Style of Life

「大きな穴」が空間と家族をつなげる上下階をつなぐ吹き抜けがもたらす一体感
温もりと開放感のある住まい

吹き抜けのホールが家全体をつなぐ 温もりと開放感のある住まい

2階をリビングにするアイデアからスタート

川崎市の高台の住宅地に建つ南原さん邸。今年の3月に竣工したこの家に、貴宏さん、友香さん、萌々香(ももか)ちゃん、壮佑(そうすけ)くんの4人家族が暮らしている。
「以前は2LDKのマンション住まいでしたが、30歳を節目に周りも家の話が増えてきていたので、自然と自分たちの家を持とうと考えるようになりました。一生に一度の大きな買い物なので、理想を叶えられる注文住宅にしようと夫婦で話していました」(貴宏さん)。

家づくりにあたり、まずは土地を探そうとご夫妻が不動産屋さんに相談したところ、紹介されたのが、設計事務所「IYs inc.(イノウエヨシムラスタジオ株式会社)」の井上亮さんだった。
「井上さんが、土地とともに提案してくださったのは、リビングを2階にするというアイデアでした。それを見て、こんなこともできるのか、とイメージが広がりました。他の土地も紹介していただいていたのですが、もうここしかない!という気持ちになりました」とご夫妻は振り返る。

「周囲が密集地だったため、1階をリビングにすると窓の外にあまり良い環境をつくることができないので、開放感のある2階をリビングにする案を勧めました」という井上さん。この提案が決定打となり、ご夫妻はIYs inc.に設計を依頼。本格的な家づくりが始まった。

「温かさだけではない、バリエーションのある空間を意識しました」という井上さん。特に1階と2階の雰囲気の切り替わりのバランスにこだわったという。1階は、中国の伝統的な洞穴式住居「ヤオトン」をイメージして、地下のような雰囲気を木材の温もりで表現した。
「温かさだけではない、バリエーションのある空間を意識しました」という井上さん。特に1階と2階の雰囲気の切り替わりのバランスにこだわったという。1階は、中国の伝統的な洞穴式住居「ヤオトン」をイメージして、地下のような雰囲気を木材の温もりで表現した。
1階の個室から玄関ホールを見る。こちらも、白いクロスのシンプルな個室から温かみのある玄関ホールへの切り替わりで、自然と気持ちも切り替わるようにした。
1階の個室から玄関ホールを見る。こちらも、白いクロスのシンプルな個室から温かみのある玄関ホールへの切り替わりで、自然と気持ちも切り替わるようにした。
玄関に入るとすぐに広がるのは、吹き抜けの開放的なホール。フリースペースのような使い方もできるように考えたという。
玄関に入るとすぐに広がるのは、吹き抜けの開放的なホール。フリースペースのような使い方もできるように考えたという。
玄関の左側に設けたウォークインシューズクローク。使い勝手も良く、玄関周りもスッキリとした印象に。
玄関の左側に設けたウォークインシューズクローク。使い勝手も良く、玄関周りもスッキリとした印象に。

家のつながりと快適な居心地

南原さんご夫妻が家づくりにおいて、何よりも希望したのは、リビングを経由して子どもの部屋にアクセスできること、家族のつながりを感じられることだった。また、友人の多い南原さんご夫妻は「いろんな人が集まれる家にしたい」という想いもあった。

これを受けた井上さんは、いくつかのプランを考案。
「2階をリビングとしながらも、いかに下の階と断絶せずに、家族の一体感を高められるか」という課題に対し、井上さんが導き出したプランは「家の中央に大きな吹き抜けを設けることによって、リビングと下階の個室群をつなげる」というもの。1階部分に広さをつくるために設ける一般的な「吹き抜け」とは違い、この場合の「吹き抜け」は2階に設けるため、吹き抜けというよりも「大きな穴」というニュアンスに近い。
この「大きな穴」を設けることで、玄関から広がる開放的なホールが生まれ、各空間をつなぎ、家族のつながりを損ねることのない居心地の良い空間を実現させた。

当初、南原さんご夫婦が選んだのは、吹き抜けのホールがなく、2階はフラットなLDKとロフトというシンプルな構成のプランだったという。
「部屋が分断されてしまうのでは、と思いLDKの中央に大きな穴があるイメージがつかなかったのですが、ワンルームの中でも、子どもが遊べるスペースと大人がゆっくりと話せるスペースを分けられるほうが良いと井上さんからご提案いただいて、最終的には現在のプランを選びました。今は井上さんがおっしゃっていた通り、吹き抜けのホールを境にして、リビングで子どもが遊んでいるときも、ダイニングでは子どもの様子を見ながら落ち着いて話すことができています」と声を揃える南原さんご夫妻。

「個々の居場所をゆるやかに分けながらも、各空間、家族がつながる住まい」という快適な居場所感と家のつながり感の同居を追求した井上さん。
こだわったポイントのひとつには、「回遊性」があるという。
「見た目の美しさも大事ですが、いろんな場所に楽しさがあり、動きたくなるような家を最重視しています。今回は、大黒柱を中心とした同心円状の広がりをイメージした設計にしたことで、家の回遊性が生まれました」(井上さん)。

