Style of Life

心地よい居場所が点在体感できる広さを追求した
スキップフロアの家

体感的な広さを追求 計算され尽くしたスキップフロアが 暮らしに楽しみをもたらす

土地に出会う前から仮の図面を作成

バイクや釣り、キャンプ、サーフィン…と多彩な趣味を持つ、デザインユニット『トネリコ』の君塚賢さん。都内有数の広さを持つ公園を有した住宅街でありながら、幹線道路や高速道路のインターチェンジも近い利便性に富んだ世田谷の地に、昨年自邸を建てた。
「十数年前からこの近くの中古マンションに住んでいました。そのときどきの生活スタイルに合わせて3回リノベーションして暮らしていましたが、子どもが大きくなったこともあり移ることに。僕は外遊びが好きなので、山や川、海へと車で出かけるのに便利なこの辺りから離れたくなかったのです。最初はマンションを探していましたが、高騰していてなかなか良い物件がなくて。むしろ土地のほうがそれほど上がっていなかったため、戸建てを考え始めたんです。希望の条件を盛り込んで戸建てを建てたらどのくらいの敷地面積が必要か、“仮の図面”を描いてみることで、30坪はないと住みたい家は厳しいということがわかりました」。
偶然出会ったというこの土地は、準防火地域の角地。通常この辺りは、建蔽率50%、容積率100%だが、耐火建築物を建てることで準防火地域と角地の緩和措置を併用して建蔽率は20%プラスされた。
「ここの敷地面積は25坪ほどですが、建蔽率が70%建てられることがわかり、仮の図面で考えていたことが実現できるのではないかと思ったのです。勝手に現調したもので再度図面を引いてみて、“これははまる”と確信し、購入を決めました」。

東南の角地に建つ。出入口を2方向使用できることも購入の決め手に。「玄関とガレージの場所を分けられなければ、マンションのほうが良いと思っていました」(賢さん)。
東南の角地に建つ。出入口を2方向使用できることも購入の決め手に。「玄関とガレージの場所を分けられなければ、マンションのほうが良いと思っていました」(賢さん)。
板塀の内側には、四季を意識できるジューンベリーの木を中心に考えられた前庭が広がる。
板塀の内側には、四季を意識できるジューンベリーの木を中心に考えられた前庭が広がる。
賢さんの愛車『ゲレンデヴァーゲン』の車高に合わせてガレージを設計。ダイニング・キッチンの下に位置する。
賢さんの愛車『ゲレンデヴァーゲン』の車高に合わせてガレージを設計。ダイニング・キッチンの下に位置する。
ガレージの奥は賢さんの“秘密基地”。趣味のバイクやサーフボードのお手入れ、キャンプの準備など休日はここで過ごすことが多いそう。室内から続く浮造り仕上げの天井が贅沢。
ガレージの奥は賢さんの“秘密基地”。趣味のバイクやサーフボードのお手入れ、キャンプの準備など休日はここで過ごすことが多いそう。室内から続く浮造り仕上げの天井が贅沢。

空間を立体的に。巧みなフロア構成

限られた敷地を有効活用するため、スキップフロアを採用。エントランスを入るとまず200mm下がり、寝室はさらに400mm下がっている。この合計600mmの段差は、寝室の上に位置する2階のリビングの天井高2800mmをキープするため。また、ガレージの上に位置するダイニングがリビングより800mm高いのは、賢さんの愛車が収まるガレージの高さから導かれたものだ。さらに、子ども部屋は、ダイニングから続く廊下から400mm下がる。下に位置する1階の洗面室やバスルームに高い天井は不要のため、その分コンパクトな子ども部屋の天井高を確保している。
「空間を立体的にとらえ、面積ではなく体積で考えていきました。それぞれの空間が心地よく感じられるよう天井高や広さを設定。さらに、リビングやダイニング、子ども部屋など各部屋での行動や目線の動きを想像し、光の入り方や風の抜け、借景を取り込んでいます」。

動線の先には窓を設け、目線が抜けるように設計した。また、床のフローリングに使用した浮造り仕上げの栗の木を壁や天井(1階)にも採用し、連続性をもたせた。ボリュームの異なる高低差で変化をつけ、段差を利用した開口で奥行を出すなど、細部まで計算され尽くした空間は、体感的な広さを実現している。

