Style of Life
古材が似合う筒状の空間 “味のあるもの”で
馴染んだ空間に
1年近くをかけて見つけたのは間口が狭く奥へと細長く続く敷地だった。この敷地に沿って南北に細長くつくられた建物の2階にあるのが、この家のメインのLDKスペースだ。
インテリアがしっくりと馴染みこんだ空間
このリビングは、初めての訪問者でも心地よく落ち着ける、そんな佇まいがとても印象的な空間だ。家が建ってから1年とちょっと、真っ白な壁や木製の柱や天井が築年の浅さを物語る一方で、見渡すと、使いこまれた古い家具や小物たちがもうずっと以前からそこに置かれていたかのように空間にしっくりと馴染みこんでいる。
それらは、ご主人の嘉高(よしたか)さんが海外のフリーマーケットなどで購入したイームズのラウンジチェアやチェスト、ライト、そしてさらに、アンティークテーブルをはじめ、夫妻が独身時代から集めてきたモノたちだ。
「集めたとまでいうような大したものではないんですが、好きなものは2人ともけっこう決まっていてそこはわりとぶれない。ずっと好きなものが変わらないので、何年も持ってるものばかりなんです」と奥さんの美智子さん。逆に、新しいものばかり、というのは好きではない、という。
自分たちで用意したキッチン
「基本的に味のあるものが好きなので、そういうものが入ることで空間が馴染んだ感じになるのかな」と語るのは嘉高さん。この「馴染んだ感じ」のする空間をよく見ると、建物と同時につくられて新しいはずのキッチンが何十年も使い込まれたかのような表情でリビングに背の部分を向けている。トップに使われたステンレス材は真新しいのに、フローリングよりも少し暗い色合いの扉材は、どう見ても新築時につくられたものには見えない。
実はこのキッチン周りの部分は、予算の関係もあって、素材から自分たちで用意したものだ。「建具や家具をつくっている友だちに相談して、ネットで古材の安いものを入手して加工をしてもらいました。キッチンの中の箱の引き出しとか収納などはイケヤで購入しましたが、この天板だけは既製品ではこの幅のものはないので彼ルートでつくってもらったものです」
だが実は、嘉高さんには古材を使うには少し懸念もあった。「空間に馴染みすぎてしまうのもどうかな」と。そこで、ステンレスとの組み合わせにも神経を使ったという。「天板がステンレスになっているので少し引き締まるとか、そういうバランスは考えたみたい」と美智子さん。
ビールを飲みながら…
このリビング、もちろん、一家の誰にとっても、一番のお気に入りの場所だ。「やっぱりこのリビングは最高ですね。日が暮れてくると窓が水色みたいな感じから深い青になっていって、その色のグラデーションがすごいきれいなんですね。南側の開口全体が大きなスクリーンみたいになる」と嘉高さん。日曜日で美智子さんと凛翔くんが出かけているときなどは、ビールを飲みながらその美しさに一人見入ってしまうこともあるのだという。
美智子さんは、このリビングにいるととても落ち着くという。「この空間の抜け感と箱みたいなところが好きなんです。キッチンにいる時間が前より多くなりましたね。以前はキッチンが小さくて離れてたんですけど、今はすべてぜんぶ抜けてて見通せるし会話もできる。それがいちばんいいのかな」
凛翔くんは、「いっぱい遊べるから好き」。家族のさまざまな思いを受け止めつつ、これからこのリビングは、年を重ねるごとにまたさらに馴染んで佐藤一家の生活を見守っていくのだろう。
設計 田井幹夫/アーキテクトカフェ
所在地 東京都世田谷区
構造 木造
規模 地上2階+ロフト
延床面積 77.7m2