吹き抜けのホールを挟んだリビングの反対側にあるダイニングスペース。
吹き抜けのホールを挟んだリビングの反対側にあるダイニングスペース。
外からの視線を考慮し、微調整を重ねて配置した窓。また壁や天井の辺に合わせて配置することで、壁に光が反射し、明かりがグラデーションに広がる。
外からの視線を考慮し、微調整を重ねて配置した窓。また壁や天井の辺に合わせて配置することで、壁に光が反射し、明かりがグラデーションに広がる。
2階のリビング。3.4メートルの高い天井と4面に設けられた窓により、明るく開放感のある空間。
2階のリビング。3.4メートルの高い天井と4面に設けられた窓により、明るく開放感のある空間。
友香さんの希望で、リビングまで見通せるオープンキッチンに。「調理スペースも広いので、この場所に椅子を持ってきて、子どもと一緒にクッキーやパン作りを楽しんでいます」(友香さん)。
友香さんの希望で、リビングまで見通せるオープンキッチンに。「調理スペースも広いので、この場所に椅子を持ってきて、子どもと一緒にクッキーやパン作りを楽しんでいます」(友香さん)。
大黒柱一本で支える美しさを追求するため、あえて梁をかけず、力強く太い柱にこだわった。壁にはストライプ柄のLVL材を張った。「普通の壁紙ではためらってしまいますが、LVL材は画鋲を貼っても跡が気にならないので、これからは家族の写真や子どもの工作などを飾っていきたいなと考えています」(貴宏さん)。
大黒柱一本で支える美しさを追求するため、あえて梁をかけず、力強く太い柱にこだわった。壁にはストライプ柄のLVL材を張った。「普通の壁紙ではためらってしまいますが、LVL材は画鋲を貼っても跡が気にならないので、これからは家族の写真や子どもの工作などを飾っていきたいなと考えています」(貴宏さん)。

空間と日常風景の美しさが凝縮された家

南原さんご一家がこの家に暮らし始めてから約1ヶ月。3歳になる萌々香ちゃんは、ホールの周りをぐるぐる回ったり、階段を昇り降りして、元気いっぱいに家中を走り回っているという。  

「コロナウィルスの影響で今は家にいなければなりませんが、開放感もあり居心地も良いので、大人も子どももストレスを感じずに楽しく過ごせています。人が集まりたくなるような家というのもテーマだったので、これからは家族や友人を定期的に呼べれば良いなと思っています」(貴宏さん)。「いまだに自分の家ではなく、ペンションに泊まりに来ているような気持ちで過ごしています」(友香さん)。笑顔で語るご夫妻の姿からも、この新たな住まいでの充実した暮らしぶりが伝わってくる。

家の中央に大きな吹き抜けを設けるというアイデアによって、家族がつながる明るく開放的な住まいを実現した
IYs inc.の井上さんは「LDKに吹き抜けのホールを作るという変わった案でしたが、自分としては理想の家に限りなく近いものだったので、提案を受け入れていただいて嬉しく思っています」と振り返る。
「水面を挟んで地上や水中を覗くように1階から2階を、2階から1階を眺める感覚は普通の家にはありません。空間的な美しさとともに、日常風景の美しさや不思議な感覚が味わえ、今までにない魅力が凝縮された家が実現できました」(井上さん)。

開放感のある住まいで心地良く家族団欒の時間を重ねる南原さんご一家。家族のつながりを感じられるこの家は、萌々香ちゃんと昨年生まれた壮佑くんの成長とともに、また新たな過ごし方や居場所を示してくれることだろう。

家の中心にある天窓からは光がたっぷりと差し込む。「夜になると、月が見えることもあり、子ども達が反応するんです。もともと天窓を設けるつもりはなかったのですが、今は天窓があって良かったと感じています」と貴宏さん。
家の中心にある天窓からは光がたっぷりと差し込む。「夜になると、月が見えることもあり子ども達が反応するんです。もともと天窓を設けるつもりはなかったのですが、今は天窓があって良かったと感じています」と貴宏さん。
萌々香ちゃんもお気に入りのロフトは、現在はプレイルームとして活用している。
萌々香ちゃんもお気に入りのロフトは、現在はプレイルームとして活用している。
ロフトの窓からは、富士山が望める。
ロフトの窓からは、富士山が望める。
使い勝手や機能性を考えて「GRAFTEKT(グラフテクト)」のキッチン、「ミーレ」の食洗機を導入。「大幅に時短となって、子どもとの時間も長く持てるようになりました」と友香さん。
使い勝手や機能性を考えて「GRAFTEKT(グラフテクト)」のキッチン、「ミーレ」の食洗機を導入。「大幅に時短となって、子どもとの時間も長く持てるようになりました」と友香さん。
青空に映えるシンプルな外観。窓には日光がたっぷりと差し込む。
青空に映えるシンプルな外観。窓には日光がたっぷりと差し込む。

南原さん邸
設計 IYs inc.(イノウエヨシムラスタジオ株式会社)
施工 株式会社坂牧工務店
所在地 神奈川県川崎市
構造 木造
規模 地上2階建
延床面積 101.73㎡(ロフト除く)