天井高を確保するため、リビングはダイニングより低めに設定。ダイニングの下がガレージ。元気に育っている“バキラ”は、賢さんが独身時代に小さなポットで購入したもの。「人が集まるところが好きみたいなので(笑)、リビングに置いています」。
天井高を確保するため、リビングはダイニングより低めに設定。ダイニングの下がガレージ。元気に育っている“バキラ”は、賢さんが独身時代に小さなポットで購入したもの。「人が集まるところが好きみたいなので(笑)、リビングに置いています」。
板塀に囲まれた前庭に面した寝室は、玄関から600mm掘り下げた。緑に癒される落ち着いた空間に。
板塀に囲まれた前庭に面した寝室は、玄関から600mm掘り下げた。緑に癒される落ち着いた空間に。
「街と一拍置きたかった」と、板塀内に前庭やベンチを設けた。ベンチは、玄関の外部から内部へとつながり、視線も通す。
「街と一拍置きたかった」と、板塀内に前庭やベンチを設けた。ベンチは、玄関の外部から内部へとつながり、視線も通す。
寝室を掘り下げたことで生まれた上部の段差を開口にし、光と視線の抜けを取り入れた。奥のガレージに続く部分はガラスにし、奥行を演出。
寝室を掘り下げたことで生まれた上部の段差を開口にし、光と視線の抜けを取り入れた。奥のガレージに続く部分はガラスにし、奥行を演出。
足触りのよい浮造り仕上げの栗の木を床だけでなく、壁や天井にも採用。経年変化が楽しめるのも魅力。
足触りのよい浮造り仕上げの栗の木を床だけでなく、壁や天井にも採用。経年変化が楽しめるのも魅力。
前庭へと抜けを造ったバスルーム。趣のある檜の風呂蓋はふるさと納税の返礼品で、オーダーメイドしたもの。
前庭へと抜けを造ったバスルーム。趣のある檜の風呂蓋はふるさと納税の返礼品で、オーダーメイドしたもの。
バスルームを使用していても洗面台が使えるように、トイレ側(奥)と、バスルーム側(手前)に2か所設けた。
バスルームを使用していても洗面台が使えるように、トイレ側(奥)と、バスルーム側(手前)に2か所設けた。
「外出時に着ていたものを一時的にかけられるオープンなクロークが欲しかった」と、玄関近くに設置。コロナ禍になり、手洗い場が重宝。
「外出時に着ていたものを一時的にかけられるオープンなクロークが欲しかった」と、玄関近くに設置。コロナ禍になり、手洗い場が重宝。

人を招くことを前提に

「人を招くことが好き」という君塚さん夫妻。コロナ禍による自粛生活前は、毎週末のように友人たちが集まっていたこともあり、新しい家もそれを前提に設計した。
「キッチンは誰でも入りやすいよう開かれたものにしたくて、対面式を希望しました。レンジフードもあえて真ん中につけました」とは、妻の奈々子さん。
キッチン側は200mm堀り下げ、カウンターに座る人と目線を合わせ、コミュニケーションを取りやすくした。

また、「ビアガーデンをしたいという構想もありました」とは、賢さん。3階に広いテラスを造ることは戸建てを建てるうえで必須だったという。
「この辺りは、歩いてくると家に囲まれていますが、3階のレベルになると奥の森の木へと視線が抜け、富士山も眺めることができます。この抜けの良さもこの土地を決めたポイントですね」(賢さん)。
グリーンに囲まれた広々としたテラスには、飲食をする際の使い勝手を考えてシンクをつけた。板張りの塀で視線を遮っているため、周囲を気にせず楽しむことができる。
「住み始めたのが昨年の4月で、最初の緊急事態宣言が出たときでした。そのため、なかなか人を呼べず、まだ本領発揮していません。楽しみは取っておこうと思います(笑)」(奈々子さん)。

造作のキッチンカウンターは円形のダイニングテーブルと同様の人工大理石。「キッチンに立っていると全体が見渡せて気持ちいいです」と奈々子さん。目線の高さも合い、会話も弾む。
造作のキッチンカウンターは円形のダイニングテーブルと同様の人工大理石。「キッチンに立っていると全体が見渡せて気持ちいいです」と奈々子さん。目線の高さも合い、会話も弾む。
『アルヴァ・アアルト』のスツールは奈々子さんのお気に入り。「これを置くことを前提にカウンターを造作しました」。シンクは下げて手元を隠した。イチェア。スツールを置くことを前提に造作した、人工大理石のカウンター。シンクは下げて手元を隠した。
『アルヴァ・アアルト』のスツールは奈々子さんのお気に入り。「これを置くことを前提にカウンターを造作しました」。シンクは下げて手元を隠した。
『無印良品』のバスケットを入れることを想定してデザインした収納。普段は見せたくない電子レンジなどは引き戸で隠すことができる。
『無印良品』のバスケットを入れることを想定してデザインした収納。普段は見せたくない電子レンジなどは引き戸で隠すことができる。
3階へと続く、キャンチレバーのミニマルな階段。階段を昇っているとトップライトから空に視線が抜け、まるで空に向かっているよう。
3階へと続く、キャンチレバーのミニマルな階段。階段を昇っているとトップライトから空に視線が抜け、まるで空に向かっているよう。
トップライトからたっぷりの光が降り注ぐ3階。グラフィックデザイナーの奈々子さんの仕事場所でもある。全開できる扉の奥が広々としたテラス。
トップライトからたっぷりの光が降り注ぐ3階。グラフィックデザイナーの奈々子さんの仕事場所でもある。全開できる扉の奥が広々としたテラス。
板塀に囲まれた、緑豊富な心地よいテラス。「ビアガーデンをする日が待ち遠しいです」と賢さん。
板塀に囲まれた、緑豊富な心地よいテラス。「ビアガーデンをする日が待ち遠しいです」と賢さん。
「家族でコミュニケーションを取る場」というリビングにはテレビはなく、エタノールの暖炉がさりげなく置かれている。バックの白い壁にプロジェクターで映画を映し出し、家族で鑑賞することもある。
「家族でコミュニケーションを取る場」というリビングにはテレビはなく、エタノールの暖炉がさりげなく置かれている。バックの白い壁にプロジェクターで映画を映し出し、家族で鑑賞することもある。

