで彩られ、圭子さんの焼く香ばしいパンの匂いが立ちこめる。
学校のような1階
2階建てにロフト付きだった家は、天井をすべてむき出しにして下地を残し、1階の床はPタイル、2階の床は無垢のフローリングに張り替えた。
「リノベーションのテーマは、一言で言うと“普通に”。昔の日本の一般的な家が持つ、デザインされていない心地よい普通さをイメージしていました」。
柱などの木の味わいを残して、木と白い壁の色を中心に、薄いブルーグレーをドアなどに少し添えた。
「思い起こせば、結婚して初めて住んだマンションが木と白、ブルーグレーの3色だったんです。ここで3軒目なのですが、前の家もこのトーンにしていましたね」。
1階は作品を展示するため、壁に有孔ボードを取り付けて、フックなどをかけやすく。小学校を思わせる椅子と、それに合わせてオーダーした木のテーブルがどこか懐かしい。
「学校みたいだと言われます(笑)。学校の家具のように、機能がそのままデザインになったような形に惹かれるんです」。
1階の面積の半分ほどを占めるキッチンでは、圭子さんが1日のうちのほとんどの時間を費やす。どうしても欲しかったというパンを焼くためのデッキオーブンなど、業務用の厨房が堂々たる構えだ。
大切な宝と暮らす工夫
2階の仕事部屋とリビング兼ベッドルーム、3階のロフトは、フォークアートのコレクションがユニークな表情を出している。
「もともと民芸品がたくさんあったので、家自体はそれを全部受け入れてくれるような、普遍的であたたかい箱にしたいなと思ったんです」。
フォークアート以外にもたくさん所蔵する趣味の本やCD、レコードなどを収めるため、棚を壁の上部に取り付けた。
「決して広くはない家なので、ものを下には置きたくなかったんです。邪魔にならない位置に棚を取り付けてもらいました」。
ラワンでできた棚は、友人である建築家の江口智行さんから紹介してもらった家具職人の佐藤洋一さんにオーダーしたものだ。
「この家に合う色になるよう、小口には違う材を使っているんです。細かいところにこだわって作ってくれました」。
設計や家具ともうまく連携しながら、ルーヴィスが施工。階段や収納など随所に用いられたラワン材の、やわらかい色調と素朴な素材感が味を出す。
「和風にしたいわけでもないですし、ある特定の雰囲気に偏らないようにしたかったんです。インテリアも民芸も、一緒の空間に置いて合うかどうか、愛着が持てるかどうかが選ぶ基準ですね」。
アトリエから生まれる交流
たくさんのフォークアート、各地のお土産品などは、「連れて帰って」と訴えかけてくるものを購入しているうちに、増えていったのだそう。そのきっかけは器から始まった。
「ギャラリーなどで気になる作品を見つけると、窯元を尋ねるんです。どれも愛着があり、買ったときのことが思い出せますね」。
1階のキッチン、ダイニングの棚に並べられた器は、毎月開かれるパン教室でも使われる。圭子さんの手作りのパンやお菓子、ジャムなどとともにYUYAさんの作品なども販売されるオープンアトリエは月に1回開催。頻繁ではないが、回数を増やす予定はないのだそうだ。
「アトリエでは、お店以外にも日々さまざまな仕事があるので。ただ、オープンアトリエは近所の人たちとの交流にも役立っているんです。お店を開いて実際にお会いすることで、色んな人と関われることに意味があると思っています」。
好きなものに囲まれた、ゆるやかに満ち足りた時間が流れていた。