Style of Life
葉山の人や自然と生きる体も心も満たされる
ホリスティックな暮らし
西海岸でオーガニックライフに出会う
「結婚当時は都心のペントハウス暮らし。それ以外は考えられない生活でした」。料理研究家の山之口さんが現在暮らすのは、緑に囲まれた葉山の山あい。遠くに一色海岸を見下ろし、晴れた日には伊豆大島まで見渡せる風光明媚な自然の中にある。
「夫の転勤でサンフランシスコに2年程暮らし、食住が近接した生活を体感しました。自然がいっぱいあるところにみんな暮らしていて、街のマーケットには無農薬野菜が当たり前のように売られている。当時、日本ではまだ注目されていなかったオーガニックライフに、高い意識を持つ人がたくさん住んでいました。その中でヨガにも出会い、身体が変わっていくのを感じたんです」。
帰国後、選んだのは葉山での週末別荘暮らし。「これが楽しくて。何より三浦半島の野菜と魚がおいしい。気がついたら東京での生活と滞在時間が逆転していました」。
そして8年半前、ご主人が育った場所でもある土地に、家を建てることになる。
自然を取り込んだ家と暮らし
「家のコンセプトはシンプルであることと、人が集まれる空間にすることでした」。2階まで吹き抜けの大きな開口部、1階は引き戸を内蔵することで仕切りをなくしたワンフロアの大空間が広がる。リビングのグランドピアノは、人が大勢集まるときに山之口さんが演奏をしておもてなし。窓の向こうに広がる緑を借景に、優雅なスローライフが繰り広げられている。
「設計は夫がこだわって、建築家さんと喧喧諤諤。完成まで4年程かかりました」。山之口さんが感心したのは、風が家を通り抜ける大きな開口部。「月が昇って沈んでいく角度もちゃんと考えられているんです。夜は明かりを消して月光浴を楽しみます。スーパームーンの時は素晴らしかったですよ」。
自然との一体感が醍醐味の空間は、珪藻土の壁に無垢のヒノキの床。「裸足で歩いて気持ちが良いように。カビてもいいから絶対に塗らないでください、と」。フシのある材料は目立たない場所に使い、リビングダイニングにはなるべく出ていない材料を使ってもらった。最後にお米を原料とした「キヌカ」をご主人とふたりで塗って仕上げたのだそう。
「夫とふたりで座禅を組むので、和室も欲しかったんです」。鴨居のない造りに巻き込みの障子、銘木の床柱。癒される和空間の丸窓の向こうにも、緑が広がっている。「京都の唐長の和紙を使ったり、手漉きの鳥の子の襖紙だったり、細部までこだわって造って頂きました」。
季節の食材を自家栽培
庭で無農薬野菜やハーブを育て、食と環境を考えるワークショップを開催する山之口さん。キッチンでは、季節の食材を使った目にも麗しい料理を創作する。「キッチンの向こうには裏山があるのですが、お皿洗いをしながら眺められるようにヤマブキの木を植えました。夫が子供の頃に植えられたヒゴツバキも立派に成長しています」。
インダストリアルな雰囲気のシンクは、山之口さんが自分で図面を描いて、板金屋さんにオーダーしたもの。ダブルシンクと硬めのステンレスにこだわり、掃除がしやすいよう足もとはオープンにすることをリクエストした。
「収納棚も揃えたかったのですが材料の高騰で断念。それから何年も経って、やっと気に入るものをセレクトショップで見つけました」。ジャスパー・モリソンのソファーは結婚後10年、ジャン・プルーヴェのダイニングテーブルは12年を経て購入。「気に入るものが見つかるまでは、無理に揃えたりしません。あるもので代用してしまいますね」。
ネットワークが広がる家に
まわりの自然に溶け込むかのような家は、インダストリアルでモダンなインテリアや、現代アートで彩られている。その中には、ご自身がしたためた書も。「こちらに来てからお師匠さんとの偶然の出会いで始めたんです。本当に色んな縁があって、最近では主人と一緒にスケートボードも始めました。10代の先輩に教わりながら(笑)。ここでは趣味もどんどん広がっていきますね」。と目を輝かせる山之口さん。
「ホリスティックオーガニックライフスタイルを目指していますが、体だけでなく人との触れ合いが大事だと思っています。人が人を呼んで仕事も趣味もどんどん広がっていく、ここに暮らす私たちはもちろんですが、ここに集まる人にとっても、そんな場所がつくっていけたらよいと思います」。