Style of Life
築約30年の家をリノベーション 好きな時代のテイストで
まとめられた室内空間
10年近く探した「古い家」
「古い家を購入してリノベーションしたいと思っていた」という田中さん。10年近くの間物件を探していたが、しかし漠然と「古い家」というわけではなく、「80年代から90年代前半くらいまでの家がいいなと思っていた」という。田中さんはフォルクスワーゲンのゴルフⅡを専門に扱う会社を経営しているが、家もちょうどそのゴルフⅡと同程度の年代のものを探されたということらしい。
購入した家をどのようにリノベーションするかは夫妻ともに「漠然としか考えてなくて当初は具体的なイメージがなく」建築家の土田さんと打ち合わせをしながら決めていければと考えていたという。
しかし最初から伝えていたことがあった。家にサーバーを置いてビールを飲みたい、家に人を呼びたい、そして人が来たときに泊められるスペースがあったらいい・・・こうした話をベースとしつつ具体的な空間の話へと移行していった。
1階の土間と柱
1階はリビング以外の場所を土間的な扱いにして玄関の左側のダイニングキッチンのスペースと右側にあるゲストルームなどの床にフレキシブルボードが張られている。これは田中さんの趣味のひとつである自転車が生活の一部のようになっていることを考慮した結果。現在所有している8台のうちの1、2台を室内に入れているが、きれいにつくられた床では扱いに神経を使ってしまいストレスにもなることから選択されたものという。
「もともとある柱がけっこういい柱だからそれを残して見せていこうという話をされたときに “おお、それはいいね”と」。こう田中さんが話すのはリビングとダイニングの境付近に立つ7本の柱だ。ふつうであれば狭いスペースに不自然に残ってしまったふうに見えかねないこの7本の木柱には「家の周囲にある雑木林みたいな雰囲気で残せたら」との設計の思いが込められているが、意図通り、これが田中邸の1階の空間のデザインポイントのひとつとなっている。
長く延びるカウンター
もうひとつのポイントは、この7本の柱に隣接してつくられたダイニングキッチンのスペース。田中さんはビールサーバーを置きたいという気持ちを伝えていたが、そのほかは奥さん任せ。広さと動線のほか、「対面式にカウンターをつくってキッチンとは高さの差を出したい」とのリクエストも奥さんから出されたものだった。すぐ背後にある柱との距離やカウンターの幅や高さなどの調整に苦労した末にできたのが、業務用のキッチンと平行してダイニング部分が窓まで延びた現状のスタイルだ。
場所により気分が変わる
住み始めてから1年半とちょっと。1階を広くぶち抜いて一室空間のようにしているわりには床の素材が違ったり、梁の並び方が違う部分があったりなどして場所によって受ける印象がかなり違う。田中さんはそれが気に入っているという。「人が来たときにまずリビングのほうのテーブルで飲んで、それからバーカウンターの方に移ると“気分が変わるからこれだけで2次会っぽい感じになるね”って」
それからこんなことも話してくれた。「ふつうの家を買ってふつうに住むわけではないので住み始めたら想定外のことがいろいろと出てくるのではないかと思っていたんですが、これが意外とないんです」。続けて「それは土田さんがこういう感じが好みだろうと予想しつつ、わたしと話をしていく中でやはりそうかと確認された部分がかなりあったのでは」と推測する。
このあたりを土田さんに確認すると、田中さんの推測通りで要望を聞き出すとともに田中さんの話や生活ぶりから好きなそうなテイストをくみ取っていったという。さらに「田中さんから依頼をいただいてこちらで当たり前のようにしていった部分がひとつありました。田中さんはゴルフⅡを仕事で扱われていますが、ゴルフⅡの時代は車がすごく良かった時代で、これはイコール工業が良かった時代でもあった。そこで素材は工業製品的なものをセレクトしてそのまま使うようにしていきました」とも。
テーブルの脚にスチールを使い外壁材に使われるものを棚板にしたり合板をそのまま仕上げに使っているのがそうだし、既存の柱や梁をそのまま現しで見せるというのも材を工業製品としてとらえているからだそうだ。田中さんが「想定外のことがない」と感じた理由のひとつはそのあたりにあるのだろう。つまり、好きな時代・テイストのものに囲まれてしっくりと落ち着けるからではないだろうか。
田中邸
設計 no.555一級建築士事務所
撮影 小山俊一
所在地 東京都町田市
構造 木造
規模 地上2階