Style of Life

築約30年の家をリノベーション 好きな時代のテイストで
まとめられた室内空間

築約30年の家をリノベーション 好きな時代のテイストで まとめられた室内空間

10年近く探した「古い家」

「古い家を購入してリノベーションしたいと思っていた」という田中さん。10年近くの間物件を探していたが、しかし漠然と「古い家」というわけではなく、「80年代から90年代前半くらいまでの家がいいなと思っていた」という。田中さんはフォルクスワーゲンのゴルフⅡを専門に扱う会社を経営しているが、家もちょうどそのゴルフⅡと同程度の年代のものを探されたということらしい。

田中邸は築30年ほどの家のリノベーション。階段のあたりを境に1階は土間的な扱いの部分と通常の床の部分とにわかれる。右奥にゲストルーム、その手前に玄関がある。左の木の床の部分がリビング。
田中邸は築30年ほどの家のリノベーション。階段のあたりを境に1階は土間的な扱いの部分と通常の床の部分とにわかれる。右奥にゲストルーム、その手前に玄関がある。左の木の床の部分がリビング。

購入した家をどのようにリノベーションするかは夫妻ともに「漠然としか考えてなくて当初は具体的なイメージがなく」建築家の土田さんと打ち合わせをしながら決めていければと考えていたという。

しかし最初から伝えていたことがあった。家にサーバーを置いてビールを飲みたい、家に人を呼びたい、そして人が来たときに泊められるスペースがあったらいい・・・こうした話をベースとしつつ具体的な空間の話へと移行していった。

土地が少し高くなっているため大きく開いた開口から遠方までの景色を楽しむことができる。
土地が少し高くなっているため大きく開いた開口から遠方までの景色を楽しむことができる。

1階の土間と柱

1階はリビング以外の場所を土間的な扱いにして玄関の左側のダイニングキッチンのスペースと右側にあるゲストルームなどの床にフレキシブルボードが張られている。これは田中さんの趣味のひとつである自転車が生活の一部のようになっていることを考慮した結果。現在所有している8台のうちの1、2台を室内に入れているが、きれいにつくられた床では扱いに神経を使ってしまいストレスにもなることから選択されたものという。

リビングには途中でリクエストして仕事のスペースを確保した。梁と柱の納まりの関係が通常とは異なるところがあり現場で工事監督と打ち合わせをしながら検討・対応していったという。
リビングには途中でリクエストして仕事のスペースを確保した。梁と柱の納まりの関係が通常とは異なるところがあり現場で工事監督と打ち合わせをしながら検討・対応していったという。

「もともとある柱がけっこういい柱だからそれを残して見せていこうという話をされたときに “おお、それはいいね”と」。こう田中さんが話すのはリビングとダイニングの境付近に立つ7本の柱だ。ふつうであれば狭いスペースに不自然に残ってしまったふうに見えかねないこの7本の木柱には「家の周囲にある雑木林みたいな雰囲気で残せたら」との設計の思いが込められているが、意図通り、これが田中邸の1階の空間のデザインポイントのひとつとなっている。

リビングから奥にダイニングキッチンを見る。間にある7本の柱が通常の住宅にはない空気感をつくり出している。ダイニングにはバー用のスツールが置かれている。
リビングから奥にダイニングキッチンを見る。間にある7本の柱が通常の住宅にはない空気感をつくり出している。ダイニングにはバー用のスツールが置かれている。

長く延びるカウンター

もうひとつのポイントは、この7本の柱に隣接してつくられたダイニングキッチンのスペース。田中さんはビールサーバーを置きたいという気持ちを伝えていたが、そのほかは奥さん任せ。広さと動線のほか、「対面式にカウンターをつくってキッチンとは高さの差を出したい」とのリクエストも奥さんから出されたものだった。すぐ背後にある柱との距離やカウンターの幅や高さなどの調整に苦労した末にできたのが、業務用のキッチンと平行してダイニング部分が窓まで延びた現状のスタイルだ。

