Style of Life
借景を活かしたほっこり空間レトロな建具が映える
古き良き外人住宅がモチーフ
借景を楽しむ北向きリビング
複数の大型ショッピングモールやシネマコンプレックス、音楽ホールなど文化・商業施設が充実している川崎駅周辺。その活気あふれる環境を抜け、歩くこと10数分、緑豊かな深瀬邸が現れる。
お隣は、夫・創(はじめ)さんのご両親の住まいで、創さんが生まれ育ったところ。豊富な緑はご両親宅の庭の植栽。この庭を借景として取り入れない手はないと、北側ではあるがそちらを大きく開いた。北向きのリビングダイニグは、高い天井に設けたトップライトからもたっぷりの光が差し込み、明るく開放的な仕上がりになっている。「冬も経験しましたが、一度部屋が暖まると熱が逃げないため、北向きでも暖かく、全く問題ありませんでした」と妻の千絵さん。光を受けた鮮やかな木や草花をリビングからいつでも愛でることができ、「南向きにこだわらず、こちらを開けて正解でした」とご夫妻も大満足。ご両親宅とも庭を通してつながっていて、見守られているという安心感もあるという。
外人住宅を改装したカフェに魅せられて
深瀬邸は、平屋に最小限の2階をのせた造りになっている。沖縄県出身の千絵さんは、家を建てるにあたり、「沖縄の外人住宅のような家」をイメージしていたと話す。設計を依頼したのは、P’s supply homesの小牧徹さん。小牧さん自身が幼い頃に逗子(神奈川県)の米軍ハウスで暮らした経験があり、その魅力を生かした住空間を提案していて、千絵さんの感性と合致したという。
「沖縄には外人住宅を改装したカフェがたくさんできていて、なかでもお気に入りのごはん屋さんがあったんです。小牧さんにそのお店の写真を見せて、“こんな感じの家にしたい”と伝えました」と千絵さん。その直後に、ちょうど沖縄に訪れる用事があったという小牧さんは、そのカフェに立ち寄り、実物を見てきたそう。イメージの共有がますますしやすくなったという。
1階は、玄関の土間からダイレクトにリビングへとつながる広々とした空間。まるで外国映画に出てくるような造りである。「これがしたかったんです! 日本ではなかなかないですからね」と千絵さん。リビングの窓から全面に広がる緑の雰囲気、床の質感からの木の温もり、心地よい明るさなど、そこに流れるほっこりとした空気感は、「お気に入りのカフェと重なります」と話す。千絵さんが思い描いていたイメージ通りの家が完成した。
既存住宅の建具を再利用
「私たちが家を建てたこの場所には、昭和初期の古い家が建っていました。小さい頃から見ていた家なので、何か残せないかと思っていたら、小牧さんから“古い家の建具を使ったらどうですか”といったご提案をいただいて。全部なくしてしまうのは寂しいですからね」と創さん。1階の洗面所につながるドアや木製の窓、2階の子ども部屋のドア、スイッチプレートなど古い家の建具やパーツを所々に使用し、歴史をつないでいる。
また、家具や装飾品もアンティークや昭和初期のヴィンテージものが。「蚤の市や古道具屋、アンティークショップなどで掘り出しものを見つけるのが楽しいんです」と千絵さん。創さんも、「新築感があるよりも、何年も住んでいるような家が好きです」と。人の温もりや古いものを大切にするお二人の感性が表れている。
沖縄の香りが漂う
リビングの一角に設えたキッチンは、まさにカフェのよう。「シャープさを加えたかった」と話す千絵さんは、カウンターの腰壁はモルタルをリクエスト。壁のレンガは、少し使い込んだ感のあるクリーム色にした。カウンターやシンク下の収納は、コストダウンのために扉を付けない仕様に。「扉があると、なんでも仕舞い込んでしまいそうなので(笑)。思い切って扉なしにすることで、きれいを保とうとしますね。扉を開けるというワンアクションがないので楽ですね」(千絵さん)
普段使用している食器はほとんど沖縄のものだそう。「実家に帰ったときに、“やちむん(焼き物)市”などで安く買ってきます」と千絵さん。自然と沖縄っぽいものが集まってくると言われ、地元から離れてみて、沖縄の文化やその素晴らしさにあらためて気づかれたという。
昔からインテリアが大好きで、独自に研究してきたという千絵さん。お洒落なカフェが次々にできている沖縄に帰省するたびに、カフェ巡りをしては参考にしたいインテリアなどをインプット。そして、自宅で実践してみるのだそう。
「この先、インテリアの好みは変わるかもしれないので、家自体はシンプルな箱として造っていただきました。暮らしながら、そのときどきに自由に味付けして、変化を楽しんでいきたいですね」と千絵さん。これからも自らのセンスを発揮しながら、お気に入りの家で豊かな人生を楽しんでいかれることだろう。