Renovation
庭と縁側と照明現代になじむ
日本家屋の静謐
ひと目で心を奪われた
“庭と縁側に惚れ込んで”、築36年の日本家屋を購入したのは2年半前。エディターの小川奈緒さん、イラストレーター&ライターの小池高弘さん夫妻が、4歳の娘とともに暮らす家は、まばゆいグリーンと、木の質感に心和まされる。
「和風がいいとか、特に思っていたわけではないんです。初めてここを訪れたのはちょうど2月だったのですが、庭に紅白のしだれ梅が咲いていて、それを見た瞬間に日本人のDNAが目覚めたというか、“いいな”、と感じました。もともとの造りがしっかりしていて、30年以上経っていても問題なく住める、そういう安心感もありましたね」
玄関にあがる石段や、その脇にあるつくばい、硝子に木の枠の引き戸など、もとからあったものはなるべく活かしてリフォーム。和をベースにした、モダンな現代風日本家屋が誕生した。
日本の近代建築を参考に
「家のしつらえは、趣味のあった建築家と、何度もミーティングを重ねて考えていきました。無理やり和モダンにするつもりはなく、ただ現代の暮らしとして違和感のないものにしたいと思いましたね」
モデルとしたのが、「江戸東京たてもの園」にある、前川國男の自邸。ル・コルビジェの弟子であり、日本のモダニズム建築の旗手となった建築家の作品からヒントを得るために、家族で何度も足を運んだ。
「障子があるけれど畳ではなくて床。ソファもあるけれど和の雰囲気もある。前川邸のような家にしたいと思い、イメージを膨らませていきました」
簡素になりがちなダイニングには、ゴールドの照明を吊るすことで上品なインパクトを加えるなど、インテリアのアイデアもそこから得た。
空間を三位一体で考える
「もともとインテリアが好きで、リビングには丸いシンプルな照明を置きたい、などの希望がありました。それを早い段階に建築家に伝えたのですが、その方は“家は、庭と照明で決まるから”と。部屋と庭と照明とを三位一体で考えることを大切にしていたんですね。そこに内装を合わせていく、という考え方でした」
建築家のアドバイスで、リビングの突き当たりには障子のある小窓を設けた。ソファに座るとちょうど正面に庭のグリーン、右横に小窓の植栽が視界に入り、風が通っていくのも感じられる。
「緑が目に入って、心地いいんです。ソファ上の天井も、あえて低くしてあって、座っているときに包み込まれているような安心感が得られるように考えられています。リビング・ダイニングは、2間あったところをワンフロアにしたのですが、ただ広かったり天井が高かったりすればいいわけではないんです。日本人の身長に合わせたものでなければ落ち着かないし、少しだけ部屋に凹凸をつけることでアクセントになると思います」
和になじむ北欧インテリア
華やかさや高揚感よりも、“普通の日本人が住むまっとうな家”を目指した、という空間は、計算されていながら無理がなく、穏やかな空気感が感じられる。それは、さり気ないのにこだわりがある、インテリアからも醸し出される。
「アメリカやイギリスの古いものも好きなのですが、和をベースに考えていったら、やはり北欧がなじむというのを実感しました。特に照明器具は、ほとんどが北欧のものですね」
リビングにはリサ・ヨハンソン=パッペのペンダントライト、キャビネットには、フォグ&モーラップのテーブルライト、縁側にはルイス・ポールセンのトルボー。やわらかな灯りが、瀟洒な家の雰囲気にマッチする。パシフィックファニチャーでオーダーしたテーブルの横には、造りつけのキャビネットがあり、柱を添えることで、やはり、ただ広くなりがちな空間に視覚的な変化を加えている。
縁側で過ごす贅沢な時間
自宅で仕事をする夫妻にとって、それぞれの仕事部屋を構えられるスペースがあるのも、一軒家の魅力だった。主婦としての仕事にもすぐ向かえるよう、奈緒さんの仕事部屋はキッチンの横に、高弘さんの仕事部屋は2階に。
「まわりが自然に恵まれた環境なので、落ち着いて仕事ができます。あとは昔から住んでいる近所のおじいちゃん、おばあちゃんが子供のことを気にかけてくれたり、子供の成長にとっても良い環境だと思いますね」
縁側では、娘みちるちゃんが積み木やパズルで遊ぶことも多い。
「みちるが雨で外に出られない日、私たちが仕事でずっと家にいる日も、縁側があることで助けられていますね。外出しなくても、縁側でお庭を見ながらお茶を飲んだりするだけでリフレッシュしますし、閉塞感がないんです。生活スペースではない、家と庭との曖昧な境界ゾーンなのですが、とても贅沢で大切なスペースだと思います」
庭で採れる四季折々の花や木の実などを、縁側のテーブルに飾り、生活に彩りを添える。その様子から、まっとうな暮らしの豊かさが伝わってくる。