Style of Life
プライバシーと開放感を両立 二重の凸型形状がもたらす
起伏ある大空間
辿り着いたのは「凸凸型」の家
テトリスのピースを連想させる凸型の外観が印象的なS邸。Sさん夫妻と3歳の長男、1歳の長女の4人家族が暮らすこの家が完成したのは約2年半前のこと。「以前は賃貸アパートの2LDKに住んでいました。当時はまだ子どもが生まれていませんでしたが、いずれは戸建てでのびのびと暮らしたいと考えていました」と振り返るご主人。夫婦で建売住宅を見学していくうちに徐々に新たな住まいへの要望が定まっていき、自由設計の家づくりを決意したという。
S邸の設計を担当したのは設計事務所「IYs inc.(イノウエヨシムラスタジオ株式会社)」の井上亮さんと吉村明さん。「IYsさんと家づくりを行っていた職場の同僚からの紹介がきっかけで依頼することになりました。家づくりについては知らないことばかりだったので、土地探しからご相談させていただきました」とご主人。
S邸が建つのは、三方を道路に囲まれた半島状の変形地。周囲を住宅に囲まれていることから、いかにして外からの視線を遮り、開放感のある心地よい空間をつくるかがポイントとなった。
「いくつものプランを作成して検討を重ねた結果、この凸型の形状に決まりました。台形型の敷地形状に合わせて、凸型を二重にした「凸凸型」に雁行させることで南東・南西面に空地を作り、光や風を取り込むことができます。また、周囲からの視線が対面しないように角度をずらして配置しています」(井上さん)。
光と風が通り抜ける、起伏のある大空間
ロフトまで続く吹き抜けによって開放的な大空間となっている1階LDK。「家族の様子がわかるように」という奥さまの要望もあり、キッチンからは1階全体を見渡すことができる。また、水回りはキッチンの裏側にまとめ、キッチンとリビングの両方向から、ぐるりと回ることができる利便性のよい生活動線を確保した。
意匠面では、「木の素材感を大事にしたい」という希望を持っていたご主人。存在感のある現しの柱や梁、窓枠など随所に木を使い、温もりのある空間を実現した。「柱や梁などは完成時、明るい色合いをしていたのですが、年月を経て、濃い色に変わってきています。床のオークの色合いともマッチして、統一感が出てきました」(井上さん)。
明るい光と風が通り抜ける開放感たっぷりのS邸。設計の際には、採光の面も考慮し、慎重に調整を行ったという。「この敷地は、南側の方へ段々と土地の高さが上がっていくため、日当たりがとても心配でした。そのため、敷地や近隣の住宅の模型を作成し、実際にライトを当てて、日当たりを何度も検討しましたね」と井上さんは微笑む。
バリエーションが生み出す空間の広がり
プライバシーを確保しながらも、開放感のある心地よい家を実現したIYsの井上さんと吉村さん。
「三方向から光が入るため、どこにいても明るい空間が続き、まるで公園の中にいるような不思議な感覚がありました。平面の広さに加え、凸型の形状や段差、回遊性によって内部空間にもバリエーションが生まれ、実際の空間以上の体感的な広さにつながったのではないかと思います」と完成当時を振り返る井上さん。
竣工から2年半の間に起きたコロナ禍においても、快適な毎日を過ごしているというSさん一家。「以前の住まいのまま、コロナ禍になっていたら大変だっただろうね、と妻ともよく話します。子ども達が家中を走り回って遊んでいるのを見ると、この家を建てて、本当に良かったなとつくづく思います」と語るご主人。これから先、家族の成長とともに変わりゆく暮らしにも、この住まいは寄り添っていくことだろう。
施工 株式会社坂牧工務店
意匠設計 Inoue Yoshimura studio Inc.(イノウエヨシムラスタジオ株式会社)
構造設計 川田知典構造設計
所在地 神奈川県横浜市
構造 木造
規模 地上2階建
延床面積 約129㎡