大らかに暮らせる自在空間

造作のソファが置かれたリビングから数段上がった子ども部屋の前の廊下は、通常の廊下よりも広めにとった多目的なスペース。
「子ども部屋をミニマムにしているため、子どもたちにとってはここが第2の部屋です。机代わりにして本を広げたり、腰掛けて読書したり。壁にプロジェクターで映し出した映画を観る時には、ソファのクッションを取り外してゴロンと寝転がったりも。自由に過ごしていますね」(賢さん)

ダイニングに置かれたアームチェアは、『トネリコ』がアーティゾン美術館(東京都中央区)のためにデザインしたもの。賢さんの師であるデザイナーの内田繁氏の椅子をオマージュしたものであり、座り心地も抜群である。ここに座って見上げると、吹き抜けを介して3階フロアのトップライトから空へと視線が抜け、開放感に包まれる。

「一度、スタッフの方たちがいらしたとき、ソファや椅子だけでなく、階段や段差などいろいろなところに座っていたのが面白かったですね」と奈々子さん。
思い思いに過ごせる場所がそこここにあり、それぞれ見える景色も変わる君塚邸は、自由度が高く、暮らしの楽しみを運んでくれる。
「また数年経つと状況が変わるかもしれませんが、僕ら家族の今の生活では、戸建てのこの状態がベストです。今ではマンションは考えられませんね。素材の経年変化とともに生活の変化を楽しみ、そのときどきのベストを考えながら暮らしていきたいですね」(賢さん)。

3階から2階を見下ろす。スキップフロアの楽しい構成がよくわかる。階段の手すりとアームチェアの脚とは同じ太さにし、統一感をもたらしている。
3階から2階を見下ろす。スキップフロアの楽しい構成がよくわかる。階段の手すりとアームチェアの脚とは同じ太さにし、統一感をもたらしている。
リビングの窓からは、前庭から伸びたジューンベリーの樹が楽しめる。ユニークな掛け時計は、イタリアの巨匠・ガエタノ・ペッシェの作品。丸太のテーブルは『トネリコ』の米谷ひろし氏から譲り受けたもの。
リビングの窓からは、前庭から伸びたジューンベリーの樹が楽しめる。ユニークな掛け時計は、イタリアの巨匠・ガエタノ・ペッシェの作品。丸太のテーブルは『トネリコ』の米谷ひろし氏から譲り受けたもの。
廊下より400mm下げた子ども部屋。左側が中2の娘さん、右側が小5の息子さんの部屋。それぞれ好きな色でベッドをペインティングした。真ん中の壁は簡単に外せるため、いずれは一部屋にすることも可能。
廊下より400mm下げた子ども部屋。左側が中2の娘さん、右側が小5の息子さんの部屋。それぞれ好きな色でベッドをペインティングした。真ん中の壁は簡単に外せるため、いずれは一部屋にすることも可能。
『トネリコ』の代表作、フロアランプ『MEMENTO』。光を灯すと、空間全体に光のアートが拡散される。
『トネリコ』の代表作、フロアランプ『MEMENTO』。光を灯すと、空間全体に光のアートが拡散される。
コンセントは表に出ないよう工夫して設計。ここでは造作ソファの中に設置し、右側のスピーカーともつないでいる。スマホ立ても『トネリコ』のオリジナル。
コンセントは表に出ないよう工夫して設計。ここでは造作ソファの中に設置し、右側のスピーカーともつないでいる。スマホ立ても『トネリコ』のオリジナル。
調光スイッチも隠して設置。子どもたちがよく見るという給食メニューや学校行事等の書類は扉の中に貼り、表は常にすっきり。
調光スイッチも隠して設置。子どもたちがよく見るという給食メニューや学校行事等の書類は扉の中に貼り、表は常にすっきり。