Style of Life
いい塩梅の家づくり田の字型のシンプルな間取りが
日々の暮らしを支える住まい
新米の収穫までに家を建てる
「お米農家 やまざき」を営む山崎さん一家が暮らす家は、青々とした田んぼの風景に寄り添うように建っている。一家は宏さんと瑞弥(みずや)さん夫妻に、櫂くん、千穂ちゃんの4人家族。この家に暮らし始めておよそ8年ほどだ。
山崎家の田んぼは埼玉県と茨城県にあり、以前は都内の宏さんの実家に住み、車で農作業に通っていたという。「家族の都合や田んぼに近いということで、こちらの土地に住むことになったのですが、うちの場合は家を建てる時期を農作業のサイクルに合わせなければいけないんです。そうすると新米の収穫前までの入居が必須で、それまで1年も猶予がなかったんです」。まだ年齢も若かったので周りに家を建てた経験のある友人も少なく、お金の借り方やどこに頼んで家を建てるかなど、自分で一生懸命調べたという瑞弥さん。「本当はもっとどんな家にするかじっくり考えたり、その時間を楽しみたかったんですけどね」。
間取りは「田の字」をお手本に
過去のアパート暮らしで、壁紙の裏にびっしり生えていたカビによるアレルギーを発症した経験のある瑞弥さん。新しく建てる家は、風通しの良さと自然素材を使うことが第一条件となった。そこで、建物内の空気を循環させるパッシブシステムを導入できる工務店を探し、設計と施工を依頼した。
間取りについては「とにかく農作業と家事をいかに効率よくできるかを重視しました。それで昔ながらの農家住宅に多い、田の字型の間取りを取り入れたんです」。
山崎家は、玄関を入ってすぐの引き戸を開けると、広い吹き抜けのワンルームが広がる。そのワンルームの中央に置いた薪ストーブを囲むようにキッチン、リビングダイニング、和室が配されている。
家事動線は、1階は玄関から土間でつながる作業場、そこから入れるキッチン、子供たちの勉強机、風呂場と家事の流れが熟慮されている。「買い物をしてきたら土間からキッチンへ直接荷物を置けるし、キッチンで家事をしながら子供たちのことも見られます。無駄なスペースもないから掃除する面積が少ないんです」。
無理しない予算でも
素材は、柱と梁は吉野杉、床は檜の節ありに。壁の仕上げは1階が漆喰塗りで2階は和紙貼りにした。「2階の床は予算の都合で杉にしたのですが、これが大正解。ふとんを敷いて寝ているのですが、柔らかくてとてもよく眠れるんです。畳よりいいぐらい」。家を建てている間、さまざまな職人さんとのコミュニケーションが楽しく毎日現場に通っていたという瑞弥さん。「職人さんたちの名前や住んでいるところも覚えるぐらいまでになったんです。工事が終わってしまうのがとてもさみしかった」。
家が完成し、入居して驚いたのが、東京ではいつも閉めていたカーテンが必要ないことだという。「ここでは周りの田んぼの風景が見渡せて、天気がよければ富士山も見える。外の景色が見たくてなるべく開けておきたいと思うようになったんです」。
家と暮らしを楽しむ工夫
そんな周囲の景色とともに家を彩っているのが、これまで少しずつ集めてきた古い家具や、付き合いのある作家がつくる家具や道具、器など。
米を自家販売していることもあり、小さな店やギャラリーで米を扱ってもらうことも多い。そこで全く違う分野の仕事をしている人たちに出会って刺激をもらい、時には助けられてきたという。「農作業の後、展示をしている作家さんに会いに行ったりして記念に求めたものが多いですね。疲れていても、人と会う時間が癒しにもなります。こうして集めたものを使うことも、きつい仕事や生活をなんとか楽しくしたいという工夫。生活道具は、負担に感じてしまう家事や炊事に、喜びを見つける実用的なアート。絵やジュエリーを買うのとは違う楽しみですね」。そうして信頼できる人たちがつくるものが家と暮らしを彩り、支えとなっている。
この家で震災や川の氾濫による農家存続の危機も乗り越えてきたという一家。「家がベースとしてすごくよく機能してくれているので、やっとですが今とても仕事が楽しくできているんです。色々後悔したけれど、今は若いうちに建ててよかったと思っています。仕事場であり、休息の場でもある家。欲を言えばもう1軒建ててみたいですね」
家づくりの哲学は、ベースはしっかり炊き上げた白いごはんに、工夫された具とスパイスで仕上げられる山崎家のおむすびに象徴されていたような気がする。