Architecture
猫にも人間にも楽しい家づくり幅1.8mの空間に段差を作って
いろんな居場所をつくり出す
さらに、家の内部を構成する段差についてOさんはこう話す。「敷地がとても狭いので床を普通に平らにしてしまうと何もなくなってしまう。それで段差をいっぱいつくったほうが楽しいんじゃないかと」
猫と人間の居場所をつくる
段差というのは3階程度の高さの空間につくられた8つの床のレベルから生まれる高低差のこと。この段差による空間の縦方向の変化が自然と楽しい空気感をもたらしているが、こうした空間構成とするのにはOさんが目指した“楽しさ”とは異なる理由もあったという。設計を担当した建築家の相原さんはそれをこう説明する。
「居場所みたいなのを探すのがお2人とも上手で、普通に椅子に座ってテーブルに向かっているだけではなくて、ちょっと階段に腰かけて本を読んだりとかするような自由な感じがあった。そこから、段差をつくっていろんな居場所をつくるという方向に向かっていた感じもありましたね」
実際、O夫妻は大の猫好きで、“こはだ”と“めかぶ”という名の雌猫を飼っていてとてもかわいがっているが、猫好きな人に多い、猫のために何か大きな空間的工夫をするという発想はなかったという。猫のためでもあるし人間のためでもあるようなスペースをつくっていったら、猫にも人間にも楽しい場所になっていった、そんな感じだったという。
狭小空間ゆえの工夫
段差は敷地が狭いということからもたらされたアイデアでもあったが、この段差が楽しさだけでなく視線の抜けや光が差し込む隙間をつくり出して、横幅1.8mの空間でも窮屈な思いをすることなく心地よく過ごせることに大きく貢献している。
心地よさということではまた開口の存在も大きい。地下以外では左右の壁に一切窓がないこの家では、道路側の2階と3階に製作限度ぎりぎりの大きなサイズの特注サッシを入れてある。横幅一杯の開口をつくるというアイデアは建築家によるものだが、Oさんもこのアイデアに大いに賛同して窓を小さく割るのではなく大きな1枚の窓の実現にこだわったという。
狭い空間ながらの工夫がさらにもうひとつ。通常であればそれなりのスペースを要する本棚をスチールで階段と一体にしてつくり省スペースを図っているのだ。この一体感がこの階段室を親密な空気感をもった空間にしてお2人と猫たちにさらなる居場所を提供している。
そしてOさんは……。「ふとんで猫と戯れているのが好きですね。あと、めかぶさんが外に出せって屋上に行きたがるので、屋上に連れてくと空を見てニャーッとずっと鳴き続ける。その時に屋上に座ってボーっとしているのも好きですね」。猫目線という表現に思わず納得の答えが返ってきたのだった。
設計 YUUA建築設計事務所
所在地 東京都
構造 鉄骨造
規模 地上3階地下1階
延床面積 80.42m2