2段ベッドの置かれたゲストルーム。無駄なモノのまったくないシンプルなつくり。左がトイレ。
2段ベッドの置かれたゲストルーム。無駄なモノのまったくないシンプルなつくり。左がトイレ。
バーのようなカウンターと業務用のキッチンが平行して配置されている。現しになった梁の向きが途中で切り替わる。
バーのようなカウンターと業務用のキッチンが平行して配置されている。現しになった梁の向きが途中で切り替わる。

場所により気分が変わる

住み始めてから1年半とちょっと。1階を広くぶち抜いて一室空間のようにしているわりには床の素材が違ったり、梁の並び方が違う部分があったりなどして場所によって受ける印象がかなり違う。田中さんはそれが気に入っているという。「人が来たときにまずリビングのほうのテーブルで飲んで、それからバーカウンターの方に移ると“気分が変わるからこれだけで2次会っぽい感じになるね”って」

それからこんなことも話してくれた。「ふつうの家を買ってふつうに住むわけではないので住み始めたら想定外のことがいろいろと出てくるのではないかと思っていたんですが、これが意外とないんです」。続けて「それは土田さんがこういう感じが好みだろうと予想しつつ、わたしと話をしていく中でやはりそうかと確認された部分がかなりあったのでは」と推測する。

1階の階段下につくられたトイレ。扉に貼られたサインの文字が一昔前のスタイルで空間にマッチしている。
1階の階段下につくられたトイレ。扉に貼られたサインの文字が一昔前のスタイルで空間にマッチしている。
2階の浴室などの水回りスペースも余計なモノのないシンプルなデザイン。
2階の浴室などの水回りスペースも余計なモノのないシンプルなデザイン。
2階の天井と壁は既存のものを白く塗装したのみ。床は張り替えている。左は階段。
2階の天井と壁は既存のものを白く塗装したのみ。床は張り替えている。左は階段。

このあたりを土田さんに確認すると、田中さんの推測通りで要望を聞き出すとともに田中さんの話や生活ぶりから好きなそうなテイストをくみ取っていったという。さらに「田中さんから依頼をいただいてこちらで当たり前のようにしていった部分がひとつありました。田中さんはゴルフⅡを仕事で扱われていますが、ゴルフⅡの時代は車がすごく良かった時代で、これはイコール工業が良かった時代でもあった。そこで素材は工業製品的なものをセレクトしてそのまま使うようにしていきました」とも。

テーブルの脚にスチールを使い外壁材に使われるものを棚板にしたり合板をそのまま仕上げに使っているのがそうだし、既存の柱や梁をそのまま現しで見せるというのも材を工業製品としてとらえているからだそうだ。田中さんが「想定外のことがない」と感じた理由のひとつはそのあたりにあるのだろう。つまり、好きな時代・テイストのものに囲まれてしっくりと落ち着けるからではないだろうか。

スイッチは“工業製品っぽさ”が前面に出るように既製品と製作品を組み合わせた。
スイッチは“工業製品っぽさ”が前面に出るように既製品と製作品を組み合わせた。
テーブルの脚にはスチールを使用。アルミでもステンレスでもなくスチールにしたのは“重み”を出したかったため。
テーブルの脚にはスチールを使用。アルミでもステンレスでもなくスチールにしたのは“重み”を出したかったため。
ゴルフⅡのミニカーが載るのはリビングのセメント板でつくられた棚板。
ゴルフⅡのミニカーが載るのはリビングのセメント板でつくられた棚板。
カウンターには合板をそのまま仕上げに使った。
カウンターには合板をそのまま仕上げに使った。
ゲストルームの2段ベッドに立てかけられた梯子。これ以上ないシンプルなデザイン。
ゲストルームの2段ベッドに立てかけられた梯子。これ以上ないシンプルなデザイン。
セメント板を鉢植えにした植物を置く台としても使っている。
セメント板を鉢植えにした植物を置く台としても使っている。

田中邸
設計 no.555一級建築士事務所
撮影 小山俊一
所在地 東京都町田市
構造 木造
規模 地上2階